俺たちのはじまり
初投稿になります。
楽しんでいただけたらなによりです。
『マッサージしてみませんか?』
高校2年の5月、俺は学校帰りの途中でこんなチラシが目に入った。
俺こと早乙女司は現在、訳あって学校から数駅の場所で一人暮らしをしている。
特別親と仲が悪いわけではなく、親からの仕送りももらってはいるが一人暮らしには贅沢できない少々厳しい額だ。
そのため俺はそろそろアルバイトでも始めないといけないと思っていた矢先このチラシを見つけた。
時給は2000円で高校生の時給としては破格な部類だろう。自由な時間が欲しくて部活にも入っていない俺には、多少大変でも高額なバイトのほうが合っていると思い、さっそくマッサージ店のリラほっとに応募することにした。
迎えた面接当日、開店前のリラほっとに入ると体の大きい、優しそうな人が出迎えてくれた。そのまま従業員用の部屋に通され、そこで待機していると、先ほど出迎えてくれた人がやってきた。
「君が早乙女君?私は店長の渡辺。よろしくね」
そう笑顔で話しかけられると、面接で緊張していた気持ちが少し和らいだ感じがした。
それからアルバイトの面接としての簡単な質問に受け答えをした後面接は終わった。
***
翌日、学校へ行くと前の席から声をかけられた。
「おはよう司。来て早々で悪いんだけど今日の数学の宿題見せてくれない?」
そう気のいいことを言ってくるこいつは黒瀬遥紀。小学校からの付き合いで親友だ。顔の作りは整っているし、社交性もあるため女子からは人気が高いが、本人はあんまり興味がなく現在彼女はいない。なんとも贅沢な奴だ。
「はい、丸写しはすんなよ」
「わかってるって。大丈夫うまく写すから」
こうやって度々宿題を見せてやっているわけだが、成績は俺よりもいいことは腑に落ちない。遥紀はなんでもそつなくこなしてしまうスペックの高いやつなのだ。
そう遥紀と何気ない会話を繰り広げていると、教室の中央あたりから賑やかな話し声が聞こえた。なんとなくそちらのほうに目線をやっていると遥紀がからかうような声で話しかけてくる。
「涼風さん見てるのか?あれはさすがに無理だと思うよー。この前野球部のエースも断られたらしいし」
涼風瑞希は黒髪のショートヘアでテレビで見る芸能人に匹敵するもしくはそれ以上の顔立ちでうちのクラスでもとい、うちの学校で1番の美少女である。
バスケ部に入っており、今まで数々のイケメンの告白を受けてきたが、「バスケに集中したいから、今は彼氏を作る気はない。」と言われ、撃沈してきたのは学校でも有名な話だ。
実際うちの高校、私立資生高等学校はバスケ強豪校と言われるほどではないが、過去には全国経験もある比較的強い学校だ。
「そんなんじゃねえよ。にぎやかだったから見てただけだ」
「そりゃそうだよな。見ているだけが1番現実的だからな」
自分とは今後、関わり合うこともない違う世界の人だなと心の中で思い、そっと自分の視界から外した。
一瞬、涼風さんがこちらに視線を向けた気がしたが、俺は気にすることなく視界の隅に映すだけだった。
学校も昼休みになり、いつも通り遥紀と昼飯を食べているとスマホに1件の通知が入った。メールアプリを開くと、差出人には昨日面接に行ったマッサージ店リラほっとの名前があった。バイトの合否はもう少し時間がかかるものだと思っていたが、面接した翌日に合否が出るとは予想外で心の準備ができず、メールを開くのを躊躇った。
深呼吸をしてから緊張の中メールを開いた。
この度は面接をお受けいただきありがとうございました。
選考の結果、採用が決定いたしましたのでご連絡させていただきました。
胸をなでおろし、心の中で「よしっ」とつぶやいた。
「どうした?なんかいいことでもあった?」
俺のほころんだ顔を見た遥紀がそう言ってくる。
俺はマッサージ店でアルバイトすることを少し恥ずかしく思って遥紀に言うか少し迷ったが、素直に言うことにした。
「昨日面接を受けたバイトが受かってたんだよ」
「え、そんなにすぐ来るもんなの?」
「それは俺もびっくりした」
「どこで働くの?ファミレス?コンビニ?」
「マッサージ店」
「え、もう1回言って?」
目をぱちくりしながら聞き返してくる。
聞こえなかったわけではないが、高校生がマッサージ店でバイトする珍しい事態に頭が追い付かなかったようだ。
「だから、マッサージ店だって」
「まじか、珍しいな。ていうか高校生がマッサージ店でバイトできるのか?」
「俺の働くところは専門性が高いお店というよりは娯楽が強いお店だから未経験でも学びながらできるんだとさ」
「へーそんなとこもあんのか。今度疲れたらいってみるわ」
「その時には癒してやるよ」
そう軽口を言っていると昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。
***
迎えた研修初日、リラほっとでは研修は5日間あり、開店前の時間を使って行われる。
「おお、よく来たね早乙女君」
前回同様、店長が出迎えてくれ、前回と同じ場所に通された。研修初日は、お店のシステムや簡単なマッサージの仕方のレクチャーを行うそうだ。
「まず、うちの店は基本的にはお客様1人に対して、スタッフが1人でマッサージを行うよ。でも、5日の研修期間の後の、最初の方はスタッフの補助的な役割で2人がかりでマッサージしてもらうよ」
それを聞いて、俺は少しほっとした。研修を終えたからといって、いきなり本番ではミスをしてしまう自信があるからだ。ベテランのスタッフの補助からならばいろんなことが学べるだろう。
「それと、うちの店はお客様がスタッフの指名ができるんだ。指名がない場合は原則空いている同性のスタッフが担当するんだけど、指名をされると異性でもやってもらうことがあるね。指名をもらうと時給もアップするから指名をもらえるように頑張って」
「わかりました。頑張ります」
マッサージ店にはそんなシステムがあるのかと心の中で驚きつつ、指名をもらえるのはだいぶ先になるだろうなと特に期待はしなかった。
そんな話と簡単なマッサージの仕方をレクチャーされ、初日は終了した。
そこまで専門的なことは言われなかったことは、幸いだった。これならやっていけるかもしれない。
そんな期待を抱く1日目だった。
こまめに更新する予定です。
よろしくお願いします。