目撃
「なあなあ最近、湊と仲良くない?」
「まぁそうだな」
遥紀は休み時間になると俺の席まで来てそんなことを言いだす。
「俺はさ、嬉しいんだよ」
「何が?」
「今までぼっちだった司に俺以外の友達が出来て」
「おい、喧嘩売ってんのか」
「なになに、俺の話?」
隣にいた湊がこの話を聞きつけたのか、話に入ってくる。
「そうそう、ありがとな、湊」
「え?何が?」
湊もなんとこっちゃピンと来ていない様子だった。
「いや、いいんだ。湊は純粋なままでいてくれ」
「俺が不純みたいな言い方するな」
***
「今日からペアに分かれてプレゼン準備な。そんで再来週の授業で発表してもらうからな。ペアはえーっと、くじを引きにしようと思ったけどめんどくさいから好きなやつと組んでいいぞ」
杉本先生がそう言うと、クラスメイトは席を立ったり近くのやつと続々とペアを組み始める。
俺はこういう時はいつも遥紀となのでそちらの方に視線を向けると、遥紀はいつもより多くのクラスメイトに囲まれてお誘いを受けているようだった。
俺と違って遥紀は人気者なのでお誘いは来ているようなのだが、今までは俺と組むために断ってくれていた。
だけど今回、2年も終盤になってさらに人気を集めた遥紀は男子のみならず女子からの誘いも加わって、その誘い全てを断りにくそうな顔をしていた。
これまで俺のために断ってくれていたのがなんだか申し訳なくなり、俺は目線で『他の人と組んでいいよ』とサインを送った。
さてと、そうしたはいいものの俺と組んでくれる人なんているのか?
余り物になって泣く泣く先生に言われるがまま、他のペアに3人目として入れてもらうなんて御免だぞ。
「司やらない?」
「えっ?」
意外にも声を掛けてくれたのは隣の席にいた湊だった。
「いいのか?」
湊も遥紀同様、人気者で引く手数多なので、そんな湊自ら誘ってくれるとは思ってもみなかった。
「うん、もちろん。ペア探しているようだったし、司ともっと仲良くなりたいと思ってたから」
「湊・・・いい奴だな!」
「えっ、あ、うん、そう?」
俺の感動しすぎている姿に湊は若干引きながらも俺とペアを組んでくれることになった。
「じゃあ今日の残りの時間はペアワークだから。しっかり準備しとけよー」
ペアと話しながら準備を進めていく時間になり、教室全体がガヤガヤとしだす。
「じゃあ俺らも始めるか」
***
「ここどんな感じにすればいいかな?」
「あーそこはこの色だと分かりにくいからこっちの色を使った方がいいんじゃないか?」
「あ、確かに!」
湊とのペアワークは順調に進んでいき、授業時間ももう少しのところに差し掛かった。
「ねえねえ」
「ん?なんだ?」
今まで左隣の席にいる湊と話していたが、いきなり右隣からちょんちょんとされる。
遥紀でも移動してきたか?とか思いながら振り向くとそこには普通に瑞希が話しかけてきていた。
「ここさ、先生なんて言ってたっけ?」
「???」
口調も普通だし、突然優等生キャラ辞めたの?
「ん?・・・・・・あっ!」
俺が戸惑いを隠せない表情を浮かべていると瑞希もその表情を見て何かがおかしいことに気づいたようだった。
今度は小さい声で瑞希が話始める。
「・・・忘れてた。隣に司がいるから普通に家にいる感覚で話してしまいました」
「そう言うことか、しっかりしろよ。頼むぞ」
周りを見てもこれと言ってこっちを見ている様子もない。瑞希のペアもちょうど先生に何かを聞きに行っているようで席にいなかった。
今がペアワークの時間で良かった。このざわざわが無ければ普通に会話を聞かれてばれていたことだろう。
瑞希はすっと俺から離れて何事もなかったかのように自分の作業を再開する。
良かったぁーと内心思いながら俺も体勢を直すと湊がこちらを見ていることに気づいた。
「なんか、あった?」
心臓がドクドクと鼓動を打ち始めるのを自覚しながら聞いた。
「・・・司と涼風さんって仲いいの?」
やばい!
「もしかして、今の会話聞こえた?」
「いや、断片的にしか聞こえなかったけど、涼風さんから男子に話しかけに行くの珍しいなって思って」
「い、一応隣の席だからね。挨拶したことあるくらいで、今のはただの業務連絡というか・・・」
少し苦しかったか?
「あ、そうなんだ。ごめんね、変なこと聞いて」
あっぶねえ!湊が純粋で助かった。
***
それからは何事もなく学校が終わって、放課後になった。
「俺、今日スーパー寄ってくからこっちだわ」
「ああ、そっか。それじゃあな」
今日の夕食の食材を買おうとスーパーに入ると、そこには見知った顔がいた。
「あれ?司じゃん。なんでここにいるの?」
「それはこっちのセリフだよ」
「昨日言ったじゃん。今日部活オフになったから今日の晩御飯と明日の晩御飯当番交換してって」
「あ、そうだった」
「もう私買い物終わるから、一緒に帰ろ?」
「おう」
***
「もぉー、司ったら抜けてるんだから」
「瑞希には言われたくない」
「あ、そうだった」
「瑞希のせいで授業中なのに変な冷や汗出たわ」
「あはは、ごめん」
「笑い事じゃないって。今回は平気だったけど、次に学校で変なことやったらホントにバレるからな?」
「分かってるって。やりませんー」
「絶対分かってないだろ」
俺達はそうやって談笑しながら自宅であるマンションに入って行った。
「・・・・・・・・・」
132話も読んでいただきありがとうございます。
前話にリアクション(いいね)がたくさん来て、嬉しかったです。こんなに貰ったのは90話くらいぶりです。本当にありがとうございます。
さて、次話は大変長らくお待たせした展開がついに・・・!という感じです。
これからも応援よろしくお願いします。