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勘弁してくれ

作者: 山吹弓美

「頼む。このパーティを抜けてくれ」


「え、何でさ」


 巨大魔物を倒したその場で、パーティのリーダーは涙目になりながら叫んだ。仲間を抜けろ、と言われた青年はその手に持ったロングロッドを地面に突き立てて、首をひねる。


「どうしてもうちのパーティに入りたいって言うから、入れてやったけどさ。お前は、俺たちとはレベルが違うんだよ」


「それは分かってる、けど、今俺が倒さなきゃお前ら、危なかっただろうが」


「そうだけどよ!」


 確かに、青年以外のパーティメンバーたちは大なり小なり負傷している。まるっと無傷な青年だけが、平然とその場に立っているのだが。


「お前がもうちょっと考えて戦ってくれてれば、俺らも怪我せずに、任務を遂行できてたんだよ! 希少な魔物の生け捕りもしくは綺麗な死骸の確保、っていうな!」


 その青年の足元には血溜まりと、分かりやすく言えば大量のミンチの山ができていた。青年のロングロッドにも同じ色の細切れが付いており、どうやらこの武器が生産したものであることは間違いなさそうだ。

 ついでに言うと、パーティメンバーたちの負傷はほぼ打撲で……これもやはり、ロングロッドによるもののようだ。

 つまるところこの青年は、周囲を気にすることなくロングロッドを振り回して魔物と戦い、ミンチの山にした。その際パーティの仲間たちを巻き込んでしまった、というところだろう。どうやら今回が、彼が加わって初めての戦闘だったようで距離のとり方などもわからなかったのだと思われる。


「お前のせいで見ろよ、ぐちゃぐちゃだろうが! 希少かどうか、そもそも魔物か地面かわからなくなっちゃってるだろ!」


「ははは、ちょっとやりすぎちゃったな。いやでも俺、人は殺せないし」


「殺せないだけで怪我はさせられるの!」


 けらけら笑う青年に対し、反論できるのは傷の浅いリーダーだけのようだ。他の仲間たちは青年の攻撃から逃げようとした結果、彼らと魔物だったものからはかなり距離を離している。


「いや、そこは気づかなかったごめんごめん。次は魔物だけ、うまく殺るから」


「殺っちゃ駄目だろ!? いや駄目でもねえけど、お前の場合こうなっちまうから!」


「ああ、そうだったそうだった」


 リーダー、既に涙目どころか涙がドバドバ溢れている。一刻も早く、この青年から離れたくて仕方がないらしい。


「だからもう、出て行け! 頼むから、俺たちの仕事の邪魔すんな!」


「……そういう事ならしゃあねえな。けど、そうしたら俺、一人でどうしよう?」


「お前のパワーでぐちゃぐちゃにならない魔物なんて、ドラゴンとかじゃねえ? 一頭ふんづかまえてきたら、きっと王様喜ぶぞ」


「おお、そうだな! わかった、じゃあここで別れようぜ!」


「おー、行ってこーい」


 必死の言いくるめが成功して、ほっと胸をなでおろすリーダー。手を振りながら走っていく青年の姿が見えなくなったところで、傷だらけのメンバーがむくりと身体を起こした。


「い、いきましたか……」


「行った行った。はい、各自急いで治療のあと、俺たちに見合うところまで後退するぞ。あいつが暴れたお陰で、魔物がビビってる」


「よ、よーし」


「ポーションありますよーまず歩けるレベルまで飲んでくださーい」


 一人が収納バッグから取り出したポーションをそそくさと配る。全員一気に飲み干して、負傷の程度を軽減させて。

 荷物をしっかり掴んで彼らは、青年の走っていった方向と正反対に全力で走り出した。ロングロッドが振り回された経路は、木々も魔物も瘴気すらも振り払われた、美しい道になっていて走りやすいことこの上ない、と彼らは後に語った。




「ごっめーん、ドラゴンミンチができちゃった。焼いて食うと美味いぞ!」


「お前はそのロングロッドを封印しろお!」


 そんな会話が聞かれたのは、それから二日ほど後のことだと聞く。無論、任務達成とはならなかったので全員怒られたことは言うまでもない。

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