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125/143

先に

「さ、着いたよ!」

「ここって・・・」


 車で揺られること1時間ほど、美琴先輩が連れて行ってくれた場所は、千葉県の鴨川にある有名な水族館だった。


「じゃーん!水族館でした!司君、前水族館行きたいって言ってたからさ」


 今まで水族館というものには行ったことが無かった。でも魚とか哺乳類が嫌いとかではなくて、むしろ可愛くて好きだと思う。


 遥紀は魚とか水族館とかには一ミリも興味がなさそうだし、瑞希とかには魚が好きとか言ったら、『ぷっ、意外とかわいいもの好きなんだね』とか笑われそうだから、言ってない。


 1人で行くのも少し考えたけど、大好きってわけじゃないし、なんだか水族館に1人で行くのも気が進まなかった。


 この前、バイト中にこの前美琴先輩が『メダカを飼い始めたんだー』という話からつい、俺もそういうの興味あるんですよと言ったのを覚えていてくれたらしい。


「行ってみたかったんですよ」

「でしょ!行ってたもんね。だから連れてきちゃいました!」


 やけに美琴先輩が上機嫌だった。


「ほらほら!早く行くよ!」


***


「あれ?こっち入らないんですか?」

「うん、こっち」


 入場したはいいものの、一番近い建物には目もくれずに美琴先輩はてくてくと奥に進んでいく。


 園内もだいぶ奥まで来たところでお目当てがあったらしいのか、ようやく建物に入った。


「見てっ!ペンギンだよっ!」


 美琴先輩のお目当てはどうやらペンギンだったらしい。


「水族館でペンギンから見るの珍しくないですか?」


 ペンギンとかの人気のあるやつは後に取っておいて、まずは普通の魚を見に行くのが一般的だと思っていた。


 実際、水族館側も入口に近いところにはそういう魚を展示している。


「だって、ペンギン大好きなんだもん。私、好きなものは先に食べるタイプなんだ」

「なるほど」


 いきなりペンギンだったので、一応ツッコミを入れておいたが、別に順番なんて俺はどうだって良かったので、俺もペンギンから楽しむことにした。


「見て!あの一番後ろにいるペンギンめっちゃ可愛くない!?よちよちって歩いてるよ!」

「どれですか?」


「あの、列の一番後ろの子だよ!」

「・・・確かにそうですね」


 俺はあまり同意できなかった。俺の目にはそのペンギンより遥かに美琴先輩の方が可愛く映ったからだ。


「何その間、あんまり可愛く思ってないでしょ」

「思ってますよ」


「じゃあ、逆に司君はどの子が一番お気に入りなの?」


 美琴先輩にそう言われてから、改めてたくさんいるペンギンを眺めてみた。


「あの子ですね」


 俺は美琴先輩が先ほど示した列の一番前にいたペンギンを指し示した。


「あのペンギンなんか迷いとかなくてかっこいいです」


 ペンギンはテレビとか写真で見たときは可愛いなーくらいにしか思わなかったけど、こうして生で見てみると可愛いだけじゃなくて色んな感情が湧いてくる。


 俺もペンギン好きになりそうだ。


「・・・うん、そうだね。かっこいいよね」


 俺と一緒くらいの間が空いた。


「なんですか?その間は。俺と違って美琴先輩はそう思ってないんですね」

「違うから!信じてよ!」


「じゃあ、俺のさっきの間も無罪ってことでいいですか?」

「いいから!」


 こうして、美琴先輩の謎の間(おおかた、見とれていただけだが)によって、俺の無罪放免が決まった。


「じゃあ、次はシャチのショーを見に行こう!」


 美琴先輩はさっきの間からやけに焦っていた様子で、それを誤魔化すみたいにシャチのショーがやっている場所まで歩き出した。


「また、人気なシャチ・・・最後の方つまらなくなっても知らないですからね」


***


「こんな前に座っていいんですか?」


 近くに行くと、偶然にもショーはもう少しで始まるみたいで、俺達の他にお客さんはいたが、空席はまばらにあった。


 それなのに美琴先輩は後ろの方ではなく、左前方のほうに座った。


「大丈夫だよ、だってここ7列目だよ?水しぶきなんて来ないって」


 そういうもんなのか?と思う自分と完全にフラグだなと思う自分の2人が出てきた。


「それに、万が一濡れたとしても、水族館に行くということで着替え、車に置いてありますから」


 エッヘンとドヤ顔で言っている。


 別に問題はそこじゃないんだけどなと思いながら、美琴先輩がそう言うので、俺はもう何も言わずに流れに身を任せることにした。


「それでは!これよりシャチの華麗なショーが始まります!」


 いよいよショーが始まった。


 係員の開始の合図とともにシャチが姿を現し、挨拶と言わんばかりにシャチが初めに客席右側に水しぶきをプレゼントする。


 その水しぶきは強烈で10列目くらいまでは水を被っていた。


「あれ?これこっちまで来るんじゃない?まずくない?」

「だから、俺は言いましたからね。美琴先輩が悪いんですよ」


 シャチは再び水の中に体を忍ばせて、こちら側にもプレゼントをする。


 俺の後者の考えは見事的を射て、俺達2人は開始早々、水びたしになった。

125話も読んでいただきありがとうございます。

これからも応援よろしくお願いします。

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