序章
「というわけで、早乙女君?あの日はどういうことなのかな?」
「え~っと・・・それは・・・」
ここで否定したって信じてくれないだろうし、いっそ同居のことまで言うしかないのか?
いやいや、流石にそれはまずいし、どうすれば・・・
「ねぇ、どうなの?涼風さん。早乙女君と付き合ってるの?」
俺の煮え切らない態度に痺れを切らした女子が、隣の席にいた瑞希に真相を確かめようと聞いた。
「いえ、付き合ってませんよ」
「でも・・・」
「早乙女君とは両親の仲が良くて、初詣の際に早乙女君のお母様から着物をお借りしただけです」
「それくらい仲がいいなら、早乙女君と・・・」
「じゃあ、あなたは異性の家に入ったら、必ずその人と付き合ってるということなんですか?」
「いや、そう言う事じゃないけど・・・」
あまりにもはっきりと言う瑞希の姿に気圧されたのか、何も言い返せなくなってしまったようだった。
「では、分かっていただけたと思いますので、そういうことで」
***
「助けてくれるって言ったのに知らん顔しやがって」
「あれは仕方ないじゃん。そもそも司が見られたのは昨日のことだって言ってたのに情報が間違ってたんだから、自業自得だ」
「それは・・・その通りです」
ちょっとした騒動が瑞希の言葉で沈黙を見せた後、俺は遥紀を連れて、人目のつかない場所で昼食を取っていた。
「でも、良かったじゃん。涼風さんのおかげで何とかなりそうで」
「これからどうしていけばいいんだ」
「もう耐えるしかないんじゃない?別に付き合ってるのは否定できたし、人の噂も七十五日って言うじゃん」
「七十五日も待てるかよ・・・」
***
「あれ・・・?」
昼休みから戻ってきて、教室の扉を開けると今朝と同じ既視感を覚えた。
いや、感じられる感情は今朝よりひどい気がする。
なんでみんなこっち向いてるの?あの件はもう収集ついたよね?
それなのにみんな俺を取って食おうかみたいな顔してるし。
「はーい、それじゃあ授業始めるぞー」
昼休みも終わり、杉本先生が教室に入ってくると、俺は何が何だか分からないまま授業が始まっていく。
瑞希の方を見ると、なぜか誇らしげな顔してるし。
「今日は前回に引き続き、プレゼンの準備だからしっかりペアと準備しろよー」
「なんか、大変なことになっちゃってるね」
湊が状況が掴めてない俺に優しく声を掛けてくれる。
「そうなんだよ、ある程度終息したと思ったのに。なんで、こんなに注目を集めてんだよ」
「ああ、司はあの後教室出てっちゃったから、知らないんだ」
「え、なになに?何があったの?」
新たな目撃情報があって、いよいよバレたとか!?
「あの後、『じゃあ早乙女君とは何もないんだよね?』って聞いた女子がいたんだけどね、それに涼風さんが『早乙女君とは友達ですよ。特別な』って答えたんだよ」
みずきぃぃぃぃ! 仲間だと思ってたのに!
お前が爆弾落としてたのかよ!
「みんな、『何もない』って言うと思ってたから、多分この視線はその時のものじゃないかなぁ~」
それで皆さん僕を刺すような目線なんですね。
これからの学校生活、七十五日これで過ごすの?
「もう生きていけない」
「本当に涼風さんとは付き合ってないんだよね?」
「うん、そうだよ。湊も信じられない?」
こんな状態、普通は信じられないよな。
「司がそういうなら僕は信じるよ」
「信じてくれるのか?」
「もちろん。俺はそもそも涼風さんは可愛いと思うけど、付き合いたいってほどじゃないから、素直に司の言葉を信じられるよ」
「湊ぉ、めっちゃいい奴だなぁ」
「それほどでもないよ」
誰にも信じてもらえなかったのに湊はあっさり信じてもらえて、なんだか涙が出そうだった。湊、いいやつ。
それにしても瑞希と付き合いたいと思っていない男子なんて、この学校に存在したんだな。
***
「ただいまぁー、ん?どしたの、わざわざお出迎えなんかしちゃって」
「おかえり。ちょっとここに座りなさい」
俺は瑞希が帰ってくると、リビングの扉を開けてすぐのところに陣取って、問い詰めることにした。
「心当たりはあるよな?」
「いや~ないけど~」
こいつ、しらばっくれやがって。
「せっかく少し静まりかけたのに、再度火に油を注ぎやがって」
「でも元々静めたのは私じゃん!それに私なんか間違ったこと言ったかな?私と司は友達だよね?特別な!」
それはその通り。この関係は単なる友達というには少し度が過ぎている。
「間違ってないから問題なんだよ」
「でも、噂を広めたのって誰なの?」
「おそらく、うちのクラスの佐々木さんだ。俺達が一緒に入って行くところ見たって教室で言ってたし」
「じゃあ明日、私から佐々木さんにこれ以上広めないでって言ってみるよ。私からのお願いなら聞いてもらえそうだし。もう遅い感はあるけど、これ以上広めないためにもね」
「頼んだぞ」
俺はこの時、今回の騒動は終息の一途を辿っているように見えたが、それはまだまだ足元だけで、この先に控えている展開は知る由もなかった。
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