2人目
「それでね司先輩、私来年は体育祭の実行委員やろうと思ってるんですよ。だから司先輩も一緒にやりましょうよ」
「うん・・・そうだな」
やはり希はいつも通りだな。話しているところを見ても別に普通だ。本当に俺を好きなのか?
これで勘違いとかだったらめちゃくちゃ恥ずかしいな。
「え!本当にやってくれるんですか!?」
「あ、ごめん。何の話だっけ?」
まずい。希の気持ちを読もうと思って話もあんま聞いてなくて適当に頷いていた。
「やっぱりなんか今日おかしくないですか?司先輩?」
「いやいや、何にもないって」
「熱でもあるんじゃないですか?」
そう言って隣に座っていた希は自然な動作で俺の額に手を当てようとしてくる。
「!!!」
俺は慌てて顔をそらして、その手を回避した。
「避けるなんて本当に熱あるんですか!?」
「いや・・・そういうわけじゃないけど・・・」
「じゃあなんで避けるんですか?」
「だって、急だったから」
「そんな言い訳が通用すると思うんですか!いつもは別に触ろうとしたって避けないじゃないですか!」
普通、好きな相手をそんなに気安く触ったりできるか?
こんなに普通に触ってくるってことはやはり俺の聞き間違いか勘違いだということだろう。
先走らなくて正解だったぜ。
「やっぱり熱出てるんですよね!測らしてください!」
「だから出てないからいいって!」
今更引けなくなった俺は必死に希の手を避けた。
「わっ!」
俺が避けるために体重を背けすぎて椅子から崩れた影響で俺に覆い被さろうとしていた希も倒れかかってきた。
「っ!・・・」
希の顔が俺の顔と数センチまで迫って、お互い黙って見つめてしまった。
「は、はやくどいてくれ。周りの視線が痛い」
「あっ!そうですね!すみません!」
希は急いで席に戻った後、さっきとは違い黙って昼飯を食べ始めた。
あれ、この反応照れてないか?
でも好きじゃなくても異性の顔がこんな近くにあったら照れるもんか?
俺を好きではないと結論付けたはずなのに分からなくなってしまった。
恋愛ってムズいな!
「司先輩、顔真っ赤ですよ」
「うるさい」
くそっ、希を調べるはずが俺の調子が狂わされる。
***
「司、なんかあったんでしょ?」
「遥紀まで、なんもないって」
放課後になった時、遥紀がくるっと俺の方向に体を向けてきて言う。
そんなに俺は分かりやすかっただろうか?
「例えば、水上さんに告白されたとか?」
「バカ言うな!」
「なんだ、違うんだ。今日の司は水上さんのことじーっと見てるからそうだと思ったのに」
「まぁ近いことはあったけど。あっ!」
慌てて口を塞いだが、もう遅いようだった。
遥紀があんまりにも鋭いことを言うから心の中にとどめておくつもりだったのが、つい感想が口から洩れていた。
「なーに?近いことって?」
「いや・・・あの・・・聞かなかったことにしてくれません・・・?」
「するわけないよね」
「そうですよね」
遥紀が見逃してくれるはずもなく、俺は素直に白状するしかなくなった。
「・・・なるほど、なるほど。水上さんが司のことが好きだと言っていたのを偶然聞いてしまったと」
「でも、よく聞こえたわけじゃないし、冗談の可能性もあるからさっき調べようと思ったんだよ」
これで、俺の勘違いとかならもう盛大に笑ってくれ。
「それで、調査結果はどうなったの?」
「最初はやっぱり勘違いかと思ったんだが、そうでもない気がして。やっぱり分からなかった」
「それが分からないところが司らしいよね」
今、バカにされた?
「そういう遥紀は分かってるのか?」
「もちろん。超簡単でしょ」
なんで俺のことなのに俺より遥紀の方が分かってるんだよ。
「どっちなんだ?教えてくれ」
「それは、自分で気づくことが重要でしょ」
「なにかヒントだけでも!」
「うーん、まあその答えに気づく前に司の周りの色んな人にも目を向けてみることだよ」
なるほど。希だけ見たんじゃ分からないから、桜井さんだったり瑞希と比べてみれば分かるってことか。
「流石遥紀。天才だな!」
「そりゃどうも」
そうして、俺達が帰ろうと教室から出るとちょうど廊下にいた桜井さんと目が合った。
「つ、司!と黒瀬君。今帰り?」
「うん、そうだよ」
「じゃ、じゃあ私もご一緒していい?」
「ああ、いいぞ」
先ほど話していたことを実践するチャンスがもう回ってきた。
「あ、俺今日これからテニス部のミーティングがあるから一緒に帰れないんだよね。お2人でどーぞ」
「「え!」」
こんなに緊張するミッションをしようとするのにいきなり2人きりにするなよ!
「じゃ、じゃあ帰るか」
「う、うん」
2人になったからって一緒に帰るのをなしになんてできるはずもないので、諦めて歩みを始める。
でも、遥紀が来れないって知ったときに俺だけじゃなくて桜井さんも驚いた声を上げていたな。
やっぱり好きでもない男と一緒に帰るなんて嫌なのだろうか。
あのとき桜井さんも希と同じことを言おうとしたように俺の目には見えたが、それは流石に自惚れすぎなのだろう。
でも、調査のために先ほど希にやったことを桜井さんにも試してみることにした。
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