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予感

 それから俺たちは昼飯を食べた後、各々の家に帰ることにした。遥紀はそのまま俺の家で遊ぼうとしていたが、数時間もしないうちにバイトがあるためお断りした。


 それからバイトの時間になり、リラほっとに出勤して補助を数回こなした後、先ほどコートで大活躍していた涼風さんが来店してきた。


「いらっしゃいませ。涼風様ですね」


 予約確認などの軽い事務作業を行ったあと、部屋へ案内した。


 それから俺も必要なものを取りに行ったあと、部屋に入ると涼風さんはご機嫌な様子でニコニコしながら待っていた。俺はその様子に敢えて何も言うことはせず、マッサージの準備に取り掛かる。


 彼女からはさっきの試合について褒めてほしいという雰囲気があふれている。そんな様子の彼女を見て、俺は今まで何かにつけてこの関係をバラすと脅されてきた仕返しとそのまま単純に褒めることがなんだか思い通りになるようで少し癪なので意地悪をしてみようと企んだ。


 それから、マッサージが始まり一拍したあと、彼女が話しかけてくる。


「褒めてくれてもいいんだよ?」


 敢えてなにについて褒めてほしいのか言わないあたり、やはりだいぶ調子に乗っている。


「何のこと?」

「さっきのし・あ・いのこと。素直に言ってごらん?」

「後半も遥紀と話しててあんまり見てないし、最後のフリースローも入ったシーンまでは見てないから何とも言えないけど・・・」

「え・・・そっか」


 彼女はそう言って、極端にテンションが下がりマッサージベッドにさらに顔をうずめた。


 それから1分ほど無言の時間が続き、少し罪悪感を覚えてきたので、そろそろネタばらしをすることにした。


「嘘だよ。後半からはしっかり見てた。めっちゃうまかったし最後のフリースローもしっかり決めるところはまじでかっこよかったぞ」


 女子に対してかっこいいは誉め言葉か怪しいところではあるが、プレーに対して率直に思ったことを話した。


「本当?」


 彼女はうずめていた顔をこちらに向けてきた。その眼にはうっすらと涙がにじんでおり、とんでもない破壊力と罪悪感を覚えた。


「う・・・ごめん。そこまでするつもりはなかったんだけど、うきうきしている様子を見て少しからかいたくなっただけなんだ。今回は本当に本当」

「そう・・・なんだ。ありがとう」


 嘘をついたことには言及することなく、彼女はもう一度顔をうずめた。


 それから5分ほど経った頃にはすっかり元気を取り戻し、いつものテンションでさっきの試合についてあれこれと会話をするようになった。


 マッサージが終わって、俺は次回の予約について、聞いてみた。ここは部屋ではなく、カウンターなので周りの目もあって、敬語で話している。涼風さんは不服そうだが、こればっかりは仕方がない。


「次回の予定はどうなさいますか?」

「うーん、再来週の今日は大丈夫?時間は今日とおんなじ時間」

「はい。かしこまりました。ではお待ちしております」


 そうして彼女を見送った。涼風さんにマッサージしているこの日々も少し慣れてきた気がする。



***


「涼風さん、このあとちょっと時間ある?今日の授業で分からないところあるんだけど教えてくれない?」


 翌日の月曜日、帰りのホームルームが終わると涼風さんに話しかける女子たちの声が聞こえた。


 涼風さんは学業面でも優秀で定期テストでは常にトップ5に名を連ねていた。人気者である彼女は放課後にこうやってクラスメイトの女子から勉強だけでなく、誘われている姿をちらほら見る。


「ごめん、今日用事あって、急いでいるからじゃあね」


 そう言って彼女は足早に帰っていった。


 彼女は学校では猫をかぶっていて、こういった誘いは部活があるとき以外は基本的に断らない。放課後、学校に残って話している様子を見かけるほどだ。今日はなんだか、すごく焦っているような気がしたが、特に気にはしなかった。


***


 次の日、学校の朝の本鈴が鳴るのと同時に自分の席に座り、教壇の方を向くと涼風さんの席に彼女の姿は見えなかった。荷物も置かれている形跡がないため、学校に来ていない様子だった。すなわち、これから来たとしても遅刻か欠席ということになる。


 俺の知る限り、涼風さんは学校では優等生で遅刻や欠席をする姿を見たことはない。昨日は元気だったが、風邪でも引いてしまったんだろうか。それほど重い病気でもない限り、明日には来るだろう。そう軽い気持ちでこれ以上考えるのをやめた。


 次の日も彼女の姿は学校では見えなかった。何か感染症を患うと、2日くらい休むことは誰しも1度くらいあることだろう。だが、1日目はそれほど声は挙がらなかったが、2日連続となるとクラスメイトからは心配の声が挙がり始めた。


 彼女が来なくなって3日、4日と経過したが、未だ彼女が学校に登校することはなかった。俺も流石に心配になってきたが、連絡先を交換していないため学校に来ない以上、理由を聞くことはできない。あれだけ話しておいて連絡先を交換しておかなかったことを少し後悔した。


 結局、彼女が学校に登校してきたのは一週間後の水曜日だった。登校してくるとすぐに、クラスメイトからの心配の声がかかった。それほど学校のマドンナが1週間ほど休んだことは大きな出来事だったようだ。


 彼女は休んだ理由を聞かれると、感染症に罹っていたと言っていた。インフルエンザやコロナウイルスなら、周りに移してしまう可能性があるので、完全回復に1週間くらいかかったとしても不思議ではない。


 彼女がそう伝えるとなにか大事になったのではないかと心配していたクラスメイトは安心して席に戻っていった。


 だが、俺は彼女の様子に少し違和感を感じた。いつもの学校での猫をかぶっている感じが少し薄くなっており、素の涼風さんの雰囲気が出ている気がした。

11話目も読んでいただきありがとうございます。

これからは活動報告の方も書かせていただこうと思います。

コメント・評価・ブックマークをくださった方に対してお礼を言わせていただいたり、なにかつぶやいたりしようかなと考えております。よければ見てください。

そして、これまで評価してくださった皆様本当にありがとうございます。

これからも応援よろしくお願いします。

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