応急措置
「じゃあ、またね」
「あ!・・・」
俺の次の言葉が出る前に桜井さんは小走りで俺から遠ざかって行った。
冗談?・・・じゃないよな。
じゃあ、水上さんも?え、瑞希も!?
***
いつも通り、バスケ部の活動を終わらせて、家に帰る。
「ただいまー」
「・・・・・・」
おかえりの声は返ってこなかった。
司はまだ帰ってきてないのかな?もしかして、他の子と遊びに行ってるとか!?
ちょっぴり悲しい気持ちになりながらリビングの扉を開けると、司は普通に何かしているわけでもなく、ソファに座っていた。
なんだ、いるじゃん。
「ただいまー」
「お、おう・・・」
なんだかいつもの司と様子が違う。生気が籠っていないと言うか、何考えてるか分からないと言うか。
「ん?なんか元気なくない?」
「そうだな・・・」
さては、昨日のようになんかふざけて演技してるな。
でも昨日とは違って司はぼぉーっとしてるだけだから私はこれに何をしたらいいのか分かんなかった。
だから少し悩んだ末、私は司の隣に座って司と同じくぼぉーっとしてみた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「何してるのこれ!?」
沈黙の時間が長すぎて耐えきれなくって、ついツッコミを入れてしまった。
「ん?あ、いたんだ・・・」
「?????」
このノリは、私のツッコミ待ちじゃないかったの!?じゃあ本当に何してるのこれ!?
私の脳は司がどうしてこうしているのか全く分からなかった。
「今日の晩御飯は生姜焼きと茄子の肉詰めどっちがいい?」
「ん?どっちでもいいよ・・・」
絶対におかしい。
どっちでもいいわけがない。司は基本的には好き嫌いなく食べ物を食べるけど、唯一なすが苦手。
茄子の肉詰めなんて好きじゃないはずなのに、それも分からないくらい司は心ここにあらずな感じ。
私じゃどうすることもできそうになかったので、スマホを出して、司の親友に電話を掛けた。
「もしもし、黒瀬君。今電話大丈夫?」
「涼風さんから電話なんて珍しいね。ちょうど帰ってる最中だから大丈夫だよ」
「なんか司が変なんだけど!」
「???」
黒瀬君も混乱しているのが電話越しでも分かった。
そりゃそうだ。高校生にもなって急に変になるはずがないんだから。
「もう少し分かりやすく教えてくれる?」
黒瀬君は私の説明不足だと思っているようだけど、私が言えることはこれ以上もこれ以下もない。
「とにかく何を聞いてもぼぉーっとしているような返事しかしないの」
「それは、本を読んでるとかじゃなくて?」
「違うの!ただソファに座ってるだけなのに!」
「・・・なるほど。ちょっと家行っていい?」
「うん、大丈夫だけど・・・」
「じゃあ、またね」
電話はそこで切れてしまったけど、黒瀬君が来たところで正直、この司を正気に戻せるとはあんまり思わなかった。
***
数十分したころ、家のインターホンがなり、黒瀬君が家に到着した。
「ごめんね、黒瀬君も部活で疲れているのに」
「いやいや、全然大丈夫だよ」
黒瀬君はなんだか少し楽しそうにリビングへと入って行った。
「はーい、黒瀬医師が到着したよー」
「あれ?遥紀どうしてここいるんだ?まだ授業中だぞ」
「・・・これは重症ですね」
司の症状は私が一番最初に見たときよりもひどくなって、なんか意味分からないことも呟いてるし。
「これは今日から?」
「うん、私が帰ってきたときにはこうなってた」
「もう遅いだろうし、涼風さんは自分のことやってていいよ」
「うん、分かった」
私がいたって邪魔になっちゃうかもしれないから、黒瀬君に後は任せて、私は夜ご飯の支度をすることにした。
***
珍しく涼風さんから電話がかかってきたと思えば、これは確かに大変だ。
日時から察するに心当たりがないわけじゃない。
涼風さんに俺たちの会話が聞こえないように司の部屋まで移動してから質問を始めた。
今日の学校では元気だった。そして涼風さんが帰ってきたらこうなっていたとなると、原因は今日の下校中にある。
「今日は誰と一緒に帰ったんだ?」
「え、桜井さん・・・?」
桜井さんか水上さんの二択だと思ったんだが、やはり当たっていたか。
「それで、桜井さんは司のことが好きだって?」
「今日の最後にそれだけ言って帰っちゃった」
凄いな、桜井さん。素直に言っちゃったのか。
それで、その告白に司の恋愛なんてこれっぽっちもしたことのない脳がオーバーヒートしてしまったということか。
まぁ原因が分かったということは悩み云々は置いといてひとまず魂の入っていないこの司を起こすところから始めないと。
処置の方法は簡単。
でも、変に優しくするともう1回やらなくちゃいけなくなるから、強めに・・・
こうやって・・・
103話も読んでいただきありがとうございます。
今日中にもう1話投稿します。
これからも応援よろしくお願いします。