表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/35

4 退役の事実

 クロード隊長の訪問時間は、すぐにやってきた。

 ノックの音とともに、「クロード様がお見えになられました」とセアナの声が。

 どうぞと返せば、凛とした低音が私の耳に届く。


「失礼いたします」

「隊長! お久しぶりです」

「モカロリーゼ様……」


 ベッドに座り、上半身だけを起こした私を見て、クロード隊長の黒い瞳が悲し気に揺れた。

 隊長は、男性の中でも背の高い人だ。今はこちらもベッドに入っているから、頭の位置には相当な差がある。

 なのにどうしてか、今だけは、小さな子供のように見えた。

 セアナに促されて、クロード隊長はベッド前に置かれた椅子に腰かけた。

 お見舞いの花束まで持ってきてくれて。セアナはのちほど花瓶を用意します、と言って退室した。

 若い男女が二人きりになったけれど、心配はいらない。


「……お体の具合は、いかがですか」

「起き上がって話せるようになりましたよ! もうすっかり元気です!」

「そう、ですか……」


 最初は、それすらもできなかったから。

 こんなに元気になりました! 回復しました! 心配ありません! というつもりで言ったのだけれど。

 隊長の表情は、更に曇ってしまった。

 彼の反応を見てから、ああ、元気な人の返しではなかったのだ、と反省する。


「貴女に無理をさせることになってしまい、本当に申し訳なく……」


 そこまで言うと、隊長は言葉を切った。

 少し考える様子を見せてから、もう一度唇を開く。


「モカロリーゼ様。この度は、討伐任務でのご尽力、誠にありがとうございました。あれだけの戦闘だったというのに、死者はゼロ。あなたがいなかったら、本当にどうなっていたことか」

「そんな、当然のことをしたまでです。それに、モカロリーゼ様だなんて。隊にいたときと同じように、ロマイル、とお呼びください」


 騎士団では、彼が上官。だから、任務の際はファミリーネームで「ロマイル」と呼ばれていた。

 療養中の今だって、その関係に変わりないのだから、モカロリーゼ様、だなんて風に呼ぶ必要はない。

 そう思ったのだけれど。


「そうはいきません。あなたは伯爵家のご令嬢。騎士団での階級も、もう関係ないのですから。そのような呼び方は、もう……」

「階級が、関係ない?」


 家柄については、彼の言う通り。でも、階級はもう関係ないって、どういうことなんだろう。


「たしかに、私はもう前線に立てる身体ではありませんので、戦闘要員としては引退という形になりますが……。後進育成に回るという形もありますし、まだ退役するつもりはありませんよ? ですので、今までのように……」

「え? ですが、もう、あなたは」


 そこまで言うと、隊長がはっとして口をつぐむ。

 その反応に、さあっと血の気が引いた。

 もう、あなたは。その先に続く言葉は、もしかして。


「私は、もう、退役扱いになっていますか」

「……ご存知、なかったのですね」

「大方、父が手を回したのでしょう。父は元々、私の入団に反対していましたから」


 私には兄が二人いるが、姉妹はいない。

 私はロマイル伯爵家唯一の女児として生まれた、長女で、末っ子なのだ。

 そんな立ち位置だからか、家族には――特に父には、大切にされてきた。

 魔術の才を活かしたいと言って、父の反対を押し切って騎士になった。

 揉めに揉めたものの、ある条件つきで、入団が許可されたのだ。


「そう、でした。もしも私の身になにかあったら、すぐに退役させる、という条件つきで騎士になったんです。ずっと前の約束でしたから、忘れてしまっていました」

「モカロリーゼ様……」


 その「なにか」が起きたから、約束通り、父は私を退役させたのだ。

 療養中の私になにも言わなかったのは、少しでも負担を減らすためだろう。

 その約束をすっかり忘れ、これからも騎士としてやっていけると思い込んでいた私には、大きすぎる衝撃で。

 涙が、つう、と頬をつたっていく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ