本当
そして、迎えた翌日の昼休み。
「涼風さん、今日お昼一緒に食べていい?」
「いいですよ。でも、その前に少し用事があるので、その後でもいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
瑞希はそう言った後、静かに席を立って、佐々木さんに声を掛ける。
「佐々木さん、ちょっとお話したいんだけど、お時間いいですか?」
「え、うん。いいけど・・・」
「じゃあ、こちらに」
瑞希は佐々木さんと一緒に教室を後にした。
俺も気づかれないようにそっと教室を出て、後を追った。
「単刀直入に言わせてもらいます。あの噂をこれ以上広めないでいただきたいのです」
「噂って涼風さんと早乙女君とのやつ?」
「はい、そうです」
瑞希の特別な友達宣言で噂は校内でだいぶ拡散されてしまったが、まだ昨日の出来事だ。
元を絶って、さらにそこから否定してもらえば、ある程度は終息するはずだ。
「それに、私と早乙女君は付き合っていませんから、否定してもらえると助かります」
その言葉を聞くと、なんだか佐々木さんはピンと来ていない表情を浮かべた。
「うん、涼風さんがやめて欲しいって言うなら、これ以上その話はしないし、デマだって周りには言うけど、それみんなにお願いしてるの?」
「いえ、佐々木さんにだけお願いしています」
「なんで私だけ?」
「佐々木さんが私と早乙女君がマンションに入るところを目撃していたというのを聞きましたから、佐々木さんが初めに噂を広めたのだと思ったからです」
「その噂初めに広めたの私じゃないよ」
「えっ!?」
俺同様、瑞希も予想外の返答だったのか、一瞬優等生モードが解けた。
「確かに私は2人が一緒に入って行くところ見たけど、見間違いかもしれなかったし、見間違いじゃなくても、わざわざ私からみんなに広める気はなかったよ。私が学校に来た頃にはその話が出回ってたんだよ」
「そ、そうなんですか。疑ってしまい申し訳ありません」
「謝らないで。私もクラスでその話しちゃったのは本当だし、本当にごめん。しっかりみんなには違うって言っておくから」
噂の元凶は佐々木さんではなかった。
そもそも少し気になる点はあった。初詣を目撃されたのに実際にその噂が学校で広まったのは昨日のことだ。
佐々木さんが元々そのつもりなら始業式の日にこの噂が持ち上がったはずなのだ。
じゃあ、この噂はいったい誰から・・・?
「わっ!」
「うおっ!びっくりした!」
考え込んでいると後ろから急に無邪気な声で驚かされた。
「えっ、あっ、すみません。そんなに驚いてくれるとは思ってなくて」
「自分でやっといて、謝るな」
俺を驚かしたのは俺の後輩、水上希だった。
「いつも冷静な司先輩がそんなに驚くなんて思わないじゃないですか?」
「俺に聞くな、そんなん知らん」
「で、そんなに驚くってことはなにに集中してたんですか?この先に面白いものでもあるんですか?」
「ちょっと!」
曲がり角から顔を出し、瑞希と佐々木さんが話していた廊下を覗く。
「なーんだ、特に面白いものないじゃないですか」
俺も慌ててもう一度覗くと、そこには2人の姿はなく、すでに教室に戻ったらしい。
危うく瑞希のストーカー扱いされるところだった。まぁしてたっちゃしてたけど。
「それで、何の用事だ?」
「たまたま見かけただけです。用事がなくちゃ話しかけちゃダメなんですか?」
「いやいや、そういうわけじゃないけど」
「あ、そう言えば今日の朝なんかおかしなことを聞いたんですよね」
「おかしなこと?」
「なんか涼風先輩と司先輩が付き合ってるとかなんとか。そんなわけないじゃないですか」
もう下の学年まで回り始めているのか。これは消火活動に苦労するぞ。
「そ、そうだな~」
やばい、普通に否定するはずが少し思うところがあって、自分でも怪しい感じになってしまった。
「う、うそ!まさか本当になんですか!?」
「違うって、付き合ってないから」
「急に冷静になって否定したって怪しいです!」
じゃあどうしたらいいんだよ。
「文化祭の時も一緒に回りましたもんね。そういう事だったんですか。あの時から仲良くなって今では付き合ってるってことですか」
あからさまに声のトーンが落ちる。
瑞希は男子だけじゃなく女子にも人気が高い。同性でも瑞希に彼氏が出来ると嫌だって言うやつはいっぱいいる。
希も瑞希のファンなのか。
「いや、だから違うって」
希のどんどん加速していく妄想を止めなければ、1年の間でも最悪の噂が広まってしまう。
「本当ですか?」
「本当だ」
「本当に本当ですか?」
「本当に本当だ」
「本当に本当に本当ですか?」
「本当に本当に本当だ」
「本当に本当に本当に・・・」
「だから本当だって!」
何回本当言わす気だ。ゲシュタルト崩壊起こりそうだぞ。
「司先輩は私を騙したりしませんよね?」
希はうるうるしながら聞いてくる。
そんなに心配なのかよ。
「ああ、俺は希を騙したりしない」
今回嘘は言っていない。俺と瑞希は付き合っていないのだから。
「やっぱりデマだったんですね。良かったです」
ようやく機嫌を直してくれたようだ。
「じゃあこれまで通り司先輩の所に行ってもいいんですね」
「いや、それは控えてくれると」
「なんでですか!絶対行きますから!」
そう言って、希はクラスメイトに呼ばれて、俺の元を後にした。
時刻を確認すると昼休みは半分以上過ぎていて、昼飯を食べる時間が無くなってきていた。
俺は仕方なく早足で居心地の悪い教室に戻ると、教室には俺の予想と反した雰囲気が流れていた。
135話も読んでいただきありがとうございます。
現在は違いますが、皆様の応援のおかげで現実世界恋愛日間ランキング1位を再び取ることが出来ました!(2025/06/05夜のランキング)
本当にありがとうございます。
噂を流したのはいったい誰なのか、そしてその理由は・・・?
そんなところにも注目して読んでいただけると幸いです。
これからも応援よろしくお願いします。