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7話 サラ、地上へ

サラとモーラが話をした翌日、鏡を見ているサラの元に、農業の男神ハービスが現れた。


「聞いたよ。大変だったね。ヒューイはもしかしたら、農民に生まれ変わったのかも知れない。

農作物のことで祈ったら、俺の方が感知は早いと思う。見つけたら連絡するよ。」


今はまだ赤ん坊でも、すぐに祈りを捧げる年齢になるだろう。


探すのなら、一人でも多い方が良いに決まってる。


サラは、ハービスに感謝の言葉を告げた。


金銭の男神ゴルダードは商人になるかもしれないと言い、健康の女神サンテは、人間ならまずは健康第一でしょと言った 。


サラの元にやってきた神々は皆が協力を惜しまないと約束してくれた。


本当に優しい神々だ。


サラは、友に感謝し、友と自分を結び付けてくれたヒューイにも有難うと伝えたかった。



しかし、きっとそのうちに見つかるだろうと楽観していたが、残念なことにいつまでたっても、誰もヒューイらしき人間を見つけることができなかった。


何故? 


もしかしてオーラが出ないとか?


サラの心に不安が過ぎった。


いやいや、不安がってはいけない。


まだ探し足りないのだ。


きっとそうだ。


サラは毎日寝る間を惜しんで探し続けた。


だが、あっという間に二十年が過ぎてしまった。


ヒューイを見つけられないまま・・・。


約束の日が来た。


サラは神殿に行き、あの日と同じように神殿の前に立った。


神殿はあの日と変わらず、この世の全てを飲み込むのではないかと思うほど巨大だった。


違うのは隣にヒューイがいないことだけ。


サラは、深呼吸をすると階段を上り、大きな入り口をくぐり、真っ白な広間に入った。


たった二人には広すぎる広間の真ん中で、父神ゼシューが待っていた。


ゼシューの姿も何も変わらない。


違うのは、あの日のようなヒューイに向けた厳しい目ではなく、慈愛に満ちた優しい目であった。


サラはゼシューの前まで歩くと立ち止まり、跪いた。


そして手を胸の前で組み言った。


「父神様、約束の日になりました。どうぞ、私を地上へと降ろしてくださいませ。」


「ああ、わかっているよ。だが、その前に・・・」


サラは言葉を切ったゼシューを不思議に思いながら、次の言葉を待った。


「見送りの者たちが来ているようだ。」


ゼシューはサラの後ろにある巨大な入り口に目を向ける。


釣られてサラも後ろを振り向くと、入り口の壁から顔が五つ覗いていた。


「サラを見送りに来たのだろう? 遠慮せずに入ってきなさい。」


五人の神はほっとした様子で、中に入ってきた。


農業の男神ハービス、健康の女神サンテ、金銭の男神ゴルダード、愛の女神モーラ、戦神の男神ビンセル。


特に仲が良かった四人の神と、モーラの恋人が見送りに来てくれたのだ。


サラは嬉しさの余り泣きそうになったが、ぐっと堪えた。


「みんな、来てくれてありがとう。私、必ずヒューイを連れて帰ってくる。」


「頑張ってね。いつも天界から応援しているよ。食べ物で困ったら、俺に祈るといい。」


「病気になったら、私に祈るのよ。」


「お金に困ったら俺な!」


「引継ぎはバッチリしたから、天界のことは心配しないで頑張ってね。でも、寂しくなったら、私に祈って。」


「必ずヒューイを連れて帰って、俺を楽にしてくれよな。」


モーラが、もうビンセルったら・・・と肘で突くと皆から笑いが起こった。


「では、別れの挨拶も済んだことだし、そろそろサラを地上に降ろすとしよう。」


ゼシューの言葉で皆に緊張が走った。


皆の神歴は長いが、ゼシューが神を地上に降ろすシーンをまだ見たことがない。


サラも含めて緊張と好奇心が混ざり合った目でゼシューを見つめた。



ゼシューは右手に持っていた杖で空中に大きな円を描いた。


するとどうだろう。


シャボン玉のような透明な球体が現れて、ゼシューの杖の動きに合わせるように大きくなり、人が余裕で入れるような大きさになると動きが止まり、ゆっくりと床に下りてきた。


球体は床に着くとドーム型になった。


次に、杖の先でドームの横をポンポンと優しく叩くと、ドームの中が花でいっぱいになった。


まるで、花が咲き乱れる地面の一部を切り取って、中に入れたみたいだ。


見ていた神々が驚いてわーっと声を上げると


「なーに、ちょっとした演出じゃよ。」


ゼシューは、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「さあ、サラ、入りなさい。そして横になりなさい。」


サラは、言われるままにドームに入ろうと思ったが、入り口らしきものがない。


どうしたら良いのかわからず、右手をドームに添えようとしたら・・・


右手はドームを通り抜けた。


納得したサラは、そのままドームに向かって直進する。


すると全身が通り抜け、すっぽりとドームの中に入ってしまった。


見送りに来た神々はサラの動きに釘付けだ。


サラはゆっくりと腰を下ろして横になり目を閉じた。


そして胸の上で指を組んだ。


花いっぱいの中で横たわる姿はあまりにも美しく荘厳で、見つめる皆から、ほうとため息がもれた。


ゼシューが杖の先を上へ向けると、ドームはその動きに合わせて床から離れ球体になって浮かびあがった。


ドームの形では床の上に横たわっていたサラは、球体になると球の真ん中に位置を変えて横たわっている。


そしてそのまま球体は上に上がっていき、皆の手が届かないところまで上がると、ゼシューが杖で円を描いた。


すると、音もなく球体は消えた。



一瞬の出来事で、神々は声を出すこともできなかった。


しばらく呆然として球体が消えたあたりに目を向けていたが・・・


「行っちゃった・・・」


モーラの一言で皆我に返った。


ああ、行ったなとビンセルがモーラの肩を抱きよせた。



天界でサラを見送った神々が感慨にふけっている最中、地上の一画では上を下への大騒ぎになっていた。


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