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泥の騎士、泥の姫  作者: 魚の涙


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17/33

的外れな詰問

 スノウと生前のヤムの話をダラダラと話していたら、夜になっていた。

 食い物通りで女商人を探すのは明日に回して、門付近まで歩いて適当な飯屋に入る。

 僕が利用できる飯屋で、日が暮れた後にも開いている所は門の辺りまで来ないと無い。

 街の中に向かえばあるらしいけど、市民権が無いと入れない。


「ん?」

「……ヤグラ様ですか」


 肉と花を炒めた物を食べていると、珍しい人が向かいに座った。

 冒険者ギルドの受付のケイトさんだ。


 僕はこの人が苦手だ。いつも変な圧を感じる。

 でも、丁寧と威圧の混じったこの態度は参考になる。

 リリさんと泥に相対する時に、意味も無くケイトさんの口調を真似し始めて、今ではこの丁寧な物言も大分慣れて来た。

 強がってないと舐められるのが冒険者だけど、何度かリリさんのクエスト受けたらそんな必要はなくなった。


 ケイトさんに何の肉かと聞かれたので分からないと答えた。言われてみればコレ、何の肉だろう?

 ケイトさんは眉を顰めてから店員を呼び、蒸し花の酢浸しを頼んだ。

 店員は代金を受け取ると店の奥に引っ込んで、直ぐに蒸し花の酢浸しを一鉢持って来た。


「珍しいですね。市民の人もここに来るんです?」

「今日は特別ですね。少しばかり仕事がありまして」


 夜まで? 大変だなあ。

 この後も冒険者ギルドに戻って仕事なのか。


「夜まで仕事ですか? 大変ですねー」

「ええ、まあ。……ヤグラ様は本日クエストを受けませんでしたが、こんな夜遅くまで何を?」

「リリさんのクエストがないので、昔知り合った商人の店に行こうと思って」

「昔知り合った……。何か約束事でも?」


 約束と呼べる程の事でもないけどね。そう言えば護衛の後にクエストが何とか言われていたような?

 覚えてないし一年も前の事だから、そんな話は無いのと一緒だろう。

 店に顔を出すのが約束と言えば約束かな?


「護衛クエストを受けた後に、今度店に来てくれと言われまして」

「……最近ヤグラ様が護衛クエスト受けた記憶はないのですが?」


 ケイトさんが圧を強めながら睨んで来る。

 もっとクエストを受けろという事だろうか。

 嫌だけど。


「一年前の事なんで」

「一年……えぇ……」


 ケイトさんもスノウみたいに呆れた様な顔をする。

 真人間代表みたいなケイトさんもこの反応と言う事は、一年も店に行かなかった事は流石に良くなかったのか。

 リリさんも約束事は律儀に守る方で、それはクエストに関係する事だからだと思ってたけれど、ルファ程の規模の街の中ではそれが常識なのだろうか。

 開拓村だと約束なんて守られないつもりで交わす物だからなあ。

 何せあそこはいつ誰がどんな理由で死ぬかも分からないから。


「エータ出身の商人で、赤龍紋のナイフ触らせてくれる凄い良い人だったんですよ」

「ナイフ……。で、その良い商人さん誘われて、一年も顔を出さなかったんですか?」

「食い物通りに店を構えるって話だったんで、正直行く用事も無くて」

「ひょっとしたらその商人は、何かクエストを依頼したかったのかも知れないですね?」

「ああ、だとしたら行かない方が良いのかな? 今あんまりクエストの気分じゃないし」


 出来る限りクエストは受けたくないんだよな。

 収入が無いと砥ぐ事も出来ないから仕方無く受けるけど。


「嘆くべきか安心すべきか……ああ、いえ、こちらの話です。で、その商人の店に行ったのですか?」

「いや、それが、名前も覚えてないので思い出そうと頑張ってみたんですが、正直顔もぼんやりとしか覚えていなくて。一年前にエータからの護衛クエストを受けた女商人ですが、ギルドで誰だか分りません?」


 うん。今気が付いたけど、顔も覚えてないんだよな。

 赤龍紋のナイフ手放して無ければ見つけられると思うけど。


「生憎冒険者ギルドからその様な事は御案内致しかねますので。その方から個人的にクエストを受注するお積りで?」

「食い物通りに店を構えると言ってたので、何か食べ物貰えないかなって思って。あれ? そもそもギルド通さずに依頼受けるのってありなんだっけ?」

「冒険者ギルドにバレたら罰則、悪質な場合は警吏に突き出します」


 ええ……じゃあ何で聞いたの?


「……じゃあ何で聞いたんですか?」

「冒険者の取り締まりも業務の内ですので」


 ……やっぱり冒険者ギルドって、ちょいちょいおっかないんだよな。

 さらっと冒険者を人間扱いしない瞬間があると言うか。


「いやいや、勝手にクエスト受けたりしませんよ! 面倒臭いしおっかないし、面倒臭いし」

「咄嗟に出て来る理由はさて置き、野良クエストを受ける気がないのは良い事です」

「そうですよ、僕は良い冒険者ですから」

「その意見には賛同致しかねます」

「えぇー……」


 凄い自然に辛辣な物言い。

 まあ、冒険者は基本信用ならないし仕方無いか。


「そこの腰に下げている、スコップ? はその商人から買った物でしょうか」

「あっ、気が付きました? ヤム商会で買った赤龍紋のスコップなんですよ! 緑龍骨と一緒に八ギルと四バルで買って」


 僕は腰から抜いたスコップをテーブルの上に乗せて、赤龍紋がケイトさんが見やすい方向に向けた。


「はちぎる……」

「買った時は錆だらけだったのを頑張ってここまで砥いだんですよ! ちょっと高かったけど良い買い物でした!」

「ちょっと……」


 いやあ、やっぱりケイトさんは良い人だ!

 このスコップに気付くとは、出来る受付嬢は違うなぁ!


「……そのスコップ、特徴的な記号と文字が見える気がするのですが?」

「ああ、やっぱり文字に見えます? エタって読めますよね?」


 そうなのだ。このスコップの赤龍紋は文字に見える。

 中々に珍しいスコップではなかろうか?

 まあ、赤龍紋のスコップって時点で珍しい通り越して奇抜なスコップだけれども。


「エタ……牛角……エッダ……」


 ケイトさんは物珍しげにスコップの赤龍紋を見詰めて、何やら考えながら呟いている。

 相変わらず圧が強いけど、僕の砥いだスコップを評価してくれるにだから良い人ではあるのだ。


「そのスコップはどこから仕入れられたのか聞いていますか?」

「さあ? ヤムは死んじゃったし」

「ああ、お亡くなりになったんでしたね、あの方」


 ケイトさんがヤムと知り合いである様な物言いをするのを少し不思議に思ったけど、よく考えたらヤムって商業ギルドでもまあまあ偉い人だって言ってた様な気がする。

 あれって本当だったんだな。


「ひょっとしたらスノウが知っているかも知れないな?」

「スノウ? あの潰れた傭兵団の団長ですか?」

「今のヤム商会の店主がスノウって言うんだけど……スノウ傭兵団って無くなったの?」


 あの偽名の店主の名を言うと、ケイトさんが訝しげな顔で僕の知らない話をして来た。

 最近もスノウ傭兵団の名前を聞いた記憶があったのだけど、もう無いのかな?


「厳密には無くなったとも言い切れない状態ですね。何年か前に団長が戦死して、その後スノウ傭兵団を名乗る残党が幾つか存在している状態です。まあ、誰もが以前のスノウ傭兵団とは別物と認識していますが」

「ああ、それで最近も名前を聞いた記憶があったのか」

「幸いな事にルファは前線からも境界からも距離がありますから。市民の方にも詳しい話をご存知でない方はいると思いますよ」


 それでも名前が残る程度には大きな傭兵団だった、と言う事なのかな?

 ……スノウはそんな名前を偽名に使って大丈夫なのかな?

 お貴族様が承認しているとか言ってたし、大丈夫かな。


「それで、スノウ傭兵団の関係者が何故ヤム商会の後釜に?」

「関係者なのかな? 多分偽名で、お貴族様が名付けたとか本人は言ってたけど?」


 でも、案外本当に関係者なのかも?

 凄いおっかない用心棒だったんだし。


「お貴族様、ですか。成程、興味深いお話でした」


 おっかないけど馬鹿そうなスノウの顔を思い浮かべていると、ケイトさんが手付かずの蒸し花の酢浸しを僕の方へ押しやって、席を立った。


「用事を思い出しましたので、これはヤグラ様に差し上げます」


 そう言うが早いか、颯爽と店から出て行ってしまった。

 僕は蒸し花の酢浸しを一口食べる。

 初めて食べたけど、甘ったるくて意外と美味しい。


 それにしてもケイトさん間が悪い。肉と花の炒め物を頼む前に来てくれたら食費が浮いたのにさ。

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