突撃
あの新聞は内容に問題があるとして朝のうちに全て撤去された。
だがもちろん撤去されたところでそのことが話題から消えるわけでもない。むしろ、撤去されたことで話題性が上がったまでもある。
ようやくほとぼりが冷めてきて、普段通りの日常が帰ってくると思った矢先、事態は最悪と言っていいほど再加熱した。
「普通涼風さんと仲いいのに他の女子の家まで行くか?」
「いや、俺なら絶対行かないわ。欲張りすぎじゃね?」
教室では俺に聞こえるように言っているのかは定かではないが、ひそひそとそんな声が聞こえてくる。
新聞に載った写真は美琴先輩の顔は分からないような写真のため、美琴先輩に迷惑はかけないのが唯一の救いだった。
「涼風さん、大丈夫?」
「何の話ですか?」
「あの新聞のことで・・・」
「ああ、あのことなら私は全く気にしてないので、心配していただかなくて結構ですよ」
俺とは反対に瑞希には心配する声が掛けられていた。
俺みたいに責めるような声がなくて良かった。だが、瑞希の返答は気づかれないギリギリだが、少し苛立ちを含んでいるように感じた。
でも新聞部はどうやってあの写真を撮ったんだ?
俺のことを記事にするために尾行していたとか? いや、尾行するならもっと瑞希との仲が学校中に広まった時にするはずだし、それからずっと尾行しているとは考えにくい。
それなら本当に偶然その現場に鉢合わせただけなのか? 本当にそうなら相当俺は運が悪い。
***
放課後になり、俺は少しでも早くこの居心地の悪い空間から逃げようと身支度を整えていた。
「向こうの方が本命なら、涼風さんには近づくなよ。涼風さんが可哀そうだろ」
「ほんとだよな。涼風さんが友達なら女子の誰とも話さない自信あるわ」
また男子たちの話し声が聞こえる。ここで俺がなにか言い返しても火に油を注ぐだけ。これも耐えてればすぐに忘れて、また日常に戻るはず。
俺は聞こえなかったふりをして、立ち上がろうとしたとき、瑞希が近くにいた女子に話しかける声が聞こえた。
「新聞部の活動日っていつか知ってるかしら?」
「えっとー確か、月曜日と金曜日だった気するけど・・・」
「ありがとう」
「それより、今日は月曜日で涼風さんのバスケ部もお休みだったよね。帰りに・・・」
「ごめんなさい。今日は外せない用事があって」
「そっか、それならしょうがないよね」
これはやばい。誰にも気づかれてはいないようだが、あの表情はだいぶお怒りになっているときの表情だ。
それに今日瑞希に外せない用事なんかない。
「明日は月曜日で部活もないし、久しぶりに家でゴロゴロしながら司でもからかおーっと」
「おい、俺をからかうのを予定に組み込むな」
とか昨日言ってたくらいだ。
特に用事がなければ、好感度を保つために女子に付き合っている瑞希がこれはおかしい。
「じゃあ私はこれで」
「うん、じゃあね涼風さん」
席を立って、教室を出ていく瑞希の後をそっと俺は追いかけた。
「なにストーキングしてんの?」
「遥紀か。ストーキングじゃない。ただ瑞希の様子がおかしかったから、ちょっと様子見てるだけだ」
「面白そうじゃん。俺も行こ」
2人で後を追っていると、瑞希は迷いなく歩みを進め、部室棟に入って行った。階段を上り目的の階に到着すると、その1番奥の部屋には新聞部という文字が見えた。
あいつ新聞部に直接カチコミに行く気だ。
「ちょいちょいちょい!」
「あっ・・・!」
俺は瑞希が新聞部に到着するより前に、急いで隣の空き部屋に瑞希を引っ張った。
「あれ、司と黒瀬君じゃん。どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃない。何する気だよ」
「何するってもちろん、新聞部にちょっと物申しにね。まさか司達も同じ用事なの?」
「そんなわけあるか」
なんでそんな野蛮な考え方なんだよ。
「お前は優等生キャラで通ってるんだからそんな変な真似すんなよ」
「だって、あれはやりすぎじゃん!」
「それはそうだけど・・・」
「だから強行突破一択です!」
あ、これはダメだ。止められないやつだ。
「じゃ、じゃあ俺達も一緒に行くから!あと瑞希は極力話さないこと!分かった?」
「・・・・・・まぁ」
なんでそんなに不満そうなんだよ。
流石にこのままで瑞希だけ行かせたら暴走しかねないので止めるのは諦めて、俺達も同行することにした。
そして、意を決して新聞部の扉をノックすると、扉が開かれた。
「何の用事ですか?」
中から出てきたのは高校2年生の女子生徒だった。
「あの・・・」
「あの!今日の新聞書いたのは誰ですか!?ちょっとお話したいことがあるのですが!」
言葉を選びながら発した俺の言葉は瑞希の言葉にあっという間に打ち消された。
あんまり話さないでって言ったじゃん。
140話も読んでいただきありがとうございます。
更新空いてしまって申し訳ありませんでした。
次話はそこまでお待たせすることなく更新する予定です。
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