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隣同士

「これから三学期が始まりますが、三年生はこれから一般受験の季節になり、二年生は受験という領域に本格的に入ってきます。一年生は春から新入生が入ってくるため・・・」


 始業式が始まり、体育館に集められた俺達は案の定、永遠かと思われる校長の話を聞いている。


 この前の瑞希の話を思い出し、瑞希の方をちらっと見てみることにした。


 瑞希は校長が話し始めてから結構な時間が経ってるのにも関わらず、ピクリとも動くことなく人形みたいにそこに佇んでいた。


 俺が瑞希を見ていると、向こうもこっちに気づいたみたいで視線だけこちらに合わせてきた。


 瑞希は黒目だけを動かして俺に『こっち見てないで前を向け』的なメッセージを送ってくる。


 俺は気づいていないふりをして、瑞希の様子を観察し続けると、とうとう見られているのに我慢が出来なくなったのか、今までピクリとも動いてなかった首が少しだけ動いて俺に先ほどの指示をしてくる。


 そんなこんなのやり取りをしているといつの間にか校長の話は終わっていて、教室に戻るようにと指示が出された。


***


 始業式も終わり、あとはホームルームで終わりなると、担任の杉本先生は少しだるそうに言う。


「はい!始業式も終わって今日は別にやることもないから、これで終わったっていいんだが、学期初めだしあれやっとくか」

「よっしゃぁ!」「ふぉぉ!」「よしっきた!」


 その言葉と共にクラス中から歓声というか喜びの声が上がる。


 杉本先生が言ったあれとは席替えのことである。


 杉本先生は結構めんどくさがりな性格の先生なため、席替えというイベントは年に数回しか開催されない。


 そのため、この席替えというイベントはこのクラスにとって一大イベントと言える。


「よ~し、じゃあ今から順番に前に来て、くじを引いてってくれ」


 クラス中から喜びの声が聞こえるわけだが、俺はそこまで嬉しいわけではない。


 前回の席替えでたまたま遥紀の近くを引けたわけだが、流石に今回もというと確率が低い。


 遥紀がいなかったら俺は基本的にはぼっちなので、とうとう来てしまったかという気持ちだった。


 前の席のやつから、教卓に置いてある箱から1つ紙を取り、そこに書いてある数字と黒板に書いてある座席表に書いてある数字を確かめていく。


 がやがやした雰囲気でクラスメイトが着々とくじを引いていき、席がどんどん確定していく。


 すると、途中まで楽しそうな雰囲気だったのにも関わらず、瑞希の順番になると、クラスが自然と静まり返った。


 くじを引き終わった奴からは俺の近くに来いって感じと、終わってない奴からはなるべくまだ空いているところに行ってくれ、という強い願望がひしひしと感じられる。


 緊張の中、瑞希がくじを引き、紙に書かれた番号と座席表を照らし合わせていると、席の1番前にいた女子が瑞希に声を掛けた。


「涼風さん、何番だった?」

「24番です」


「まじかよ、終わった」

「しゃぁあ!俺涼風さんの1つ前だ!」


 クラスの男子は瑞希よりも早くその番号の席を特定し、悲しみの声や歓喜の声が聞こえてきた。


「あれ?司はあんま興味なさそうじゃん」

「だって、別に近くになったっていつもの瑞希じゃないし」


 教室で見る瑞希は態度が違い過ぎて、俺からしたら別人みたいなもんだ。


 優等生モードの瑞希と話したって調子が狂うし、そもそもクラスの中じゃ堂々と談笑することも出来ないので俺からしたらあまり興味のないことだった。


「ふ~ん、本当の姿を知ってるのは俺だけだから余裕たっぷりってことですね」

「おい、遥紀うるさい」


「あ、司が怒った。怖いからくじ引きに行こっと」


 ひょいと席を立って、俺の怒りから逃げるようにくじを引きに行った。


 今回、俺が1番気にしているのは、遥紀の席だ。


「おっ!11番じゃん!右後ろの方だ、ラッキー!」


 その席の近くは既に埋まっており、今回みたいに隣同士というのはもう無理だった。


 その期待だけしていた俺は少し落胆して、あまり考えることなくくじを引いて、自分の席に戻った。


「司は何番だった?」

「30番」


 あまり大きな声で言ったわけでないのだが、俺が30と口にした瞬間、周りのクラスメイトの視線が一斉に俺に向けられた。


「えっ涼風さんの隣じゃん!」

「マジで・・・?」


 瑞希の位置なんて確認していなかったが、どうやらクラス中央の1番後ろの席のようだ。そして、俺はその隣の席。


 おい、こんなことで目立つなんて御免だ!


「じゃあ、自分の引いた席に移動しろ~」


 全員がくじを引き終わり、席移動を命じられると、俺の見間違いなんかではなく俺の隣に瑞希が座った。


 瑞希はわずかにこっちを向くと、ニコッと優等生モードの解けた笑顔を向けてきた。


 俺はあわてて、逆方向を向いた。


 こんなところでその笑顔したらバレるだろうが!あと可愛いな!


 反射的に瑞希とは逆側の左側を向くと、左隣の席はあまり話したことない男子だった。


「あ、俺は早乙女司。えっとー」

「俺は湊。下の名前で湊って呼んでいいからさ」


「すまん、名前覚えてなくて」

「いいよ、あんまり話したことなかったしさ。これから仲良くなっていけばいいから」


「じゃあ、俺も司って呼んでくれ」

「おう、司。よろしくな」

「よろしく、湊」


 湊の明るい性格のおかげでこれまであまり話したことはなかったが、いきなり下の名前で呼び合うことになった。


 どうなることかと思っていた新しい席に少し安堵していると隣から俺しか聞こえなくらいの声量で笑い声がした。


 そして、俺の瑞希の間にわざとらしく物が落ち、それを拾う素振りをしながら瑞希の口が開く。


「ぷっ、もう三学期なのにまだ男子の名前覚えてなかったんだ。司ってホントぼっちだね」


 始業式の時のお返しなのか、瑞希は俺に向かって少し煽ってきた。


「おいっ!」

「どうした、早乙女?なんかあったか?」


 瑞希の煽りにここが学校ということを忘れ、いつも通りに話そうとすると、目立ってしまったようで担任から声を掛けられる。


「あ、いや、何でもないです」

「そうか、じゃあ今日のホームルームはここまで。また明日な」


 瑞希はその様子を見ると、楽しそうに口元だけを綻ばせていた。


 瑞希の隣の席になってしまった新学期に改めて不安を巡らせた。

129話も読んでいただきありがとうございます。

いよいよ始まった新学期!この席が後々重要に・・・?

これからも応援よろしくお願いします。

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