表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥の騎士、泥の姫  作者: 魚の涙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/33

泥の騎士、泥の姫

 貧乏籤引かされたな。

 何処の誰が引いた図面かは分からんが、スノウ傭兵団の残党をまとめて嵌め込むとは大胆な図面だ。

 それも団が瓦解して弱体化した結果であり、それだけ団長が偉大だったと言う事か。


「泥の騎士を止めろ!」

「囲め! 囲んで叩け!」


 怒号が飛び交っては消える。

 泥の騎士を誰もが止められず、囲めば囲んだ側が擦り潰される。


 馬の様な胴体から生えた不定形の四つ足で大地を駆ける泥状の黒い塊。

 馬の様な胴体の上には人の上半身が生えていて、二本の腕が泥の槍を構えている。

 泥から生えているのが美少女である事が、戦場で泥の騎士の存在感を際立たせている。


 北側は比較的負担が少ないと思っていたが、これなら東側の方がマシだったか?

 いや、東側に武神が出て来る可能性ある時点で北側が最善だった筈だ。


 いずれにせよ、事前に予測していた通り作戦は崩壊した。

 闇討ちから情報を買ってなかったら、今頃俺等もあの地獄で逃げ惑っていただろうな。


「駄目だな」


 遠見の魔法を打ち切って、周囲にそう告げる。

 軽い返事と共に、俺達はルファから遠ざかる。


 団長が死んだ時点でこうなるのは確定だった。

 夢見させて貰っただけ良かったんだろうね。


「武神がいる時点で望みは薄かったからな」

「これでスノウ傭兵団も完全に消滅か」

「次の街には期待していいのか? えっーと、エータだっけ?」

「エータ地方の基幹都市エッダだな。家督争いで内戦状態らしい」

「ちょっとは期待出来そうだな」


 闇討ちから聞いた話では、死人が出る程拗れているとか。


 結局傭兵は、戦のある場所でしか生きていけないのだろう。



 自分の部屋で目を覚ますと、陽が落ちていた。

 前にもあったな、これ。


 剣は……抜いた形跡はないな。良かった。

 身体に異常もなさそうだし。


 と言うか、何をしていたんだっけ?


 ……ああ、ルファが襲撃されたんだった。

 こうして部屋で寝ていると言う事は、大した事なかったんだろうね。

 大した事なかったんだよな?


 耳を澄ませれば微かに喧騒が聞こえる。

 少なくとも、ルファが滅んだとかはなさそうだ。


 確か昨日は、寝過ごしたんだっけ。

 起きたら昼間で誰もいなくて、狼煙が上がっていたんだ。

 それで、色々歩き回らされて、市民居住区に行って……?


 あ、許可証。どうしたっけ?

 確か、内ポケットに入れていた筈……うん? 木札が入ってるな。

 それも四枚。四枚? そんなにクエスト受けたっけ?


 昨日は。昨日は……起きたら誰もいなくて。

 最初は、ヒューズだったかな?

 ああ、そうだ。配達クエストだ。

 で、続けて二回配達クエストを続けて受けて、その時に通行証を貰ったんだったか。


 ああ、あの通行証は素晴らしい物だったなあ。

 金属加工の真髄って感じだった。

 僕は砥ぐ事しか出来ないからなあ。


 ああ、そうだ。通行証……はないな。

 中央塔の門番に返したんだっけ? 多分そうだ。


 だから、配達クエストを三件達成して……四枚?

 覚えていないけど、塔の中で何かクエストを受け取ったのかな?


 木札は、配達クエストが三枚と、討伐クエスト?

 達成の確認者は、ヒューズ? 何で?

 あー、あれかな? ゴブリン商人か?

 ヒューズがゴブリン商人を討伐して、その協力をしたって扱いかな?


 ふむ、これは儲けたな。

 冒険者ギルドも忙しいだろうし、報酬は明日受け取りに行くか。

 四件もクエストを受けたせいか身体に疲れも残っているし。

 寝るか。




 ヤグラから回収した通行証を右手で遊ばせながら、ライン卿は鋭い視線で俺を見る。


「ゴブリンは討伐出来なかった、と?」

「はい。傭兵や間諜の類が十三名討伐されましたが、ゴブリンは討伐されていませんでした」


 ライン卿に報告をしながらも、あの光景を思い出すと肌が泡立つ。

 どこからともなく湧いた無数の泥が市民居住区を隈なく這い回った。

 泥は何らかの基準で市民を選別して、縊り殺した。


 何人かは市民にしては薄汚れていたから、潜り込んだ傭兵の類だろう。

 それ以外は身形の良い女ばかりだった。

 その中にはヤグラを襲った花売りもいた。


「その中には正式な紹介を受けてルファに来た者も居る様ですが、事後処理はお任せしてもよろしいでしょうか?」

「構わん。非常事態の最中に起きた不慮の事故で押し通す。何も心配はいらん」


 王家から紹介された人員もいた筈だが、そこは俺が心配する事でもないか。


「……ヤグラの、泥の後始末はいかが致しますか?」

「ああ、お前は初めて見るのだったな、泥の姫を」


 ライン卿は若干不機嫌な声でそう言って、僅かに開けた机の引き出しに通行証を滑り込ませた。


「泥の、姫ですか?」

「無数の下僕に傅かれる様と、全身を泥に包まれたヤグラがドレスを着ている様に見える事からそう呼称した者がおってな」


 姫か。確かにヤグラは若干女々しい所があるが。

 どちらかと言うと、姫と言うよりはヒモと言った印象だが。


「リリの方が騎士の様な見た目になるのでな、言うなれば二人一組で泥の騎士、泥の姫と言った所か? 実際には一柱の神が見せる異なる側面なのだがね」

「悪意を刈る神、ですか?」

「悪意そのものががリリの味方をしているだけだ。本来なら依代を殺して泥に戻してやれば仕舞いの単純な神だったのだがな、少々力が強大過ぎた」


 それなりに踏み込んだ質問をしてみたが、咎められる事はなかった。

 一定の信頼を得たとも、その程度の情報でしかないとも、どちらにも解釈出来る。

 それでも、その泥が溜まった経緯までは流石に踏み込めないが。


「あの泥は悪意と言う曖昧なモノを基準に、しかも個人の思想に左右されて動き回る神だ。リリとヤグラが穏健な性格をしている事と、記憶や思想に影響を及ぼさない性質の神であるから辛うじて共存出来ているに過ぎん」


 記憶に影響を及ぼさない?


「記憶に、影響を及ぼさないんですか?」

「恐怖や気絶で一部の出来事を忘れる程度は影響に数えん。そもそもが人間の感情に起因する神はその性質上記憶に介入出来んのが救いだ。これが偶像に起因する神は簡単にそこに介入して来るから手に負えん」


 言われてみればその通りで、確かにそれは神の性質の基本だ。

 人間の理が通用しないのが神だが、その一方で自らの根源には逆らえない。

 感情から生まれた神は自らの根源が揺らぐ事を恐れる。

 神には神の理があるからこそ、人間は辛うじて人間のままでも神と渡り合えるのだ。


 ならば、リリに関する記憶が改変されているのは別の要因?


「現状、泥の量は有限だ。初代のヤムは泥を増やさない方法を確立した功績でルファでの立場を得た。今回の一件も泥の消費を加速させたと言う意味では僥倖であった。故にヤグラの報酬に討伐クエストを付け加えたのだ。ああ、ヤグラに説明する理由は適当に考えておきなさい。冒険者ギルドと内容を共有する事も忘れない様に」

「畏まりました。……報酬が増える分には気にしないと思われますので、聞かれたら何らかの手違いである事とを匂わせておきます」

「それで構わん」


 どうせ事後処理で方々を回らされるし、リリの過去に対する認識の相違の件はそれとなくカクラ様に探りを入れるか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ