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4話 父神ゼシューの怒り

父神が住む神殿の前で、サラとヒューイは立ち止まり、ごくりと息を飲んだ。


歩いている最中は多少の緊張を感じていたが、まだ足取りは軽く、気持ち的には楽だった。


しかし、いざ巨大な神殿を目の当たりにすると、緊張が急に高まり、身体全身を貫いた。


このままじっと立っていたら、震えてしまいそうだ。


「じゃあ・・・、入ろう・・・か・・・」


ヒューイの明るさがしぼんでしまい、声もいつもより弱々しい。


ヒューイの緊張が手を通して伝わってきて、ヒューイの手を握るサラの手に、ギュッと力が入る。


父神の神殿は、白く石のように硬い材質でできており、横幅も縦の長さも、ともかく大きい。


階段を五段上がった先には、真っ白な太く長い柱が横並びに数えきれないほど立っており、解放されている入り口も巨人用ですか?と思うほどの大きさだ。


ヒューイが父神に呼ばれてここに来るたびに、一人で暮らすには大きすぎるだろうと思うのだが、きっと父神としての威厳を保つための大きさなのだろうと、一人納得していた。


二人は手を繋いだまま、階段を上がり、神殿の中に入った。


中の広間は壁も床も真っ白で、とても広く天井が高い。


広間をまっすぐに突っ切ると、別の部屋に続く黄金色の扉があった。


この扉は縦三メートル、横二メートルほどの観音開きの扉で、美しい花の模様が施されている。


扉の大きさから考えて、ここからが父神様の居住区なのだろう。


二人は繋いでいた手を放し扉の前に立った。


ヒューイが緊張しながらドアをノックした。


返事を待ったが、返事はなく、もう一度ノックをしようとしたら、ドアがぎぃーと音を立てて内側に開いた。


遮るものがなくなった部屋を見ると、縦横二十メートル程の四角い部屋で、真っ白な部屋の一番奥に、父神ゼシューが木でできた杖を右手に持って立っていた。


混じり気のない白髪は床まで届くほど長く、口の周りの白い髭も厚く顎髭は腰のあたりまで伸びている。


その外観から、かなりの老齢だと見えるのだが、ヒューイよりも背が高く、がっしりとした体つき、背筋が伸びた立ち姿、金色の瞳から放たれる鋭い眼差しは、まったく年を感じさせない。


その目は正面に立っているヒューイを鋭くにらんでいた。


ヒューイは小走でゼシューの前まで走った。


サラはその後を追い、ヒューイから少し離れた後ろに立って見守る。


ヒュ―イは、ゼシューの前まで来ると、いったん気を付けの姿勢をとった後、腰を深く曲げ、礼の姿勢をとった。そして頭を下げたまま


「父神様、この度は申し訳ござ」


「ヒューイ」


ゼシューの部屋全体に響き渡る怒鳴り声が、ヒューイの謝罪の言葉を遮った。


言葉を遮られたヒューイは続きの言葉を紡げず、訝し気に顔を上げた。


「ヒューイ、お前は勘違いをしている。わしは、お前の謝罪を聞くために呼んだのではない。許すためでもない。」


「で、では、なぜ俺を呼んだのですか?」


混乱するヒューイの心の中に不安が過ぎった。


「わからないのか? お前に罰を与えるためだ。」


「罰?」


「今まで何度も忠告したが、お前は聞かなかった。仕事をさぼるお前の所為で、いつまでたっても戦争が終わらないではないか。どれだけ戦争で多くの人間が苦しんでいると思うのだ。」


「で、ですが・・・、俺だって苦しかったのです。」


「苦しい? こんな平和な天界にいて、よくもそのようなことが言えたものだ。

お前は人間の世界に行って、人間の苦しみを知るが良い。

お前に与える罰は、人間として生まれ、生き、人間として死んでいくことだ。」


二人の会話をサラは、ガクガク震えながら聞いていた。


このままではヒューイがいなくなってしまう・・・。


サラは思わず前に出て、ゼシューに叫んでしまった。


「お願いです。父神様、どうか、どうか、ヒューイにそのような罰をお与えになるのは、おやめください。ヒューイが仕事をさぼったのは、私の所為でもあるんです。

ですから、どうかどうか・・・」


最後の方は心が混乱し、言葉が出てこない。


「サラ、お前は関係ない!」


驚いたヒューイはサラを左手で制し、一歩前に出た。


「父神様、サラは関係ありません。これは私一人の問題です。」


ゼシューは、ヒューイを無視し、サラに優しい目を向けた。


「サラ、わしはお前が真面目に仕事をしていることを知っているよ。ヒューイに何度も注意していたこともね。だから、お前が気に病むことはない。」


次はヒューイに厳しい目を向けた。


「ヒューイ、お前に罰を与えることは変わりない。お前を天界から追放し、地上へ下ろす!」



もし、ヒューイがサラに出会う前だったら、売り言葉に買い言葉で、地上へでもどこへでも行ってやらあ!と父神に悪態をつき、天界に未練もなく地上に下りただろう。


しかし、ヒューイには愛してやまないサラがいる。


もし、本当に地上に下りてしまったら、天界から自分がいなくなってしまったら、サラはどれだけ嘆き悲しむことだろう。


寂しがり屋のサラだから、寂しくて毎日泣いてしまうかもしれない。


サラに辛い思いはさせたくない。


サラのためなら、何度でも頭を下げてやる。



ヒューイはぐっと我慢して、父神に再度頭を下げた。


「父神様、本当に申し訳ございませんでした。これから、心を入れ替えて真面目に仕事をします。ですからど」


「くどい! 何度言ったらわかるのだ。お前を許す気などない。お前は今すぐ地上に下りるのだ!」


ゼシューの大声が部屋中に響き渡る。


再度謝罪を遮られたヒューイは、顔を上げゼシューを見た。


「今すぐ?」


「ああ、今すぐだ。」


今すぐだなんて、サラに別れの言葉も掛けられない。


仲の良かった神々に、サラをよろしくと別れの挨拶もできない。


いくら何でも、ひどすぎないか。


そう思うと、ヒューイの胸に怒りが込み上げてきた。


怒りは頂点に達し、ヒューイの赤い瞳は激しい怒気をはらみ、ゼシューを睨んだ。


「父神だからって、そんな勝手が許されるのか!」


「勝手なのはお前の方だ!」


ゼシューは、今までにない程の厳しい目で睨み、杖を持った右手を頭上にあげたかと思うと、杖の底で激しく床を打ち付けた。


ドオオオオ――――ン!


落雷のような激しい音が神殿中、否、天界中に響いた。




その一瞬で、ヒューイは・・・消えた・・・。





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