初詣
「俺もいるよ」
遥紀も追いついて、俺の後ろからひょっこり身を出して言う。
「あ、黒瀬先輩も一緒なんですね。司先輩と涼風先輩の2人っきりかと思ってびっくりしました」
「まさか~そんなわけないじゃん」
「でも黒瀬君って涼風さんとどこか行くくらい仲良かったの?」
「いやいや、元々は俺と司の2人で来てたんだけど、この神社で涼風さんとばったり出くわして、もしよかったらって誘っただけだよ」
「なるほどね、それなら納得」
遥紀はまるで言うことを決めていたかのようにすらすらと弁明をした。
その甲斐もあってかで俺と瑞希の関係を知られることなくやり切れそうだった。
「それにしても、司先輩と涼風先輩が一緒にいるところ見たときは焦りました」
「ん?焦ったってどういうことだ?」
そりゃ学校一の美女の瑞希が俺と一緒に初詣に行ってるってのは驚くかもしれないが、焦るとはまた別の感情だろう。
「えっ!焦ったって言うのは、えーと、えーと」
「水上さん、涼風さんのファンだから司に取られちゃうんじゃないかって焦ったんだってさ」
「ですです!」
自分から瑞希にファンだと公言するのは恥ずかしかったのか、言葉に詰まっている希に代わって鈴賀が理由を話した。
瑞希にはもちろん無数の男子ファンがいるが、品行方正で通しているため、女子生徒からの人気も凄まじい。
後輩にもファンがいるとは驚きだ。流石学校一の美女と言ったところだ。
「元旦の日、私達がいくら誘っても初詣に行ってくれなかったのって、黒瀬君と約束してたからってこと?」
「まあ、そうだな。先に行ったら初詣じゃなくなっちまうからな」
俺がそう答えると隣にいた瑞希の口角が少しばかり上がった気がした。
「せっかく会えましたし、先輩方と一緒に回ってもいいですか?」
希がうるうると上目遣いをしながら聞いてくる。
これは計算してやっているのか?それとも天然でこれなのか?
どっちなのかは分からなかったが、今の俺にこれを断れるほど、肝は据わってなかった。
「・・・いいよ」
「はい、せっかくですからご一緒しましょうか」
「やったぁ!」
瑞希も了承を出した。
別に断りたいわけじゃなかったが、流れ的にも断る選択肢というものはなかった。
でも、俺は個人的に瑞希には羽を伸ばしてもらいたいと思っていたため、希と鈴賀と一緒に行動することになって、猫をかぶせたくないという気持ちはあった。
「希と鈴賀は今来たばっかりだよな?」
「うん」
「じゃあお参りに行くか」
「いいの?司は向こうから来たみたいだからお参りはもう終わってると思ったんだけど」
「おまもり買い忘れちゃったからさ」
「分かった。ありがとね」
そうして俺達は2度目の本殿まで足を運ぶことにした。
それからは5人でお祈りをして、お守りを買って、屋台をぷらぷら回った。
「私、あのスーパーボールすくいやりたいです!桜井先輩も一緒にやりましょうよ!」
「いいよ」
「じゃあ俺もやろうかな」
「じゃあ3人で誰がいっぱい取れるか勝負しましょう!」
3人の勝負を俺と瑞希は後ろで見守っていた。
屋台を堪能していると、気分は初詣に来たというか、お祭りに来た気分になっていた。
「そこのお嬢さん、めちゃくちゃ美人さんだね!一杯サービスするよ!」
「あ、ありがとうございます」
隣のドリンクを売っている屋台の主人が瑞希に声を掛けてきた。
その屋台の傍に瑞希がいるだけで道行く人が足を止めて、屋台が繁盛するのだから、そりゃサービスの1つくらいしたくなるだろう。
声を掛けられた瑞希がその屋台に足を運ぶ。
「さあ、好きなの選んでいいよ」
「じゃあ、これでお願いします」
少しすると飲み終わったのか、瑞希がその屋台からこっちに戻ってきた。
「やっぱ瑞希の人気ぶりは凄いな」
「でしょ、私クラスになるといっぱいサービスしてもらえるのです。喉が渇いてたしちょうどよかった」
小さな声でえっへんと言って、ドヤ顔を浮かべている。
「ちなみに何を飲んだんだ?」
ちらっと見た限りではその屋台には多くの種類の飲み物が用意されていた。
俺は3人が頑張ってスーパーボールすくいをしている姿を見ていたため、瑞希が飲み物を選ぶ姿を見ていなかった。
あまり瑞希がジュースを飲む姿は見ないため、どんな飲み物が好きなのか少し気になった。
「えっーっとね、なんかー豆乳みたいな色の飲み物があったから~それにしたんだけど~飲んでみたらなんだか甘かったんだ~」
出店に豆乳なんて置いてあるのか?それに豆乳はそれほど甘くない。
それになんだか瑞希の様子が少しおかしい。希と鈴賀が来たことによって猫を被ったが、それがいつもの瑞希に元通りになっているみたいだった。
気になって隣の出店に目線を移動させて、飲み物のラインナップを見た。
「まさか・・・」
「司も飲んでみなよ~、甘くてとっっっても美味しかったよぉ~」
色んな種類の中に甘酒という文字が見えた。
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