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ごめん

 今日はリラほっとの出勤日。


 正直、考えることが多すぎてバイトどころではないのだが、個人的な用事で休むわけにもいかないので、重い足取りで店舗に向かう。


 お店に入ると、受付にいた美琴先輩が笑みを浮かべながらこちらを向く。


「おはよう、今日は司君とシフト一緒なんだ。やったね」

「おはようございます。美琴先輩・・・」

「・・・」


***


「はぁ~やっと終わった」


 今日はなんだか、いつもより時間が流れるのが遅く感じたな。


 疲労でどうしてもあの事を考える気にならない。


 でも、いくら桜井さんが避けているからってそれに甘んじて、いつまでもこのままってわけにもいかない。


 タイムリミットは確実に近づいている。


 なんとか答えを出さなくちゃ。


 これからのことを思っていると後ろから、軽快な足取りで近づいてくる音が聞こえた。


「おっつかれ~今日は忙しかったね。司君」

「美琴先輩お疲れ様です・・・」


「なんだか今日はずっと浮かない顔をしてるね」

「俺、そんなに顔に出てましたか?」


「司君は分かりやすいからね。それでどうしたの?悩み事?」

「いや、わざわざ美琴先輩に言うほど大層な悩みでもないです」


「悩みに大小なんてないよ。お姉さんなら解決できるかもしれないよ?」


 美琴先輩は確かにすごく美人で社交的だからこれまでに無数の告白をされているんだろう。そんな美琴先輩なら答えを持ってるのかもしれない。


 俺はいつもならこんな恥ずかしい悩みなんて人には絶対に打ち明けないが、焦りからかこの時は勝手に口が開いていた。


「実は、同級生に告白されたんです。俺は友達だと思ってたんですけど、向こうは違ったみたいで。これまで通り仲良くするためには告白を受け入れるしかないのかなって。それを考えていくうちに自分の気持ちまで分からなくなって・・・」


「・・・ふむふむ。つまり司君は好きがなんだか分からなくなっていると」

「・・・はい」


「友情の好きと恋愛の好きは確かに違うよね。でも、完全に違うとも言い切れない。友情と恋愛の好きが同時に押し寄せるときもあるし、友情が変化して恋愛の好きになる可能性もある。それは当の本人にも分からないかもしれない。でも、分かるとしたら絶対に本人しか分からない」

「ですよね・・・」


 やっぱり、自分で結論を出すしかないのか・・・


 今の俺にしっかりとした答えが出せるんだろうか?


 結局分からずじまいでその時が来てしまい、悲しませたりはしないだろうか?


 更にプレッシャーが押し寄せる。


「でもどうして、そんな難しい顔をしているの?それじゃあ、告白した女の子が少しかわいそう」

「え?」


「勇気をめいっぱい振り絞って告白して、もし万が一断わられたらそれはすっごく悲しいことだけど、それ以上に自分が告白したせいで相手が苦虫をすりつぶしたような顔をしていたらもっと悲しい。自分のせいでそんな顔をしないでって」


 その言葉を聞いた瞬間、桜井さんから告白をされた翌日、下駄箱で偶然会ったとき、声をかけた瞬間を思い出した。


「桜井さん?おはよう」

「・・・ごめん」


 あのときの「ごめん」って恥ずかしくて今はごめんって意味じゃなくて、告白して「ごめん」って・・・


「告白されたんでしょ?それならもっと嬉しそうな顔をしなきゃ。女の子から告白してもらえるなんてそうそうあることじゃないんだぞ~」

「そう・・・ですよね」


 俺は、告白されて一度でも喜んだだろうか?どうしようって悩んでばっかだった。


 答えが出なかったのじゃなくて、出来ることなら答えを出したくない。そんな気持ちが働いてきたのかもしれない。


 だから、告白は何かを決断しなければいけない、俺にとってネガティブな行為だと。


 そうじゃない、好意を向けてもらっていることを素直に喜んでみよう。


 そう考えると、今まで全く形を成してこなかった俺なりの答えがすっと頭の中に浮き上がってきた。


「美琴先輩ありがとう!なんかわかった気がする」

「それは良かった」


「じゃあ、美琴先輩。今日はありがとうございました」

「悩みが晴れたみたいで良かった」


「はい!お疲れ様です!」

「うん、おつかれ」




「・・・・・・塩を送っちゃった・・・かな・・・?」


***


 翌日、これからを気にしなくていい放課後になった。


 ダッシュで桜井さんのクラスの前に行くとちょうど終礼が終わったところだった。


「桜井さん!お話があります!」

「は、はい!」


 避けようとしていたみたいだが、こんな大々的に話しかけられて、思わず返事をしてしまったみたいだった。


「え、なになに?」「もしかして、告白とか?」「ただの委員会とかの業務連絡とかかもしれないよ?」


 終礼が終わったばっかでクラスには多くの人がいて、様々な見解が寄せられる。


 知ったことか。桜井さんが俺に出してくれた勇気に比べればこんなの比較にもならない。


 こんなにも堂々といい放った俺を周りの目があるところで拒否するわけにはいかないと思ったのか、桜井さんは少し迷った末、俺の方まで来てくれた。


「ここじゃなんだから、あっちで」

「・・・うん」


 もう逃げない。俺は決めたんだ。

106話も読んでいただきありがとうございました。

ようやく出した司の結論とは・・・

明日2/3投稿予定です。

これからも応援よろしくお願いします。

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