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1話 天界のお仕事

引き離されてしまった恋人を、探して旅するお話です。

旅の途中でいろんな出来事に巻き込まれ、ハラハラドキドキ? 

旅に出るのはまだまだ先ですが、どうぞ、ごゆっくりお楽しみください。

聖女サラは、一緒に旅をする四人と共に、神殿の前に立っていた。


見送りに来た国王レオンは、名残惜し気にサラに話しかけた。


「サラ、元気でね。何かあったら、必ずすぐに戻ってくるんだよ。」


レオンの言葉にサラは優しく微笑んだ。


「それでは行ってきます。」


サラたちは馬車に乗り込み、護衛二人と一緒にゆっくりと神殿から出て行った。


「聖女様、聖女様が来てくれたら、国民の皆さんは大喜びですね。」


馬車に中で、侍女のアイリスが嬉しそうに話しかけた。


「ええ、そうだと私も嬉しいわ。」


そう答えながらも、サラはちょっとだけ胸が痛んだ。


ごめんなさい。国民も大切だけど、私には国民よりも、もっと大切な人がいるの。


誰も知らないことだが、聖女サラは、少し前まで天界に住む女神だった。


二十年前のあの出来事がなかったら、今も、天界で女神の仕事をしているはずだった。



   * * *



ここは神々が住まう天界。どこまでも続く果てしない平原には、見渡す限り色とりどりの花が咲き乱れ、上を見上げれば、雲一つない青空が、どこまでも続いていた。


その中で、赤い髪、緑の髪、ピンクの髪など様々な髪色をした神々が、それぞれ好きな場所で仕事をしている。


髪の色に加え顔の造形は皆美しく、まるで花畑の中に大きな美しい花が点々と咲いているようだ。


神々は、ゆったりとしたノースリーブの白い神服に、皮のサンダルというシンプルな服装であったが、腕も足も滑らかで白く、よけいに美しさを際立たせていた。


神々の中には、腰を麻紐や、リボンで結んでいる者もいるし、髪に花飾りをつけている者もいる。それなりのおしゃれを楽しんでいるのだろう。


神々は、皆、自身が持つ鏡を見つめていた。鏡の大きさは直径50センチメートルほどの円形で回りは木枠で囲まれているちょっと古風な鏡だ。



薄桃色の桜草の花が咲き乱れる一画で、腰まで届く淡いピンクの髪に水色のスミレの花飾りを付けた女神が鏡を見つめていた。


女神の名前はサラ。その瞳は、晴れ渡った空を映した湖のようにキラキラ輝く水色だ。


女神サラは、木枠にスズランの絵が描かれた鏡を桜草が満開の地面に立てて、優しい微笑みを浮かべながらじっと見つめていた。


別に自分の美しい顔を見つめているわけではない。この鏡、普段は普通の鏡であるが、指でくるりとなぞると、人間界を覗くことができる人間観察道具なのである。


「ほら。花屋のリリーが、今日も神殿に来たわ。」


サラが微笑みながら鏡を指さした。


リリーは茶色い髪を二つ括りにした三つ編みお下げの可愛い十二歳の少女だ。


田舎町の小さな神殿に、最近毎日のようにやって来ては祈っている。


一番前の長椅子に座って両手の指を組み、一生懸命に祈る姿が可愛らしい。


「ふふふ。リリーの願い事は、いつも同じ。鍛冶屋のジョンと仲良くなれますようにって。ね、可愛いでしょ。」


サラは、可愛いリリーを見つめ微笑んだ。


「どれどれ、あぁ、可愛いけど、サラには負けるな。」


隣で話しかけてきたのは、腰まで届く燃えるような赤い髪を麻ひもで一つに結び、赤い瞳を持つヒューイだ。


サラの隣に座り込み、一緒に鏡を見ている。


ヒューイはサラの肩を抱き寄せ、鏡を覗きながら話し続ける。


「何と言っても、天界でも地上でも、一番可愛くて美しいのはサラだよ。」


そう言って、サラの頬に甘いキスをした。


「もう、ヒューイったら・・・。あなたは仕事をしなくていいの? 仕事をしないと父神様にまた叱られるわよ。」


神々の仕事、それは、鏡を使って、地上の人間を観察し見守ること。


そして、人間が祈る言葉に耳を傾け、願いを叶えるかどうかを決めること。


人間の願いは際限がなく膨大だ。


すべてを叶えるわけにはいかない。


すべての願いを叶えると、人間は神に頼ってばかりで、自分で努力をすることを怠ってしまう。


だから、人間をよく観察して、叶えるべきか叶えないべきかを決めるのだ。


初めは、一人の神、ゼシューが天界を作り、人間の世界を作った。


人間を作ったゼシューはそのまま放っておくことができず、毎日人間を見守っていた。


見守るだけでは物足りないと思ったゼシューは、人間の願い事もかなえてやろうと、一人でその仕事を担っていたのだが、人間はどんどん増えていき、とてもゼシュー一人では担いきれなくなってしまった。


そこで、ゼシューは自分の髪を1本抜いて神を作り、仕事を分けた。


人間が増えるたびに、また一人、また一人と神は増えていき、増えたら増えたで、仕事が乱雑になっていった。


そこで、ゼシューは髪の色で仕事を分けることにした。


ピンクの髪は愛の神、赤い髪は戦の神、緑の髪は農耕の神、オレンジ色の髪は健康の神、金色の髪は金銭の神だ。


他にも必要に応じて、色の種類は増えていった。


同じ髪色の神が何人もいるのだが、人間はそれ以上にもっと多く、どの神も、忙しい日々を送っていた。


花屋のリリーを見守っているサラは、淡いピンク色の髪だから愛の女神なのである。


十二歳のリリーは、毎日のように神殿に来ては、ジョンとの可愛い恋をお祈りしている。


今日は仲良くなれますように。今日はお話できますように。いつかはデートができますように。


サラは、リリーの祈りに耳を傾ける。


だが、リリーの思い人ジョンの気持ちを無視して、無理やりリリーを好きにさせるようなことはしない。


人間は神の操り人形でもなければロボットでもない。


ジョンの自然な気持ちこそが重要だ。


だから、サラは、リリーの可愛い祈りに対して、可愛い幸運を授けていた。


祈りが終わったリリーは、神殿を出て、母に頼まれた買い物をするために市場に出かけた。


八百屋でキャベツを買おうと財布からお金を出した際に、コインを一枚落としてしまった。


コインはコロコロと転がり、リリーは慌ててそれを追いかける。


そのコインは一人の少年の足元まで転がり、拾われた。


リリーが、コインを拾われた手から目線をあげると・・・、ジョンだった。


何という幸運!


「あっ、ジョ、ジョン。ありがとう。」


真っ赤になりながらお礼を言うリリー。


「まったくもう、そそっかしいんだから、しっかりしろよな。」


とお金を渡すジョン。


しかしこれだけ。


リリーはお金を受け取ると、くるっと背を向け八百屋に戻り、キャベツを買って急いで帰ってしまった。


なかなかこの恋は進展しそうもない。


「あぁ、リリーは恥ずかしがり屋さんなんだから・・・。いつになったら実るんでしょうね。」


「そうだな。早く俺たちみたいに、愛し合えるようになれるといいな。」


ヒューイはサラの美しい水色の瞳を見つめ、髪をなで、今度はおでこにキスをした。


「ヒューイ、私も愛してる。でも、私の傍にいてばかりだとダメよ。あなたも仕事をしなくっちゃ。」


サラは心から心配しているのだが、ヒューイにとっては面白くない。


ふてくされた顔で話し始める。


「俺は、うんざりなんだ。戦神の仕事なんて。人間は、どうしてあんなに人を殺すんだ。毎日毎日毎日。戦争が終わったと思ったら、また次の戦争を起こす。人間の欲望には際限がないのか。動物だって他者の命は奪うが、それは自分の命をつなぐため。命は命となって、引き継がれていくんだ。でも、人間は違う。ただ命を奪うためだけに殺すんだ。」


ヒューイのふてくされた顔が、話しながらだんだんと怒りに変わってきた。


サラは、そっと腕を伸ばし、ヒューイの背中に手をまわして優しく抱きしめた。



サラは愛の女神。


今まで見守ってきた人間の中には、愛が深すぎるゆえに、愛する人の命を奪う者もいた。


今までに何度もその現場を見てきた。


そんな人間を見るたびに、心が痛んだ。


数にすると、ヒューイのそれとは比べ物にならないほど少ないだろう。


少ない人数でもこんなに心が痛むのに、ヒューイが見た数は、きっと数えきれないほどだったはず。


いったいどれだけ心が痛んだのだろう。


サラには計り知れないほどの傷を受けたに違いない。ヒューイは優しい神だから・・・。


「ヒューイ、あなたを抱きしめることしかできなくてごめんなさい。あなたの心の痛みを私にも分けて。」


「ああ、サラ、ごめん。ついカッとなってしまった。君は何も悪くないのに、君に当たってしまって・・・、本当にごめん。」


ヒューイの怒りは静まり、二人の間に優しい空気が流れた。


最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

このお話は某会社主催の未完小説コンテストに応募した作品です。

残念ながら落選しましたが、多くの審査員の皆様の心温まる評価や、続きを読みたいというご意見をいただき、たいへん励まされました。審査員の皆様には心から感謝しております。

続きを読みたいと書いてくださった審査員の皆様が、この作品を見つけて読んでいただけたら幸いに思います。

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