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私の方が

 それからは、少し遅めの昼食をはさんだ後、イルカを見たり、大きなスクリーンがある水槽で魚を見たり、ウミガメを見たりと普段見られない魚や生き物を見て、水族館をめいっぱい楽しんだ。


 冬は暗くなるのが早いもんで、まだ回っていないところがあるってのに、日は落ちてきて夕暮れが見られる時間帯になった。


「美琴先輩、そろそろここも営業終わりますよ」

「えぇー、まだ司君と見たいところいっぱいあるのに」

「それは俺もありますけど、時間は時間ですから、退場ゲートのところ行きますよ」


 営業時間は残り10分程で営業終了のアナウンスが聞こえてくる。


 今から新しいところに行ったって回り切れない。


「これだけ!これだけやろっ?」


 美琴先輩が指さしていたのはすぐ近くで開催していたくじ引きだった。


 くじが空気で舞っていて、手を入れて1つをとるタイプようだ。


 景品は外れなしですべてがシャチのぬいぐるみだった。


 くじによって変わるのはサイズのようで5等では手のひらにちょこんと乗るサイズなのに対して1等は抱き枕に出来るほどに大きかった。


 これくらいならば5分程で出来るか。


「じゃあ、それだけやりましょう」

「やったっー!」


***


 初めに何が出るかとワクワクした様子で美琴先輩がくじに手を伸ばして、1つ取る。


 5等

「はい、5等はこれね」


 美琴先輩は店主からミニサイズのシャチぬいぐるみを手渡される。


 さっきまであれだけ楽しそうにしていたのに今は不満げな様子でこちらを見ている。


 まあ、くじ引きなんてこんなもんだろう。むしろ俺としては1等よりも5等の方が嬉しい。


 小さくてかわいいし、1等は大きすぎてどうしていいのか扱いに困る。


 そう思いながら、くじを1つ取った。


 1等

「兄ちゃん、凄いな!ほら、1等1番大きいやつ持っていきな!」


 いらないと思っている人にはこれが来て、いると思っている人には5等が当たるなんて、世界は時々おかしい方向に傾く。


「えっ、1等!司君すごっ!」


 美琴先輩は驚きの表情を見せたが、そのあとも視線から外れることなく、じっーっとこっちを見続けているので、なんとなく言いたいことは伝わった。


「これ、あげます」

「いいの!?」


 俺がそう言うまで目で訴え続けようとしてたでしょ。


 まぁ実際1等を当てたわけだが、本当に5等の方が欲しかったので、お互いwinwinである。


「やった。やった。やった」


 さっきまで帰るのをごねてた美琴先輩は俺から特大ぬいぐるみを貰って機嫌を直したのか、さっと退場ゲートを抜けて、帰りの車に乗り込む。


 そんな大きいぬいぐるみなんて、どうするつもりなのだろうか。


「それじゃあ、帰るよ」

「そうですね」


 2人の声には幾ばくか名残惜しさが混じっていたと思う。


***


「このまま帰ると思った?」


 車を走らせること数十分、美琴先輩が驚いたことを言いだす。


 でも、その声にはようやく言えたような、決意が籠っているような気がした。


「え、帰らないんですか?」

「実はねもう1つ寄る場所が・・・」


 その瞬間、俺の携帯の着信音がなる。


 反射的に画面を見ると瑞希から電話がかかってきているようだった。


「いいよ、電話」

「すみません」


 美琴先輩に運転してもらっているところ出るべきか少し迷ったが、せっかく促してくれたので、電話に出た。


『どうした?』

『どうしたじゃなーい!お昼くらいにどっか出て行ったと思ったら、まだ帰ってこないし!今日は夜ご飯いらないの?』


 すっかり夢中になっていて瑞希に連絡するのを忘れていた。


 瑞希に今日のことは特に伝えていないので、遥紀らへんと遊んでいると思っているだろう。それで、遅くなっているだけだと。


『ごめん、連絡するの忘れてた。夜ご飯は家で食べるよ』

『良かった。私がおなか減っちゃうから早く帰ってきてね』


『いや、俺なんか待ってないで、瑞希は先に食べてていいよ。俺はレンチンでもして食べるから』

『それじゃダメなの!待ってるから!』


 それだけ言って電話は切れてしまった。


「やっぱりこのまま帰ろっか」


 隣にいた美琴先輩には俺達の電話が聞こえていたようで、気を遣った提案をしてくれた。


「別に気にしなくても・・・」

「おなか減ってる涼風さん放っておけないからね」


「・・・すみません」

「いやいや、司君が謝ることはないよ。そもそも勝手にこんな時間まで連れ出したのは私だから。私が謝らなきゃいけないくらい」


 連絡を忘れた俺が悪く、それでも行きましょうと言えない俺に罪悪感を強く覚えた。


「この埋め合わせは必ずしますから」

「約束だぞ」


 美琴先輩は小指を差し出してきて、指切りをした。


「でも、そっか~。本当に涼風さんと住んでいるんだぁ~」

「? そうなりますね」


 美琴先輩は知っているはずなのに、ありえないこと過ぎて今まで信じていなかったのか?


 すると、いきなりスピードを上げて、走行音が比例するように大きくなる。


「私の方が好きなのに」


 俺には走行音のせいで声は聞こえず、美琴先輩の口がただ開いただけに思えた。

127話も読んでいただきありがとうございます。

次話からようやく新学期に入ります。2年最後の学期では2人に最大の問題が待ってます。2人の選択とは・・・?

これからも応援よろしくお願いします。

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