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約束

 何のことですか?と、とぼけようかとも思ったが、美琴先輩は自信に満ちた表情をしているし、何よりその質問は事実を知っていなければ出てこない内容だ。


「ど、どうしてそのことを知っているんですか?」

「それはねぇー」


***


「あの!司君のご両親ですか!?」

「・・・そうだけど、綺麗なお嬢さんは司の何なのかな?」


「司君の・・・彼女です!」


「「えっ、彼女!?」」

「・・・っていうのは冗談です。ごめんなさい。ただのバイト先の先輩ってだけです。バイト先に司君のイヤホンの忘れ物があったので、困っているかと思い届けに来ました」


 司君のご両親も司君みたいに優しそうだからつい変なことを言っちゃった。


 私ったら何をしてるんだろう。


「あ、だよねだよね!びっくりしたー」

「すみません。初対面なのに冗談なんか言っちゃって」


「それは全然いいんだよ。うちの子と一緒に住んでいる瑞希ちゃんをないがしろにしたのかと思って焦っただけだから」

「・・・えっ・・・」

「・・・えっ?・・・」


 耳を疑った。


 瑞希という名前には聞き覚えがある。


 司君の文化祭に行ったときにあちこちの男子がその名を口にしていた。みんな口々に可愛いと言っていた。


 司君のクラスのフルーツ飴のお店に行ったときに司君の隣にはとんでもなく可愛い子がいたからおそらくこの子なんだろうなとは思っていた。


「瑞希ちゃんが一緒に住んでいるんですか?」

「・・・これもしかして言っちゃいけないやつだった?」

「はぁ~、あなたって人はどうしてこんなにも抜けているのかしら。言っちゃいけないことくらい分からないの?」

「ごめんなさい」


 司君の父親はすっかり委縮して小さくなってしまった。


「ごめんなさいね。この際だから全部言ってしまうけれど、司は涼風瑞希ちゃんと一緒に暮らしているの。ちょっと訳ありでね。できればこの話は内密にして欲しいわ」


***


「ってことがあってね」

「な、なるほど~~~」


 この前来たメッセージの『息子よ、すまん』ってそういうことかよ!


 父さんは仕事は出来るくせに天然なところは直っていないようだ。


「フルーツ飴のお店で私と司君が話してた時、涼風さんがちらちらこっちを見てきてるからなんかあるのかなとは思ってたけど、まさか過ぎたよ」


「そ、それでーこのことはくれぐれもご内密に?」

「うーん、どうしようかな。司君の資生高校には知り合いも何人かいるし、面白そうだから話してみようかなぁー」


「美琴様~お願いしますよ~」


 俺は手もみをしながら媚びるように言った。


「くるしゅうない、くるしゅうない。心配しなくても言わないから安心してね」

「ありがとうございます」


 始めから美琴先輩が言いふらす気がなかったのは普段の姿を見れば分かる。このふざけたようなやり取りがやりたかっただけだろう。


「でも1つお願い聞いて欲しいなぁー」

「何なりとお申し付けください」


 俺は完全な家来のように即答した。


「来週の8日の水曜日か9日の木曜日って空いてる?」

「木曜日の方なら空いてますよ」


「じゃあ、―――――して欲しいな」

「わ、分かりました」


 美琴先輩から出ると思っていなかった単語に少々驚きはしたものの了承した。


「ありがとう。じゃあまたその日ね」


***


「瑞希―もうそろそろ行くぞー」

「えーもうちょっとだけ待ってよ!」


 今日は1月の8日水曜日。3人の予定がようやくあったこの日に俺達の初詣をすることになった。


「もうすぐ出ないと集合時間に遅れるぞ」

「女子は支度に時間がかかるの」


「お前ちょっと前にそういうやつはただ単に時間管理が出来てないとか言ってなかったか?」

「あれ、そんなこと言ったっけ?」


 こいつ、絶対覚えてるくせに都合のいいこと言いやがって。


 それにしても時間がかかってるな。普段は支度にこんなに時間がかかったことはない。


「できた!できた!もう行くから!」


 ようやく支度が終わったらしく瑞希の部屋の扉が開いて俺がいる玄関まで来た。


「ほら、もう行く・・・」


 視線を瑞希に向けると、水色の花柄の着物に身を包んでいる姿があった。


「驚いたでしょ?似合ってるでしょ?」


 瑞希は小悪魔的な笑みを浮かべて聞いてくる。


「・・・着物なんて持ってたのか?」

「お母さん家にあって使わないって言ってたから今日着ようと思って持ってきたの」


「目立つだろ」

「大丈夫だよ。今日行くところは光来神社なんでしょ。大きい神社だから着物の人なんていっぱいいるよ」


「クラスメイトにバレたらどうするんだよ」

「黒瀬君もいるんだし何とかなるよ」


「それはそうだけど・・・」


 遥紀はクラスの中心人物なのでみんなの前で瑞希とも会話することがよくあり、男子の中では一番仲がいいと思われている。もし目撃されたとしても遥紀と一緒ならそこまで噂立つことはないだろう。


「もう、せっかく着たのに文句ばっかり。早く行かないと遅刻するよ」


 瑞希はそう言って玄関を開けて歩き出す。


 俺もつられて歩き出し、瑞希を追い抜く耳元に小さな声で呟く。


「似合ってる。可愛い・・・と思う」

118話も読んでいただきありがとうございます。

この度累計100万PVを達成することが出来ました。本当にありがとうございます!

詳しいことは活動報告を更新しますので見て頂けると幸いです。

感謝として来週の月曜日3/24から1週間毎日投稿させていただきます。

これからも応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
浴衣って薄いものですから、花火大会には良くても、初詣にはちょっと向かないと思います。ここは、着物で良いのではないでしょうか。
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