願い
「おぉー来たか。お二方」
待ち合わせ場に行くとすでに遥紀が到着していた。
結局待ち合わせには5分程遅刻してしまった。
「待たせたな」
「黒瀬君、ごめんね」
「全然待ってないから大丈夫」
「俺は時間に間に合うように支度してたんだけど、瑞希が慣れない着物なんて着ようとするから遅れたんだ。文句なら瑞希に言ってくれ」
「なんでよ!司がもう少し早く起こしてくれたら良かったじゃん!」
「十分間に合う時間に起きてただろ。朝グダグダしてたのはそっちじゃないか!」
「なんだとぉー!司だって私が着物着た方が嬉しかったでしょ!?」
「そんなこと一言も言ってないですー!」
「だってさっき着物着た私に似合って・・・むぐぅ」
俺は慌てて瑞希の口を押えた。
あんなこと恥ずかしいこと言ったなんて親友にバレたら恥ずかしすぎて何回かは死ねる。
途中で口を押えたから1番聞かれたくない最後の言葉までは聞こえてないだろうと思い、遥紀に目線を向ける。
「ふっ、いつもの2人が見れて安心したよ。でも、仲睦まじくイチャイチャするのは良いことだけど、ここは外だから出来れば2人っきりのお互い一緒の家で頼むよ」
「「イチャイチャしてない!」」
俺と瑞希の声が重なった。
「それ否定じゃなくてもっと肯定してるから」
***
「まだ結構いっぱいいるねー!」
俺達が訪れた光来神社は電車で少し揺られる距離にあり、この時期は屋台も出店されており、ここらの地域で一番賑わいのある神社だ。
いわゆる初詣と呼ばれる時期は過ぎたはずなのに光来神社に到着するとまだまだ参拝客が大勢いるようだった。
「ねぇりんご飴食べたい!」
「参拝してからな」
「はぁ~い」
本殿の方に歩いていると、異性同性関係なく、すれ違う人の視線がこちらに向く。
何といっても原因は瑞希だ。
遥紀も一般人と比べたらイケメンの域に全然入るが、瑞希は次元が違う。
おまけに今は着物を着ている。瑞希以外にも着物を着ている人はちらほら見るが隣を見るとなんだか輝き方が違うほどだと思ってしまうくらいだ。
「だいぶ注目浴びてるな」
「そりゃまあなんてったってこの瑞希さんが浴衣を着てるんだもん」
普通、物語に出てくるヒロインは大体自分の美貌には無自覚なもんだ。
それに対して瑞希は自分の美貌に完全に気づいているのである。
「だから司はこんなかわいい私を見れてもっと感謝するべきだよ」
「こんな視線を集めるなら普段着で良かった」
「ひどい!せっかく頑張って着たのに!」
「俺はその着物にあってると思うよ」
「ありがとう。ほら、黒瀬君は司なんかより素直だよ!」
俺だってさっき言っただろ。似合ってるなんかより素直な言葉を。
そんなこんなで話しながら歩いていると本殿に到着して、お賽銭を投げ入れ、願い事をする。
『今年も健康で平和に過ごせますように。・・・そして、出来ればーーー』
「ねぇ何願ったの?」
瑞希が楽しそうに聞いてくる。
「何って別に普通のことだよ。健康で平和に過ごせますようにって」
追加で頼んだ願い事はぐっとしまい込んで、俺と神様だけの秘密にした。
「ちぇーつまんないの」
願い事に楽しいもつまらないもあるか。
「じゃあ瑞希は何をお願いしたんだよ」
「わ、私は今年を健やかに過ごせますようにってかな~」
「俺のと全然変わらないじゃねえか」
「違うの~!」
どこがだよ。まんま一緒だろ。
「遥紀もそう思うよな?」
「う~ん、まあ、ある意味一緒かな?」
「ほら!」
「もうこの話は終わり!りんご飴のところ行くよ!」
瑞希から聞いてきたのに、自分が詰められて言い返せなくなった瑞希は逃げるように先ほど見つけたりんご飴の出店の方に走って行った。
「ちなみに遥紀は何を願ったんだ?」
「俺は言葉の裏に隠れた意味を理解できますようにって」
「?」
言葉の裏に隠れた意味ってなんだ?国語のことか?遥紀って国語の点数良かったよな?
なんでそんなこと願うのか分からなかったが、そのことを聞こうとすると、前を走っていた瑞希の忙しなかった足がぴたりと止まったことに気づいて、そっちに気を取られてしまった。
「お~い、どうしたんだ?りんご飴はいいのか?」
りんご飴の出店まではもう数mのところなのに、そこから動こうとしない瑞希に少し駆け寄って声をかけると、瑞希の目線の先には見知った2人組の女子がいた。
「えっ!司先輩!?」
「あれ、司も初詣?」
希と鈴賀がこれまた目立つ着物を着て登場した。
「それに横にいるのは涼風先輩!?どうして2人が!?」
「まさか・・・」
この状況を見られたくない人物top1,2に同時に見られた。
これのどこが平和な1年なんだ!俺の願いはどこに行ったんだ!
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