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泥の騎士、泥の姫  作者: 魚の涙


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18/33

上品な客

 久々の感触だが、昔の様な昂りは無かった。

 そもそもが殺す積もりも無い生温い敵意だった。

 手にした角材では軽過ぎると言う事もあるし、何より相手の得物も何やら芯の通った杖程度とあってはねぇ。


 二つ斧と呼ばれたあの頃に戻るには全く足りない。

 半端な感触に対するもやもやとした不満を、青い方の魔法具を折る事で振り払う。

 でも、これはきっと良い事なのだろうね?


「良い事だって、そう思わない? 無駄な人死にを避けるなんて軟弱さが特にさ」

「……」


 接客用の笑顔で話し掛けてみたけれど、襲撃者は引き攣った顔のまま無言だった。

 折角笑ったのに。損した気分で笑みを剥がす。

 うーん。なんだか不思議な襲撃者だ。

 傭兵じゃない。こんなの戦場に出たら一瞬で死ぬ。決定的に向いてない。

 暗殺者としては一から十までお粗末。論外。

 屑共とは違う。上品過ぎる。今回は不意を打ち返せたけれど、真正面からならまあまあ善戦しそう。

 近いのは正規兵? って事はお貴族様の手駒か?


「貴族?」


 無言無表情を貫いてる積りみたいだけれども、目が泳いでる。じゃぶじゃぶ。

 お貴族様絡みか。となると、何処だろう?

 傭兵辞めてから情報収集は弟に任せっきりだから、あまり詳しくないんだよな。

 弟が警戒しろと言っていたのは、王都とライン卿と、あと幾つかだっけ?

 あー、他の国の場合もあるのか? いや、そっちは無視でいいか。

 本心から溜息を吐いて、頭髪を掻き毟って遠くを見る。


「いっそライン卿に押し付けるかな?」


 襲撃者の肩がびくりと震えた。何だこいつ? 分かり易さが過ぎる。

 ああ、そもそも実行役としての本職じゃないのか?

 本来は雇って使う側、それも伝令程度?

 うーん? そうすると、これは商人として接するべきか?

 もう一度接客用の笑顔を貼り付ける。


 凄く怯えた顔をされた。失礼な。


「あんたが何処の誰かは知らないけど、ここは商店なんだよね」


 接客用の笑顔のままそう切り出すと、胡乱な顔をして怯えられた。重ね重ね失礼な。


「商店に来たんだから商談しようよ? 売る方でも買う方でも良いけど。あ、命は転売出来ないから却下ね?」


 接客しながら、角材で襲撃者の肩を小突く。

 痛みを思い出した襲撃者がくぐもった悲鳴を漏らした。

 これを我慢する気概はあると言うべきか、この程度で声を漏らす素人と言うべきか。

 耐性が無さ過ぎて逆に拷問が難しい。ヤムみたいにされたら発狂しそう。


「まあ、取り敢えず聞かせてよ。何を買いに来たんだい?」


 襲撃者は悩む様な表情を見せる。

 ここで小気味良い返しが出て来ない辺り、能力は低そう。

 それでも貴族の手駒で、全体的な上品さ加減からそこそこ地位はある御様子。

 主人の為になるなら私の靴を舐める事も厭わない____様な忠誠心持ってたら良いな。


「ここの店主が、我が主にとって重要なモノを不当に所持している。私はそれを返して貰いに来ただけだ」


 精一杯強がって、襲撃者はそんな事を言い出した。

 うーん。忠誠心はあったみたいだけど、悪い方に発揮されてる気がする。

 今は私の靴を舐める状況だと思うんだけど。

 あー、でもこれアレか、弟が言ってたヤムの悪巧み絡みなのかな?


「おじさんの言う店主って、半分焼けた行商人?」

「そうだ」


 うわー。本当にヤムの悪巧み絡みか。

 襲撃者の正体関係無くライン卿案件じゃん。

 うーん。どの程度知ってるのかは確認しておくかな?

 この感じだとヤムが死んだ事知らない感じだし。 


「ヤムは殺されたよ?」

「何?」


 襲撃者は片眉を吊り上げて怪訝な声を出した。

 分かり易い。こんなんで大丈夫なのかなこいつ。

 よっぽど人材が無いのか? 或いは、うん。


「色々あってさ、オロシかサガリを刺激して殺されて、今は私が店主」

「ハッタリを言うならもっとマシな話を作るんだな」

「本当なんだよね、残念ながら。ヤムの悪巧みのせいでお貴族様まで出て来ちゃって大変だったんだから」


 本心から肩を竦めて溜息を吐く。

 襲撃者は信じてない顔しているけれど、言葉にすると嘘っぽいのは確かだよね?


「それはそうと、何探してるのさ? まだ売れてなければ売ってやるよ?」

「出て来ちゃった貴族、と言うのはライン卿か? もしそうなら私を紹介ぐうっ……!」


 角材で肩をぐりぐり突かれた襲撃者は身悶え始めた。

 ……折角商人らしい話の流れに持ってったのに、聞く気ないなこいつ。

 まあ、でもあれか? 客が望む伝手を紹介するのも商人の仕事の内か?

 赤字じゃなければ売ってやれってヤムも言ってたしな。


「まあ、いいか。ライン卿への紹介料払って貰うよ? 当然先払いで」


 角材を捻る手を止めずに、襲撃者の横に屈んで懐を漁る。

 ……普通に財布が出て来たよおい。

 ……ちゃんと中身も入ってるし。


 ああ、来たか。見ていた訳じゃないだろうけれど、間の良い事だ。

 笑顔を接客用のそれから普通のそれへ張り替える。

 何故か襲撃者は涙目で目を剥いた。


「……金払ったんなら客だな、一応。警吏や商業ギルドじゃなくて、魔法使いギルドに引き渡してやるから、後は上手い事やりなよ?」


 角材を引いてやると、襲撃者はぷるぷる震えながら黙り込む。

 目尻に涙を浮かべながら睨みつけられても迫力がない。

 その後ろで、黒いフードを被ったヒューズさんが店に入って来て、何故か硬直した。

 口を半開きにした顔で襲撃者を凝視している。


 この前ライン卿の紹介で顔合わせした、魔法使いギルドのヒューズさん。

 程良くやさぐれた感じの良い男だ。


「……どんな状況ですか?」


 視線を襲撃者の方に固定したままヒューズさんが私に聞いて来た。

 うん。声も良いんだよね。凄く聞き取り易い発音。


「襲って来たので返り討ちにしました。話を聞くとヤムに用事があったみたいです」

「貴様、グレイブあぁっ……!!」


 襲撃者が未だに立場を理解していないので、踵で肩を刺激して黙らせる。

 ヒューズさんは襲撃者から視線を外すと、真っ直ぐに私を見た。


「……襲撃者なら赤を使いなさい」

「申し訳ありません。襲撃者としては上品が過ぎましたので、つい」


 ヒューズさんが踵を退かせと顎で指示するので、最後に一捻り加えてから二歩下がる。

 ヒューズさんはじろじろと襲撃者を観察して、それだけで大凡の身元は分かったらしい。


「ふん。エータの、落目の貴族か」


 ヒューズさんの挑発的な言葉に対して襲撃者は何か言いたげだったけれど、痛みが酷くて声も出せない様だ。


 エータの貴族。ヤグラが赤龍紋のスコップ持ってたけど、まさかね?

 ヤグラに売った物の記録は引渡済みだし、関係があれば勝手に気が付くか。


「ライン卿に指示を仰ぐ。少し外すので、逃がさない様に」

「畏まりました」


 最近練習している貴族式の礼をすると、ヒューズさんは店の外へ出て行った。

 やっぱりあの板状の魔道具は伝令用か。

 隠したいなら頻繁に意識しない方が良いよ、と言うと気付いている事がバレるし、どうしたものかな?

 取り敢えずは知らない振りをしておくか。


 笑顔を接客用のそれに張り替えて、襲撃者改めお客様に向ける。

 ライン卿からの指示を待つ間する事もないので笑顔を振り撒いておく。

 笑顔は仕入れ無料だし。


「じゃあ、後は頑張ってね?」


 怯えながら睨み付けられた。

 最後まで失礼な。

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