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試合終了

「そんなところにいたのか」


 聞かれないように少し離れた所で話していたので、トイレの入り口に戻ると遥紀はきょろきょろしながら俺を探しているようだった。だが、幸いそこまで不信感を抱かれることはなかった。


「戻るか」

「おう」


 トイレから戻り体育館に入ると歓声がわっと聞こえ、ちょうど第3クオーターが始まったところだった。俺達はさっきまでいた場所に座り、再び観戦を始めた。


「司、もう帰らない?誘ったやつもこっちをそんな見てないはずだから大丈夫だよ」


 第3クオーターが始まって間もないころ遥紀がそう言ってきた。


 それもそうだろう。遥紀は俺と同様、バスケにはそこまで興味はないし、俺と違って試合を観戦しないといけない理由もない。試合も始まってから、40分は経過している。よくこれだけ持ったといえるだろう。


「流石に帰るわけにはいかないだろ。俺は誘われているし、あと少しだから頑張れ」


 今帰ったら、あとでどんな目に遭うか分からないし、それより彼女に恥ずかしくもしっかり見てると言ってしまった。そんな状況で帰れるやつがいるわけがない。


 遥紀に話しかけられながらも今度はしっかり目線はコートに向けていた。


 すると、時々彼女は試合中にもかかわらずこちらに目線を移してくる。遥紀には気づかれないように首を少し動かし試合に集中しろとメッセージを送る。彼女はそれを見た後、笑いながら目線を戻す。


 隣に遥紀がいるので、顔に出すわけにはいかないが、俺は一連の動作に動揺しまくりだった。試合中だというのにこちらを向いてきたり、今まで見たこともないような笑顔を見せてきたりするのは反則だ。


 だが、これはあくまで素を出せる唯一の友達としての行動であり、俺に好意はあってもそれは恋人としてではない。それを彼女の破壊力がゆえに忘れそうになる。俺はそのことを忘れないように心に強く思い、続きの試合を見た。


 こちらを向いたりしていて、試合に集中していないように感じたが、試合の内容は真逆だった。


 第3クオーターが終わり、点差は4点差まで縮まった。あれ以降涼風さんの調子はさらに上がり、どんどん点差が縮まった。


 第4クオーターが始まり相手も点差が開いて少し油断していた気持ちを引き締め両チームがこの試合1番の迫力を見せた。


 試合も大詰め、残り20秒、点差は1点差。両チームの実力はほぼ同等、勝敗を分けるのは時の運もあるだろう。


 涼風さんがボールを持ち、時間も短いというのに焦らず時間をたっぷり使い、攻めていく。1度チームメイトにパスしたのち、またボールが回ってきた。そこで、素早い動きでドリブルし、中に入っていく。フリースローラインの少し後ろあたりに来たころ、なめらかな動作でシュートフォームに移る。


 相手チームもこれを決められると敗北してしまう焦りから全力でブロックをしにくる。焦ってたが故、スピードを抑えきれずそのままで涼風さんに衝突してしまった。


 審判の笛が鳴り、フリースローが2本与えられる。残り時間はわずか2秒。これが実質ラストプレーになる。1本決めれば同点、2本とも決めれば逆転勝ちになる。


 緊張した面持ちでフリースローラインに立ち、1本目を放つ。ボールはリングに当たった後、なんとかネットを揺らす。


 続く2本目を放つ前こちらに視線を向けてきた。俺は口パクで何かを伝えようかとも考えたが、今、彼女に必要なのは言葉ではなく、しっかり見ていること、信じていることを伝えることだと思い、俺はただ力強く頷いた。


 すると、彼女はさっきまでの緊張に溢れていた表情から明るい表情になり、まるで練習かのように軽やかな手つきでボールを放つ。


 俺はその軌道を見た瞬間、なぜか入ることを疑わなかった。彼女自身もボールを空中に放った瞬間それが入ると確信したようにガッツポーズをとった。ボールはリングに当たることもなく、見とれるほど綺麗に音とともにネットを揺らした。


 相手チームも残り2秒で素早くパスを回し逆転を狙ったが、うちのチームは最後まで気を抜かずディフェンスを行った。そのまま試合終了のブザーが鳴り、勝利が決まった。


 観客、選手ともに大きな歓声が上がった。バスケに興味のない遥紀も絵にかいたような逆転劇に流石に興奮している様子だった。


 涼風さんはバレないように一瞬こちらに笑顔を向け、ピースサインを送ってきた。


 あまりにも眩しい笑顔と仕草に俺は顔を下げて、出そうになる感情を抑えるしかなかった。


 たかが練習試合。今日の勝利でこちらのチームが強いと決まったわけではない。本番の試合で勝たないと意味はない。そんなことは分かっているのだけれど自分自身湧き上がる喜びを止めることはできなかった。


 劇的な逆転劇から少し経ち、みんなの興奮も収まったころ、

「よし。じゃあそろそろ帰るか」

「もう帰るのか?司を誘ってくれた人に会っていかなくていいのか?」


「いいんだよ」また後で会うからな。

続く言葉は声にはせず、自分の心の中だけでつぶやいた。

10話目も読んでいただきありがとうございます。

この前の日曜日には初日間100PVを達成したばかりなのに2日後にはいきなり400PV越えを記録することができました。

本当にありがとうございます。感謝してもしきれません。

感謝の意を表し、まったく想定してなかったのですが、3日連続で投稿という形になりました。

もちろんPV数に関わらず投稿は致します。

これからも何卒応援の程よろしくお願いします。

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