災難
「おう遥紀、偶然だな。あれ鞄は?」
この日俺が学校に到着すると、遥紀と下駄箱でちょうど出会った。
だけど遥紀の肩には鞄がかかっておらず、なんだか少し困っているような顔をしていた。
「いや、ちょっと問題発生しててな。先に知らせとこうと思って」
「なんのことだ?」
「噂になってるんだよ」
「なんの?」
「司と涼風さんのことが」
「えっ・・・」
履き替えようとした上履きが思わず手から落ちる。
「どう・・・して?」
「どうやら2人が一緒に同じマンションに入って行くのを見たやつがいたらしい」
迂闊だった。
初めの方は気を付けていたことも、同居が始まって半年以上が経過していて、バレてこなかったのが原因で気が緩んでいた。
「昨日のことか・・・」
スーパーでたまたま会って、そのまま一緒に帰ったところを見られてしまった。
急ぎ足で教室に向かいその扉を開けると、クラスメイトの視線が一斉にこちらに視線が向くのが分かった。
いつもよりクラスがざわついていて、どうやら噂の真偽を疑っているらしい。
「ねぇ、その噂ほんとなの?」
「本当だよ。私も見たんだって、早乙女君と涼風さんが一緒のマンション入って行くところ」
「え!じゃあ、ほんとに付き合ってるってこと!?」
クラスの女子の佐々木さんにどうやら見られてしまっていたらしい。
それにしても、噂ってのは俺と瑞希が付き合ってるって内容なのか。
付き合ってはないし、それ自体は否定できるけど一緒に入ったのは本当だし、それを見られている以上、信じてもらえるかどうか・・・
「おーいHR始めるぞー、席つけー」
ちょうどいいタイミングで杉本先生が教室に入ってくる。
先生の指示で各々が席に着くおかげで、騒がしかった教室が静まり返るが、視線だけは未だに感じる。
瑞希の方をちらっと見てみると、平静を装っているが、明らかに動揺している。
まだ遠慮してクラスメイトは直接聞いてこないが、それも時間の問題だろう。
瑞希と打合せしようにも注目を集めている今は、少しでも不審な動きを見せれば誰かの目に留まり、言い逃れが出来なくなってしまう。
ここは頼れる俺の親友に助けを求めるしかない!
俺は藁にもすがる思いで遥紀を見ると、遥紀もこちらに気づいたようで目線だけの以心伝心が始まる。
『お願いっ!助けて!』
『えー、明らかにめんどくさそうじゃん。もういっそ全部白状しちゃえば?』
『そんなことしたらこれからの学校生活生きていけないって!』
『しょうがないなぁ、でも流石にノーダメとはいかないぞ?』
『神様!遥紀様!ありがとうございます!』
俺が弁明をしても嘘くさくなってしまう、第三者を挟むことで説得力が増すということだ。
それにしても高校2年生で遥紀には何度助けてもらっただろうか。
絶対恩返ししないとな。
***
「なぁ、早乙女、あのうわさってマジなん?」
やっぱり来たか。
昼休みに差し掛かると、とうとう耐え切れなくなったのか、直接聞かれてしまった。
「あの噂?」
「涼風さんと付き合ってるってやつ。まさかホントじゃないよな?」
ギラっと品定めするような目つきをしている。ひゃー怖い。
「ほんとなわけないじゃん」
「じゃあなんで一緒にマンション入ったりするんだ?」
瑞希は一見、気にしていないように澄ました顔をしているが、こちらの様子を不安そうにちらちらと黒目を動かしている。
「それは~」
「それはあれだよ、俺が頼んだんだよ」
「黒瀬が?」
以心伝心で打ち合わせした通り、遥紀が助けに来てくれた。ありがとう!大好き!
「実はさ、俺と司と涼風さんは同じ予備校行っててさ、そこで大きなテストあるから、塾のやつみんなで司の家で勉強会開いたんだよ。涼風さんには先生として頼み込んで来てもらったってわけ」
「あ~なるほどな」
流石遥紀。
俺も瑞希も遥紀も誰1人、予備校なんて行ってやしないのに、全くの嘘を繰り広げた。
瑞希が俺の家に入ったことを認めてしまうが、これなら俺以外にもいたことになるし、たまたま会場が俺の家だったってだけで、俺へのヘイトはかなり減るはずだ。
「でもさ、おんなじマンション入った時は、涼風さん着物着てたってやつがいるんだけど?」
あ、まずい。
『おい!昨日って話じゃないのかよ!なんで浴衣なんで着てるんだよ!』
遥紀が焦った様子で目で訴えかけてくる。
『昨日の話じゃなくて、初詣の帰りを見られてたっぽい』
それにしてもなんで、今更になってこの話が話題になるんだ? 初詣のことなら新学期早々、噂になってもおかしくなかったのに。
でも、遥紀なら何とかこの事態にも機転を利かして・・・
「えっ!そうなんだ~俺知らなかったわ。いつの間に涼風さんとそんなに仲良くなったんだよ~?」
終わった。完全に遥紀に見捨てられました。
133話も読んでいただきありがとうございます。
なんとこの度、第240回「今日の一冊」にて本作品を紹介していただきました!
皆さまの応援のおかげで実現することが出来ました。
本当にありがとうございます。
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