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好き

「力加減は大丈夫ですか?」


 来てしまった以上なんだか帰りづらくて、それにちょうどいい機会かとも思って、あの提案を承諾して世森さんのマッサージを受けている。


「何が目的なんですか?」


 乗ったのは私だけど、そもそも誘ってきたのは世森さんの方からだ。何か理由があるとしか思えない。


「目的?力加減が強すぎたりするとリラックス出来ませんから」

「そうじゃなくて」


 私が問い詰めてみても、世森さんは焦った様子はなく、ひらりととぼけてみせる。だから私は苦手なんだ。


「司から私達の関係を知っていることは聞いています」

「仲いいんだね」


「!そんなんじゃないです」

「じゃあ仲良くないんだ?」


「あ、いや、そういうわけじゃないんですけど・・・」


 やばい、このままじゃずっと世森さんのペースだ。なんとか私のペースに持っていないと。


「わ、私は司と毎日一緒にいますからね!」

「え、じゃあ・・・私は水族館行ったことあるよ」


「くっ、そんなこと言ったら私は司の好きな夜ご飯とかも知ってますから」

「へぇー、それは知らないなぁー」


「そうですよね!私しか知りませんから!」


「でも、お祭り一緒に行ったときは楽しかったなぁ」

「ぐふっ」


 それ私も誘ったのに世森さんと行くからって断られたやつ。その時を思い出して、胸に大ダメージが入る。


「で、でも!鳥取まで来てくれた時は嬉しかった!」


 あんな身勝手な行動をしたのにも関わらず、司は見捨てることなく私を追いかけてきてくれた。


「それはいいなぁ」

「ですよね!」


「司君のこと好きなんでしょ?」

「!? い、いや~そういうわけじゃ・・・」


 突然の世森さんの言葉に驚いて、自分でも恥ずかしいくらい動揺してしまった。


「だって、来てくれて嬉しかったんでしょ?」

「そ、それは同居人として!です」


「そっか、そうなんだ。じゃあ、宣戦布告かと思ったけど、ここからは私の意気込みになるね」

「? 宣戦布告?」


「私は司君のこと好きだよ。誰にも負けるつもりはない」

「そ、そうなんですね」


 突然の発表は私の目から見ても、半端なものじゃないのだと分かった。


「ライバルじゃ、ないんだよね?」

「そう・・・ですね・・・」


 言えなかった。どうしてもその勇気が出なかった。


「でもさ、気を付けた方がいいかもよ?」

「気を付ける?」


「今は周りにバレてないかもしれないけど、そういうのって最近の子は凄い敏感だからいつかは司くんとのこと気づかれちゃうかもよ」

「いや~あはは。そんな敏感じゃないですよ」

「だといいけどね」


 この時は世森さんの冗談かと思ったのに、その時は意外にも早く訪れることを私はまだ知らなかった。


「じゃあさ、家での司君を教えてよ。好きな食べ物なんなの?」


 さっきまでの真面目な世森さんとは打って変わって楽しそうな表情で質問される。


「夜ご飯は唐揚げだとめっちゃ喜びますよ」


「唐揚げかぁーやっぱり男の子だなぁ」

「逆にバイトでの司も聞かせてくださいよ」


「え、いいよ~、何から聞きたい?」


 私は初めに抱いていた世森さんの警戒なんてどこへ行ったやらで話に夢中になっていった。


***


「じゃあさ、じゃあさ司君って寝相どう?」

「寝相ですか?寝相は別に悪くないと思いますよ。むしろ私がちょっと悪いくらい」


「そうなんだ、一緒に寝たことあるんだ」

「いや!リビングでうたた寝してるとこ見ただけですよ」


「ほんとかなぁ?ほんとに好きじゃないのかなぁ?」


 あ、今のこの感じなら私が司を好きなことを言えるかも。


「ほ、本当は私も・・・」


 私が本音を打ち明けそうになった瞬間、ピピピッっとタイマーが鳴り、マッサージ終了の音が聞こえてきた。


「あ、ごめんね。なんか言いそうになってたけどなんだった?」

「言い直すことでもないので気にしないでください」


 また言うタイミングを逃してしまった。


 それから言うタイミングは再び来ることなくその後の流れは進んでいった。


「それじゃあまたね」

「はい。今日はありがとうございました」


 私は結局世森さんには打ち明けることなくお店を後にした。




「なんか世森さん、さっきのお客さんとやけに親しそうじゃなかった?初指名だよね、知り合い?」

「いえ。ただ、共通の好きがあるだけですよ」


***


 帰り道、さっきの堂々と司が好きだと言う世森さんを思い出した。


 私は少し羨ましいなと思った。


 桜井さんもそうだけど、こうやって自分の気持ちをはっきり言える人が。


 そりゃ私の気持ちも負けてないぞって思ってるけど、こうやってはっきり気持ちを言えない自分なんかより司のことを好きなんじゃないかって思うときもある。


 自分自身の気持ちを疑ってしまう。


 はぁーあ、私の気持ちってあんまり強くないのかなぁ。


「ただいまー」


 落ち込んだ気持ちを抱えながらリビングへ通じる扉を開ける。


「おかえり」


 司が私の方を向いて、優しく微笑む。


「っ・・・!」

「どうした?」


 リビングで座っていた司はいつもの何回も見た司なのに、今日はなんだか違って見えた。


「つかさぁ~~~!!!」

「おいおいおい!急にどうした!?くっつくな!」


 私の気持ちが弱いわけない。負けるとかじゃない。これは、私だけが見た司の、私だけの持っている好きの気持ちだ。

131話も読んでいただきありがとうございます。

次話はそれほどお待たせすることなく更新します。

これからも応援よろしくお願いします。

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私の美琴さんが…あぁ…幸せ… 何回もコメ送ってスミマセン
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