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性格

「じゃあね、司君」

「はい、送ってもらってありがとうございました」


 結局、美琴先輩はあれからどこにも寄ることなく俺を家まで送ってくれた。


「借りた服は洗濯して次のバイトで会うときに返しますから」

「・・・洗わなくていいのに」


「ダメですよ。そこまでしてもらうわけにはいきません。借りたんだからそれくらいはさせてください」

「そういうことじゃないんだけどなぁー」

「?」


「まあ、いいや。次会うのは来週の水曜日だね。またね」

「はい、今日は楽しかったです」


 美琴先輩は今日1日、なにか俺に伝えたいことがあったような気がしたが、結局行ってしまうその瞬間も打ち明けてくれることはなかった。

 

***


「おそーい」

「連絡忘れたのは謝るよ」


 どこにも寄らなかったが、あの電話からはまあまあの時間が経っていた。


 それなのに瑞希は律儀に食べずに俺を待っていたらしい。


 すると、瑞希は俺の全身を見て、何やら首をかしげた。


「あれ?そんな服だったっけ?というかそんな服持ってたっけ?」

「あ、これは借りたんだよ」


「へぇー、黒瀬君に?」

「いや、美琴先輩」

「えっ」


 瑞希の身体が突然硬直したように固くなった。


「・・・それはなんで借りたの?」

「ちょっと着て行った服が濡れちゃってさ」


「・・・濡れちゃった?水でもこぼしたの?」

「いや、水族館に行ったんだよ。シャチのショー見たらさ、水しぶきが飛んできて」


「へ、へぇー、あの先輩と2人で水族館・・・」

「ほら、これ見て、シャチのぬいぐるみ。小さくてかわいいだろ!初めて水族館に行ったけど案外楽しいもんだよな」


「・・・・・・」


 てっきりかわいいシャチのぬいぐるみを見たら、テンション高く反応するもんかと思っていたが、瑞希の返答はなかった。


「もう知らない」


 瑞希は勢いよく立ち上がり、下準備だけ終わらせてある料理を再開し始める。


 俺が遅れて帰ってきたのを不満に思っているのか、不機嫌な瑞希を諫めながら俺も料理を手伝うことにした。


***


「ねぇ、来週の月曜日からもう学校始まっちゃうんだよ?」

「そうだな」


 無事、晩ご飯の支度も終わらせ、2人で一緒に食べているとき、瑞希は来週から始まる新学期について不満をこぼした。


「そうだなって、軽くない?」

「だって、そうだな以外ないだろ」


 俺だって休みの方が嬉しいが、学校が嫌いってほどでもない。


「学校始まっちゃうんだよ!?この悠々自適生活とはもうおさらばなんだよ!?」

「悠々自適って言うけど瑞希は結構忙しかったじゃん」


 バイトだけしている俺と違って、部活にバイトに勉強と授業がないだけで瑞希はこの期間も結構忙しかったと思う。


「まぁ~ねぇ~、それはそうだけど、やっぱり学校ってぶっちゃけだるいじゃん?」

「クラスのやつが聞いたら、ひっくり返るぞ」


 あんだけ優等生なこいつが裏でこんなことを言っているなんて、誰が予想できるだろうか。


「だってさ、月曜日に始業式あるじゃん。校長話長すぎるんだよね、本当は足とかぷらぷら動かしたいんだけどさ、優等生だから一ミリを動けないのやばいんだよ」

「頑張ってるな、お前」


 少しくらいなら動いてもいいだろうけど、そこは瑞希の優等生モードのプライドが許さないんだろう。


「それにさ、担任の杉本先生も私にばっかりお願いしてくるから大変なんだよね。あいつ、私が嫌な顔しないからって何でもかんでも頼みやがって」


 学校に行きたくないところから始まったのに担任の愚痴まで発展してしまった。


「瑞希ってさ、結構愚痴とか言うよな」


 今回のケースに限った話ではなくて、瑞希は普段から結構愚痴を言う方だと思う。


 外で全く言えない分、家では口が軽くなってしまいがちなんだろう。


「えっ・・・私のこと嫌いに・・・」

「そこが良いところなんだけどな」


 俺だって性格の悪い人間だから愚痴だってたまにはこぼす。


 世の中は愚痴を全く言わない人の方が好感を持たれやすいのだろうが、俺はあまりそんな考えは持っていない。


 もちろん、大半が愚痴という人は流石に受け付けられなくなりそうだが、適度に言うくらいなら人間らしさがあっていいのではないだろうか。


 特に異性といるときは自分をよく見せようとして愚痴を言わない傾向にあると思うのだが、瑞希は俺を信用して話してくれている。


 そこにどうも魅力を感じてしまう。


「あ・・・ありがと。そんなこと初めて言われた」

「っ・・・」


 俺の言葉に瑞希は顔を逸らして小さな声であからさまに照れるような態度を取るから俺まで恥ずかしくなってしまった。


「は、はいはいこの話はもう終わりだ。食べるぞ」

「あ、もうちょっとこの話しよ!」

「絶対やだ!」


***


「おーい、司早く起きて。私もう学校行くからね」

「んっ、早いな、もう行くのか?」


 日時は過ぎ去り、瑞希が不満をこぼしていた月曜日を迎えた。


「今日は新学期初日だからね。優等生は1番に学校についておかないと」


 別にそんな決まりはないのだが、瑞希はこういうことをしっかり守る。


 この前まであんなにぐちぐち言ってたやつが、その時になるときっちり演じる。そこも瑞希の魅力だと思う。


 ぐだぐたな朝から始まった2年生最後の学期だが、この後予想だにしなかった展開のオンパレードだとはこの時の俺はまだ知らなかった。

128話も読んでいただきありがとうございます。

新学期の展開にご期待ください!

これからも応援よろしくお願いします。

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