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泥の騎士、泥の姫  作者: 魚の涙


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日常への回帰

 ゴブリンのスタンピードから十日が過ぎ、ルファは落ち着きを取り戻した。


「……と言った経緯で、エッダ家は取り潰しとなり領地は一先ず王家預かりとなりました。お父様からライン卿にお礼の言葉を預かっています。久々に気持ち良く暴れられたと」

「儂は何もしておらんよ。ヘクサ嬢の功績で良い」


 ヘクサ嬢が淡々とエッダ家の御家騒動とその後始末を語る。

 儂は軍務卿に礼を言われる程の事はしておらん。

 ヘクサ嬢がルファで発見した事実を、軍部に伝える事を快諾しただけだ。


「御謙遜を。ゴブリンの魔石と薬草の関係はライン卿の御協力無くして解明出来ませんでした。お父様は、エータに出来る第三のポーション工場が本格稼働し始めれば軍部が抱えるポーション不足も解決すると喜んでおられました」


 ゴブリンの魔石と緑龍骨が似た物質であれば、薬草とエータの牧草が似た種である可能性が高い。


 あの会合の終わりに、カクラがヘクサ嬢の前でそんな事を口走った。

 相変わらず嫌らしい情報の扱い方をする老獪だ。


 ルファ以外でポーションの生産量を増やすと言う事は悪い話ではない。

 王家も軍部もポーション残渣を軽く見過ぎなのだ。


 一つ気に食わないのは、あの老獪に主導権を握られ続けている事だが。


「先に宣言した通り、ルファの外で作られるポーションは王家で管理していただければ良い。ルファはルファで手一杯なのでな」

「ええ、エータの後始末は軍部が引き受けるとお父様も申しておりました」


 後始末、か。

 傭兵の残党は当然として、他にどれだけ間引かれるのやら。

 

 そしてポーションの生産が始まれば、平穏だったエータにも神が生まれる。


 本来ならば、王家はそろそろ前線を引き下げる決断をすべきなのだ。

 ポーション頼みの戦争なぞ、いつまでも続けられるものではない。

 後方のルファにここまで余波が及んでいるのだ。国境沿いの状況は語るまでもない話だ。

 ヤムと言う商人を産んだのも恐らく国境沿いのどこかだろう。


「他所の面倒事に首を突っ込む気概はない。そんな物はとうの昔に前線に置き忘れてき来たのでな」


 ヘクサ嬢が一瞬だけ満足した様な安心した様な気配を出す。

 儂に野心的な隔意がない雰囲気を感じたのだろう。実際そんな物はない。


「儂も良い加減良い歳だ。労わって欲しいものだね」





 教官から依頼された武器の手入れは、その殆どが武器を砥ぐ作業だ。

 武器を砥ぐ作業を依頼されるのに、砥石の支給はないし、備品の砥石は石と言うより砂利に近いものが多い。

 そんな砥石で普段の手入れはどうしているのかと言うと、刃の先だけを砥ぐのだ。


 これを使うのは溢れ者や鉄等級の中でそれなりに分別が付くと言った程度の輩だ。

 金属製である時点で生乾きの棍棒よりは遥かに上等なのだが、手入れの程度はそれに見合ったものではない。


 訓練場と言う名の空き地の隅に、そこそこ頑丈な小屋がある。

 その中に無造作に放り込まれていた武器を全て引っ張り出して地面に並べて広げて、持参した屑砥石で砥いでいく。

 鏡の代わりになる位までは砥ぎたかったのだが、教官からそれは止められている。

 見栄えが良すぎると持って逃げられる恐れが高くなると言われて、それはそうだと納得した。

 刃だけを最低限整えて、それでも十日掛かってようやく半分か。

 悪くないペースだ。


「誰かと思ったら、ヤグラか」


 作業に没頭していたら、背後から声を掛けられた。

 振り返って見上げると、疲れた顔のヒューズが立っていた。

 手には曲がった細い金属棒が二本握られている。

 武器としても道具としても貧弱そうな代物だが、表面はきちんと磨かれていて、それでいて僅かに黒錆が見て取れる。

 手入れを欠かさずに使い込まれている感じだ。


「何それ?」

「原始的な魔道具だ。人や物を探すのに役立つ」


 ただの曲がった金属棒にしか見えないけど、魔法具らしい。


「ふーん。何探してるの?」

「ゴブリン」


 ゴブリン?

 ゴブリン商人をまだ探しているのかな?

 多分もうルファの中にはいないと思うけど。

 死んではいないと思うけど、いや、案外人目に付かない所で死んでいるのかも。


「仕事?」

「例の侵入したゴブリンシャーマンが未発見なんだよ。どこかで死んでるかこっそりルファから逃げ出していれば良いんだがな、万が一もあるからな」


 市民居住区を調べ尽くしたから後は外側だけだと言って、僕の横に腰を下ろして水筒の水を呷った。


「……そう言えば、ヤグラと初めて会った時はゴブリンに襲われていたんだったな?」

「そうだっけ? 全然覚えてないけど」


 ヒューズと初めて会った時ってどんなだったっけ?

 ゴブリンに襲われていた?


「襲われていたと言っても撃退寸前だったがな。ヤグラが奇声上げながら剣振り上げて加勢して来て、ゴブリンと一緒に藪の中まで転がって行ったのは笑ったなあ」


 剣を振り上げて? そんな事あったっけ?

 あ、あったわ。

 ゴブリン商人逃した時だ。

 奇声ってゴブリン語の事か。


「そう言えば、あの時ヒューズって護衛も付けずに一人でルファまで来たの?」

「いや。一人冒険者を雇ってたんだが、威勢良くゴブリンに襲い掛かって棍棒で剣を弾かれて逃げ出した」

「ああ、良くある話だよね」

「逃げ出した所をゴブリンに襲われて真っ先に死んでたけどな」

「ああ、良くある話だよね」


 成程、それであんな事になってたのか。

 ゴブリン商人が連れているゴブリンって大体強いからな。

 それでいて勝てない相手には襲い掛からないからまあまあ安全なんだけど、相手から襲い掛かって来たのなら仕方ないよね。

 逃がすために耳を切り落としたけど、そのおかげで冒険者に襲われ難くなったって言ってたなあ。

 翌日に律儀に干し肉持ってお礼言いに来る辺り商人だったね。


「そう言えば、あの後会った時にヤグラから干し肉貰っただろ?」

「そうだっけ?」

「ああ、干し過ぎて味のしなかった干し肉だ」

「覚えてないけど、何でそんな物貰ったの?」

「……何でそんな物渡したのか聞きたかったんだが。後何の干し肉だったかも」


 干し肉? ……あ。


「あ」

「思い出したのか?」


 ゴブリン商人から貰った干し肉だ。

 真っ黒で何の肉かも分からないからお腹壊しそうでヒューズにあげたんだった。

 何かの肝臓って言っていた様な?


「知り合いの商人から貰った奴だね。何の肉かは分からないけど」

「……そんな物を前日初めて会った人間に、いや、この際それはいいか。その商人に会わせてくれないか? 今どこにいる?」


 何で今更? うーん。流石に市民をゴブリン商人には会わせられないしな。


「多分ルファには居ないよ。ひょっとしたら死んでるかも?」

「何て名前の商人だ?」

「名前は……そう言えば知らないな?」


 そう言えば、ゴブリン商人の名前って聞いた事ないな。無いのかな?


「何もかも知らないって……お前、何思ってアレを俺に食わせたんだ?」

「いや、お腹壊しそうだったから、つい」

「……」


 ゴブリン商人の事黙ってる代わりにと言える事は正直に言った。

 殴られるかなと思ったのに、ヒューズは意味の分からない表情をして水に流してくれた。僕なら一発殴ってるのに、良い奴だ。


 でも、その後にぼそっと呟いたありがとうって誰にどんな意味で言ったんだろうか?


 まあ、そんな事より剣を砥ぐ方が大事だけど。

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