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2話 出会い

サラは天界に生まれて五百年になる。


ヒューイはもっと前からいたらしい。


本人に聞いても、いつからだったか忘れたと言うから、正確なところはわからない。


サラの初めの二百年は孤独だった。


他の神々に自分から話しかければ良かったのだろうが、どうもサラには苦手なことだった。


仲の良い神々が楽しそうに雑談をしているところを何度も見ては、自分も中に入りたいと憧れはするものの、その中に入れてもらおうと一歩踏み出すことができなかった。



二百年目を過ぎた頃、赤い髪のヒューイが話しかけてきた。


「一人でいるのが寂しそう。違ってたらごめん。」


あぁ、この戦神は、心の優しい神なのだとサラは思った。


意地を張って、寂しくないわよとは言わなかった。


だって、本当に寂しかったから。


でも、何て言ったら良いのかわからず、サラは無言で俯くだけだった。


それから毎日毎日ヒューイは話しかけてきた。


主に地上の人間の話だったが、ヒューイが見た人間の話を面白おかしく話すので、思わず笑ってしまうこともしばしば。


そんなとき、ヒューイは言うのだ。


「笑ってるサラは可愛い。」


見つめる赤い瞳はとても温かい。


サラは頬を赤く染めながら嬉しいと思った。


ヒューイとの会話に慣れてきた頃、今日は笑わずにやり過ごそうと思って、笑いたくなるのを我慢して澄ました顔でいると、ヒューイは笑いながら言った。


「澄まし顔のサラも可愛い。」


そして、急に真面目な顔になって、サラをじっと見つめて言葉を紡ぐ。


「好きだよ。」


突然のその言葉に、サラは澄まし顔を続けることができなくなって、真っ赤になって俯いた。


「ああ、サラは、本当に可愛い。」


ヒューイは俯いたサラの頭を両手で優しく包み、輝くピンク色の髪にキスをした。


その瞳は相変わらず暖かく優しい。


「サラ、愛してるよ。」


二百十年を過ぎる頃には、サラにとって、ヒューイはとても大切な存在になっていた。



サラは孤独ではなくなった。


ヒューイがいるから。


サラの隣でヒューイは自分の鏡を置き、人間を見守ることが常となった。


木枠の模様は尾が長い不死鳥。


ヒューイとサラは、その日に見守った人間の事を話し合う。


サラにはそれが毎日の楽しみになった。


さらに、ヒューイを通じて、他の神々とも親交を深めるようになった。


ある日、仕事に疲れた二人が休憩がてら散歩をしていると、前方の少し離れた場所に生えている赤い実がなる木の下で三人の神が雑談をしていた。


傍に鏡がないところを見ると、どうやら、二人と同じく休憩中のようだ。


芝生の上に座り込み、何やら笑い声も聞こえる。


なんだかとても楽しそう。


サラは、ちょっとうらやましく思いながら眺めた。


隣にいたヒューイは、サラの顔を覗き込み、次に前方の神々に視線を移し、またサラを見て、


「行こう!」


サラの手を握り、神々の元へと駆け出した。


えっ?と思ったものの、サラは、つながれた手の暖かさを感じながら、一緒に駆けた。


「ねえ、俺たちも入れてくれない?」


ヒューイは、とっても明るく、人懐っこく声をかける。


緑髪で瞳が茶色い農業の男神ハービスが、どうぞどうぞと自分の隣を手で示し、座るように促した。


金髪で瞳が黄色い金銭の男神ゴルダードが、おや、お話しするのは初めてですねと受け入れた。


オレンジ髪で瞳が明るいピンク色の健康の女神サンテは、サラに微笑みかけ、前から一度お話してみたかったのと優しく話しかけた。


サラとヒューイはハービスとサンテの間を二人分空けてもらい、そこに座って話に混ざった。


サラにとっては、父神とヒューイ以外の神と話すことは初めてなので、緊張して上手く話せず、ただ、話を聞いているだけだったが、隣にヒューイがいる安心感と、3人の神々の優しさのおかげで、とても居心地よく感じた。


しばらくすると、緊張も解けて、ハービスの話のあまりの面白さに、口を手で隠すことも忘れて、アハハハッと大きな声で笑ってしまった。


そして、そんな自分に驚いた。


サラは自分はとても幸せだと思った。


ヒューイは、サラの大きな笑い声に一瞬びっくりしたが、すぐに満足げな笑みを浮かべた。



サラが今まで壁だと思っていた距離を、ヒューイはサラの手を取り、あっさりと飛び越えた。


今まで、この場に自分がいることに憧れてはいたけれど、叶うことなどないと思っていたのに・・・。


サラは、ヒューイへの感謝の気持ちでいっぱいだった。


もし、回りに神々がいなかったら、ヒューイの胸に飛び込んで、感謝の気持ちを伝えただろう。



神々が仕事に戻って二人きりになったとき、サラはそっとヒューイの右手を両手で握り、頬を染め恥ずかしそうに、自分の気持ちを伝えた。


ありがとう。

愛しています。


ヒューイはそんなサラを優しく抱きしめ、水色の瞳を見つめてサラの唇に甘く熱いキスをした。



サラとヒューイがお互いの気持ちを確認し合った頃、ヒューイは、たまに不満は漏らすものの、まだ仕事に対して熱心だった。


真面目に地上の人々を観察し、見守っていた。


ヒューイが変わり始めたのは百五十年前の出来事がきっかけだった。




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