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桜井鈴賀

「こっちに」


 誰の目にもつかないと言ったら俺には思い当たる場所は1つしかないので、いつもお世話になっている階段の踊り場まで桜井さんを誘導した。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 その場についてそうそう、きまづそうな沈黙が続く。


 つい、軽口でも言ってこの場を和まそうと口が動きそうになる。


 だが、桜井さんも俺がこれから話す内容には見当がついているはずだ。そんなことをしたってどうにもならない。


 真剣に向き合うんだ。


「この前の告白のことだけど・・・」

「待って!」


 すぐさま話は桜井さんに遮られる。


「答えは・・・いらないの。私が言いたくて言っただけだから」

「・・・・・・」


 桜井さんは、そう言ったが俺はそれに素直に「分かった」とは言えなかった。


 アニメや映画などフィクションの世界ではありがちの告白の返事はいらないというパターンだ。


 俺はそのパターンはあまり好みではない。


 たとえいらないと言われたとしても告白を受けておきながら、返事もせずに、そして他の女子と接するところを見せるなんて、あまりにも失礼なのではないかと俺は思ってしまう。


「じゃあこれは俺の独り言で俺が言いたかっただけだから、聞き流して欲しい」

「・・・・・・」


「桜井さんに気持ちを伝えてもらったとき、俺告白されるのなんて初めてで、難しいことばっかり考えちゃったけど、ふと自分を振り返ってみると、すごく嬉しかった」

「・・・・・・」


 ずっとこのタイミングが訪れるのが嫌で、答えを出さなかったのかもしれない。


 でも、あれこれと余計なことを考えていた昨日の俺じゃなくて、今日の俺なら言える。


「でも、ごめん。今の俺は桜井さんを恋愛の相手としては見れない。だから桜井さんとは付き合えない。本当にごめん」


 俺は今の自分の気持ちを濁すことなく伝えた。


「・・・分かってたよ。司ならそう言うって」

「・・・・・・」


「返事はいらないって言っても伝えてくるなんてそんなに私はナシなのかな・・・」

「それは、俺の今の気持ちをしっかり桜井さんに伝えておかないと桜井さんに失礼だと思ったから」


「・・・うん」


 あまり納得のいっていない表情だった。


「だから、本当に勝手なことだとは分かってるけど、もしこれから俺が桜井さんを好きになったとしたらその時は俺から告白させて欲しい」


 我ながら本当に身勝手なお願いだと思う。


 自分から振ったくせに好きになったら、付き合って欲しいと言うなんて。


 でも、ここで嘘は言えなかった。


「・・・じゃあ、司が告白してくるまで友達として見張ってないとね」

「・・・へ?」


 てっきり、桜井さんとはこれっきりだと思っていた。


 仕方がない。俺が振ってしまったんだ。不満を言えた義理ではないと承知していた。


 だけど、桜井さんから友達という言葉が出てきた瞬間、俺は思わず力が抜けてしまった。


「いいの?」

「いいの?って何?友達じゃなきゃ私の魅力に気づいてもらえないじゃん」

「それは・・・そうだけど・・・」


「覚悟してなさい!いつか司の方から付き合ってください!って言わせてやるから!」


 彼女はキラキラの満点の笑顔で俺にそう言い放った。


 振られた方は、ショックで立ち直れなくなるのではないかと。振った人物とはもう関わり合いたくないと思ってしまうのだと。


 俺は自惚れていたようだった。桜井さんの発言には多少の強がりも入っているのかもしれないが、俺ごときに振られたところで、そうそう彼女の意思は俺の思い通りにはいかないようだ。


「じゃあ、話も終わったみたいだし、一緒に帰ろっか」

「え!いいのか?」


「いいのかって私たち友達なんでしょ?それなら普通じゃないの?」


 躊躇はあったが、彼女から言い出して、彼女が望んでいるんだからそれに応えるのが俺の役目なのだろう。


***


 突然訪れた特別な友達に、この展開を望んでいたはずの俺は、いつもは笑って話せる登下校道がなにを話せばいいの分からなくなっていた。


「なんか、もじもじしすぎじゃない?司?」

「いや・・・だって・・・」


「もしかして、私よりも司の方が意識しちゃってるんじゃないの~」

「はっ!あんなこと言われたんだから誰だって意識するだろ!」


「司ったら可愛い~」

「うるせぇ!」


 なんか桜井さん、色々吹っ切れて、生き生きとして俺をからかってくる。


 これが桜井さんの本音なのだとしたら、俺も嬉しい。


 だが、からかわれてばっかりだと負けた気がするのでこちらも少し仕掛けてみるとするか。


「これからもよろしくね、鈴賀」

「改まっちゃって、なによ。・・・っていうか今!鈴賀って!」


「友達なんだからこれくらい呼ぶだろ?」

「・・・それもそうか。よろしくね、司。私は呼び方変わらないけど」


 桜井鈴賀という人物は俺なんかが思っていたよりずっと強くて、魅力的な女の子だった。

107話も読んでいただきありがとうございます。

どうだったでしょうか?これで終わりなのではなく、これからもこれまで以上に桜井鈴賀の魅力をたっぷりとお届けできるよう頑張っていきます!

これからも応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
好きだって言ってくれた女子を振るのって、難しいよね 僕は明確に答えず相手にしないそぶりや、時には断ったりしたこともあったなぁ 自分も決していい気持ちじゃないし、複雑な気分だよね 好きな女の子たちだけ追…
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