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勘違い

「はぁ・・・ここか」


 お昼の新幹線に乗り、在来線で鳥取まで来て、バスを乗ると、辺りは薄暗くなり始めていた。


 だが、ついに瑞希のおばあちゃんの家らしき建物を見つけた。


 ここまで来れたのは良かったが、ここからが問題だ。


 インターホンを鳴らしたところで瑞希が出てくる保証はどこにもない。


 万が一、おばあちゃんや瑞希の母親である真由美さんが出てきたとしたら瑞希に会わせてもらえないかもしれない。


 瑞希から何と言われているのかは分からないが、真由美さんは俺を許してくれるだろうか。


 男の家に自分の娘を住まわせることを許可してくれたのにもかかわらず、娘が1人で帰ってきたことが分かったら。


 瑞希との問題が解決したとしても真由美さんの許可が出なかったら、もう1度一緒に住むことは叶わない。


 不安にさせないと約束したのに、それすらも守れなかった自分に不甲斐なさを感じた。


 だが、ここまで来た足を引き返すことは出来ない。

 

 俺は一歩一歩家に近づく。


 すると、おもむろに玄関が開き、先ほどまで考えていた人物が姿を見せた。


 瑞希の母親である真由美さんが家から出てきた。


 家の鍵を閉めて、前に振り返ると俺の姿に気づいたみたいだった。


「あら、司君じゃない」


 言葉だけでは驚いた時のような表現をしたが、声のトーンからはまるで俺が来ることを見越していたかのような落ち着きようだった。


「真由美さん、ご無沙汰しています」

「「・・・・・・」」


 次の言葉に何と言ったらいいのか分からなかった。


 瑞希さんを迎えに来ました? 


 俺のせいで家を出たっていうのに迎えだなんて瑞希は望んでもないかもしれないのに図々しい。


 約束を守れなくてすみません?


 瑞希に会いに来たのに一言目がこれでいいのだろうか。


 そうして、俺が言葉に詰まっていると、少し先にいた真由美さんがこちらの方に歩いてきた。


「・・・あ、あの!」


 何を言うかも決めてないまま焦りから出た言葉を真由美さんは気に留めることなく、俺の目の前まで来て、手のひらに何かを手渡した。


「えっ・・・鍵?」

「瑞希からあまり詳しいことは聞いていないけれど、こうしてここまで会いに来たってことは、瑞希を大切に思ってくれているということだと私は認識したわ。あの日私を説得したあなたを信じて今は家の鍵を渡すことにする」


「・・・ありがとうございます!」

「私は今からはお母さんの病院に迎えに行ってくるから30分くらいは戻らないわ。話はそれまでに済ましておいて頂戴ね」


「はい」


「あの子が家に帰ってきたときのあんな顔はもう見たくないわよ」

「はい!」


 そう言って真由美さんは車に乗り込み、行ってしまった。


 よく事情も分かっていないのに、俺を信じてくれた。


 この期待だけは裏切ってはいけない。俺は決意と共に玄関の鍵を開けて、家の中に入った。


「あれ?お母さん忘れ物・・・司っ!?」

「やっと見つけた」


 会わなかったのは数日だけれど、初めて空いた数日に俺は瑞希の顔を見た瞬間、これほどまでなくほっとした。


「ななな、なんでここに!?鍵閉まって・・・」

「さっき真由美さんに借りた」


「第一なんで場所が・・・!」

「これだよ」


 俺は1月1日、元日に俺の家宛てに届いた年賀状を出した。


 真由美さんのことだからこういったことはしっかりしていると思ったが、やはりビンゴだった。


 年賀状に書いてある差出人の住所を見れば、ここの場所が分かるってことだ。

 

「あ・・・年賀状か・・・確かにそれになら書いてあるもんね・・・忘れてたなぁ・・・」

「そうじゃない、なんで何にも言わずに家から出て行ったんだ」


 瑞希は一瞬悲しい顔をして、下を向きながら話し始めた。


「司の元には大事な人が出来たんだから、私なんかが近くにいるって知ったら嫌われちゃうからだよ」

「大事な人って・・・」


「それにさ!司は優しいからさ・・・私が出て行くって言っても引き留めてくれるでしょ?・・・そしたらさ、私はきっと多分その厚意に甘えちゃうんだよ。ダメってことは分かってるんだけど」


「大事な人って桜井さんのことだろ?」


瑞希は無言のままコクっと首を縦に動かした。


やっぱりか。


だからそれは誤解なんだって!


「瑞希、よく聞いてくれ。俺と桜井さんは付き合っていない」

「・・・へ?」


 瑞希はとんでもなく驚いた顔をしていた。


「えっ!うそうそうそ。だって学校で告白したって!後輩ちゃんもそう言って・・・!」


 やはり、あの日聞いていたのか。


「それは、あくまで噂だ。告白したのは本当だが、俺からじゃない」

「だってだって、告白したのに仲良さそうだったし!」


「桜井さんがが友達のままにしたいと言うから友達に戻っただけだ」


「えっーーーー!!!!」


 瑞希は俺に付き合っている人が出来たと勘違いして、自分は身を引こうと思ったわけだ。


 壮大な勘違いというやつだ。

115話も読んでいただきありがとうございます。

瑞希の家出編はもうちょっとだけ続きます。最後は意外な展開になるかもしれません。

これからも応援よろしくお願いします。

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