対峙
「ねえねえ、今日の席替えで隣になったね」
俺がソファでくつろいでいると、瑞希がだいぶご機嫌な様子で俺に話しかけてきた。
「お前のせいで今日怒られたからな」
「えー、だってそれは司が勝手に怒ったんじゃん」
瑞希は悪びれる様子もなく俺をからかうように言う。
「瑞希なぁ、俺にちょっかいかけるのは良いけど、やりすぎるとバレるぞ」
いくら席の1番後ろだからって、隣にいる湊や前の席にいるクラスメイトがこっちを向かないとは限らない。
「それは、分かってるよ。でもさ、せっかく隣になったんだよ?何かしないと損じゃん」
「損じゃないわ」
お前、いつも家で俺のことからかってくるくせにまだ足りんのか。
「でも新しい席って、すっごく目立つじゃん。真ん中の一番後ろだよ。前の席とかより後ろの席の方が実は全然見られるんだよ。今回の席が一番先生が見る場所だからちぇ~と思ってちょっかいかけてみた」
「ちぇ~って理由で人をからかうんじゃない」
「でも、友達出来て良かったじゃん」
「友達?」
「隣の席の子」
「あぁ、湊のことか」
「そそ、湊君。あの子すっごく可愛くて女子から人気あるんだよね」
湊は男子なのにも関わらず、それに似合わないほど可愛い顔をしている。一瞬だけなら女子と見間違えてしまうほどだ。
そのため女子からまるで同性のような接し方をされていて大変人気である。
「私あんまり湊君のこと知らないんだよね。というか、しっかり話したことないかも」
「えっ、クラスでそんな奴いるのか?」
瑞希は学校で話しかけられると嫌な顔せずに対応している。それは異性でも変わらない。
男子でも丁寧に対応しているその様子を見て、学年の男子、ひいてはクラスの男子は全員1度くらいは瑞希と会話がしたいがために話しかけたことがあるはずだ。
「そんなことは言うけど、私司とも話したことなかったけどね」
「それは、まぁ・・・そういうやつもいるってことよ・・・」
俺なんかが話しかけた所でお近づきになれるなんてまさかその時は思ってもみなかっただけだ。
「それは置いといてだ。明日からは絶対にちょっかい掛けてくるなよ」
「はぁーい。頑張りまぁーす」
絶対に守る気がないなこいつ。
***
「げっ」
翌朝、俺が登校すると瑞希の周りに女子たちがわらわらと集まっていて、隣の俺の席が埋め尽くされていた。
これ言うの気まずいんだよなぁー
「皆さん、早乙女君が困っていますので少し道を開けてくれますか?」
「あ、ごめんなさい、涼風さん」
俺の登校に気づいたらしい瑞希がなんとも優等生らしい仕草で周りの女子に注意をする。
謝るのは俺にじゃないのかよとかは思ったけど、どいてくれたんだし、良しとするか。
「おーい、お前ら席つけー」
そのタイミングで担任の杉本先生も教室に入ってきて、皆が自分の席に戻りだす。
俺もそれに続いて席に座ると瑞希が手を伸ばして、ちょいっと俺の机を瑞希の方に少し寄せた。
その動作に不覚にも少しどきっとしてしまった。
瑞希はどうせ女子たちのせいでずれた席の位置を責任をもって直してくれただけなんだろうけど・・・あれ?別に位置的に言えばさっきの位置で良かったような・・・
じゃあ、あれって・・・? 俺の近くが・・・?
でも、こういうのは少しのずれも許さない他の男子たちが黙ってない。休み時間になったら『涼風さんと近い!』とかバッシングを食らいそうなので、惜しかったが、席を元の位置に戻さざるを得なかった。
ごめんな、瑞希。俺の近くが良かったんだろうけど・・・
「チッ、少しでも真ん中に寄せて先生の視線を受けてもらうと思ったのに」
なんだかすっごく怖い言葉が隣から聞こえた気がする。
気のせいだよな?きっと気のせいだ。
・・・俺のときめきを返せ!
「なんだか、疲れた顔してない?」
俺がときめきを奪われてぐったりしていると今度は反対側の席の湊が心配そうな顔を覗かせる。
「いや、大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」
瑞希にしてやられたなんて言えないので咄嗟に誤魔化す。
「もー、しっかり寝ないとダメじゃん。心配するじゃん」
女子にも負けないその可愛い顔は俺の乾いた心を潤した。
「はぁー、こっちの方が癒されるなぁ!」
敢えて瑞希に聞こえるように大きな声で言ってみた。
どうだ、お前は男子である湊以下だ!
すると、俺の背後、瑞希の方から無言の圧力、殺気とも呼べるほどの気迫を感じた。
「・・・湊助けて」
「何の話?」
***
「いらっしゃいませー」
今日は司のマッサージを受けるためにりらホットにやってきた。
受付にいた、まだ見たことのなかったスタッフが対応してくれる。
「ご指名などございますか?」
「つか・・・早乙女さんで」
いつもは基本的に司が受付にいるのに珍しいなぁーとか思っていると、
「本日は早乙女は不在でして・・・」
あ、そうだったー!そう言えば出勤日が明日に変わったって言ってたんだった。
「あ、じゃあえーっと・・・」
どうしよう、司がいないんじゃ指名する人もいないし、なんて考えていると奥から綺麗な女性が出てきた。
「じゃあ私にしときませんか?もちろん指名料はいりませんよ」
この人は、私が個人的に苦手としている、そして司を誑かす世森さんだ。
世森さんは私と目が合うと、少し不気味なようで私を試すような笑顔を作った。
130話も読んでいただきありがとうございます。
美琴先輩のこの笑顔・・・次回何かが起きます。
これからも応援よろしくお願いします。