正式に非公式な仕事
今日こそはクエストをとギルドに来てみると、昼過ぎにも関わらず妙に混雑していた。
心無しか並んでいる冒険者もいらいらしている気がする。
一先ず壁クエストに目を通すが、いつも通り大したクエストは無い。
遠征系のクエストはギルドから禁止されているから除外。討伐系も剣が痛むから除外。結果的に残るのは街クエストだが、出遅れたので配送系で目ぼしいクエストは売り切れ。
清掃は面倒。となると雑用系か。
刃物砥ぎとか……は鍛治ギルドに依頼するよな。実際見た事ないし。
「よお、ヤグラ。久々に顔見たな」
今日はクエストの日じゃないなと思っていると、ケビンから声を掛けられた。
銀等級で市民権持っているにも関わらず、僕にも普通に接する良い奴だ。
リリさんと交流のある数少ない冒険者でもある。
リリさんと話す時は流石にちょっと顔が強張っていたけど。
「最近リリさんが体調崩しているらしくて。良い機会だからずっとこれ砥いでた」
話題を振られたので赤龍紋のスコップを見せびらかす。
冒険者のほとんどはスコップなんて持ち歩いていないが、ケビンはその例外だ。
銀等級で生まれた時から市民権を持っているとあって、薬草採集の常設依頼を受注出来る数少ない冒険者だからだ。
「スコップで赤龍紋? 凄い発想だな」
「ですよねー。でもそのおかげで緑龍石の欠片と併せて八ギルと四バルで買えたんですよ」
「はちぎる。凄いな」
「ちょっと割高でしたけど、掘出し物でした」
「そうか。そうか」
ケビンと話すのが久し振りという事もあり、無駄に会話が弾む。
最近姿を見ないと思っていたが、それは遠征依頼を連続して受けていたからだそうだ。
「流石に仕事し過ぎたからな。ここ数日はパーティーとしては仕事を受けていないんだ」
「僕と一緒でお休みですか?」
「レナとラナは個人でクエスト受けている様だな。俺も何か程々の依頼が無いか聞きに来たんだが、ケイトさんがお休みみたいでさ」
ケビンは良い奴だし冒険者としても一流だけど、欠点を挙げるとしたらケイトさんに入れ上げている事だろうか。
側から見ても脈無しと言うか手の平で転がされているんだけど、一向に諦める気配がない、とラナがぼやいていた。
僕にはそれ程見込みが無い様にも見えなかったんだけど。
「それでこんなに混んでるのか」
「あとマイクも無断欠勤で二人足りないそうだ」
「ふーん。確かあの感じ悪い小男だよね? マイクって」
「そうそう。お貴族様の遠縁とかで横柄な態度が目立ってたからな。ギルド職員の方々には申し訳無いが、このまま辞めて欲しいと思ってる」
ケビンにここまで言われるとか、マイクの態度は相当なんだな。
リリさん専属になってから受付はケイトさんに限定されているから気が付かなかった。
「あれ?」
「どうした?」
凄い事に気が付いてしまった。
「ケイトさん居ないって事は、結局僕は依頼受けられない?」
「ああ、お前色々制限あるんだってな」
ケビンが可哀想な者を見る目でそう言った。
元々護衛クエストくらいしか受けていなかったから問題ないけど、今の僕は自由にルファを出られない。
「その代わり、頼めばギルドが金貸してくれる」
後はリリさんの護衛クエストとか。
「えっ。それ、利子は?」
「半分位らしい。普通の金貸しの」
利子って計算方法が面倒で、半分と言われても実際どの位得なのかよく分からない。
一律で決めてくれたらいいのに。月に一ギルとか。
「……因みに今はどの位借りてるんだ?」
「今は借りてないよ? リリさんが嫌がるからか細かい条件が必要になった」
「うん。そうか、そうか」
最初に二十ギル借りた時、毎日の様に薬草採集に連れ出されて返済させられた。
あれ以降仕方ない時以外は借りられなくなってしまった。
あれ? でも今は借りられるんじゃないか?
よく覚えてないけど、借りられる条件満たしている様な?
「あー、でも今なら__」
「ヤグラ、丁度仕事があるんだが」
「仕事?」
「カクラ様と教官殿からそれぞれ仲介を頼まれていてね。ああ、安心してくれ、冒険者ギルドマスターの許可は取ってあるそうだ」
何でまたそんな話が? と思ったのが顔に出ていたのか、ケビンが苦笑しながら事の経緯を教えてくれた。
「ヤグラにしか頼めない仕事だけど、銅等級には頼めないクエストらしいよ? 多分リリさんに関係しているんじゃないかな?」
まあ、そう言われてみれば、そもそもリリさんの護衛依頼も色々とすれすれだとかケイトさんも言っていた様な?
この前受けた配達クエストでもヒューズが特例だとか言っていた様な?
態々ケビン経由で話を持って来たのは、冒険者ギルドは知らない事にするのかな?
「今回の仕事はクエストとは違って変則的な報酬になるそうだ。飯奢って貰えるのと、宿代が何日分か肩代わりして貰えるそうだ」
「あー、今はありがたいですね。普段なら断る所ですけど」
「因みに、今金欠なのか?」
そう言われて、財布の中を確認する。
……。ええっと、宿代は朝に三日分先払いして来たから。
「明日クエスト受ければ食い逸れないので、余裕ですね」
「……。教官の方は急ぎじゃないから、明日の朝に薬師ギルドまで来てくれ。色々話しておきたいから、夕方にここで落ち合おう。飯奢るよ」
やばい。ケビン、良い奴。
「やばい。ケビン、良い奴」
「……軽い街クエスト受けているから、また後でな」
そう言ってケビンはギルドから出て行った。
夕方か。今日こそはエータから来た商人を探しに行こうかと思ったけど、今からだとそんなに時間がないな。
それに朝から何も食べてないから、食い物通り行ったら我慢出来なくなりそうだ。
奢りの前に食べるなんて損した気分になるから嫌だ。
僕は握り締めたままだった赤龍紋のスコップを腰に刺すと、行く宛もなく通りに出た。
日はまだ高い。
取り敢えずスノウの店に行くかな?
きゅうと鳴く腹は無視した。




