尾行
「あれ?黒瀬君もう帰るの?」
「うん、司はもう治ったし。夜も遅くなりそうだしね」
「分かった。ありがとね」
「こちらこそ、大事な時に呼んでくれてありがとう」
そうして、司が謎の状態から解き放たれると、黒瀬君は颯爽と帰って行った。
まさか、ビンタが正攻法とはなぁー。
私にはできないなぁー。
でも、司はなんであんな状態になってたのかな?
さっきまでの司の顔を見たらなんか深刻そうだったし、司は言いにくいことかもしれないから、直接は聞けないな。
何度も聞こうとしたけど、結局その日は聞くことが出来なかった。
***
「ただいまー」
「おかえり」
翌日、私が学校から帰ると司は家にいたが、何やらこれから出かけるような支度をしていた。
「バイト?」
「うん、もう行かなくちゃ」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
まともに喋れないようなぼぉーっとしている状態からは黒瀬君のビンタで脱却したけど、昨日からずっと難しい顔をしていた。
今日はもう完全にいつも通りかと思ったけど、今顔を見ても昨日と同じで難しい顔をしていた。
なにか声をかけてあげたかったけど、司はもうバイトだし、私もなんて声をかけてあげたらいいのか分からなくて、迷っている間に司は行ってしまった。
***
「ただいまー!」
「お、おかえり」
行くときはあんなに難しい顔をしていたのにバイトから帰ってくると、驚くくらいに元気だった。
「なんだか、元気だね」
「最近気にしていたことが解決しそうで」
そうなんだ、良かった。
でもあんなに悩んでそうだったのにバイト中に悩みが解決するなんて珍しい。
そう思うと、一つの可能性が頭によぎる。
司のバイト先にいる綺麗な先輩だ。
もしかして、その先輩が解決したのかも。
そう考えると少しだけその先輩に嫉妬してしまった。
司の悩みを解決してくれたのは嬉しいけど、その悩み先輩じゃなくて、私に打ち明けてほしかったな。
***
次の日、放課後になるとダッシュで教室を出ていく司が見えた。
司、今日そんなに忙しかったっけ?と思いながらバスケ部の準備だけして、教室を出ると、隣の教室がなんだかざわざわしていたので、その声に耳を傾けた。
「え?さっきのなに?」「どうせ、最近可愛くなった桜井さんに告白しに行ったんだろ」「誰もOKされてないのにされるわけないだろ」「かわいそー」「って言うかさっきの男子何て名前?ちょっとカッコよかったけど」
桜井さんが最近可愛いという話は隣のクラスの私の耳にも入るくらい話題になっている。
私から見てもめちゃ可愛いし、そりゃ告白する男子くらい現れるよね。
「俺、名前知ってるよ。確か早乙女とかだったはず」
え、司・・・?
この学年に早乙女って他にいたっけ?でもでも、違う学年かもしれないし。
これ以上ないくらい早い速度で頭が回りだす。
このクラスの人が名前が分かってないってことはこのクラスじゃないんだろうし、それでさっき司がダッシュでクラスから出て行ったってことは・・・
昨日まで悩んでたのは桜井さんに告白しようか悩んでいたってこと・・・?
それで、昨日ようやくその決心がついたってこと・・・?
「おい、今日いつもより動きにキレがないぞ。もっと集中しろ」
「はい!すみません!」
今日の部活は心ここにあらずだった。
***
「ただいま・・・」
「おかえりー」
今日も司はご機嫌な様子だった。
表情は昨日とは少し違うが、なんだか満足げな表情を浮かべていた。
告白上手くいったのかなぁ・・・
「ん?そこで立ち尽くしてどうかしたのか?」
「・・・いやいや何でもない。お風呂入ってくる」
「おう、いってらっしゃい」
「うん・・・」
告白上手くいったの?なんて言えるわけなかった。
***
翌日の放課後。
今日は体育館の整備があるらしく、部活は臨時で休みだった。
「涼風さん、今日一緒に帰らない?」
「すみません、今日は用事があって早く帰らないといけないんです」
部活がないことを知ったクラスメイトから帰りのお誘いを貰うが、私には大事な用があった。
それは、昨日の真相を確かめることだった。
今日は土曜日だから黒瀬君のテニス部はないから一緒に帰るはず。そしたら昨日の件の話くらいするだろう。
司を観察していると案の定、黒瀬君と一緒に教室を出たので、私もバレないように後ろをついていく。
「!!!」
下駄箱付近に差し掛かると、反対方向から見知った顔が歩いてきた。
「先輩、偶然ですね!」
「司、偶然だね」
「なんか会いすぎじゃない?つけてるの?」
逆方向から歩いてきたのは後輩の水上さんと話題の桜井さんだった。
ちょうど調べたいと思っていた2人が合流した。
これなら真相がわかるはず。
108話も読んでいただきありがとうございます。
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