7 「好き」の種類の違い 知ってた旦那 マジかと憐れむ貴公子
「くっ、ふふっ……。君がそんな風に言う日がくるなんてね。よかったよ、本当に」
公爵家次期当主というだけあって、クレインには隙がない。
柔らかな雰囲気はしているが、表情も話し方も、公爵家の人間としての……言ってしまえば、外向けの、どこか作り物っぽさがあるのだ。
ただ、今このときは、彼の言葉も笑みも、本心からのものに思えた。
「クロード。彼女のこと、これからもよろしく頼むよ」
「……はい!」
レモネに続き、クレインにも、彼女の夫として認めてもらえたような。そんな気がした。
「モカはクロードのことが大好きなんだね」
「はい!」
モカは元気に頷き、クレインの言葉を肯定した。
一切恥じらいのない、無垢な笑顔を見たクレインは……少しの沈黙ののち、モカに追加の質問を投げかける。
「……夫婦だよね?」
「はい。そうですが……」
クレインの視線が、きょとんとするモカから俺に移動する。
その青い瞳には、少しの哀れみの色が含まれていた。
幼馴染というだけあって、このやりとりだけで色々と察されてしまったようだ。
そう。モカは、俺を信頼してくれているようだが、恋愛感情は抱いていないのだ。
彼女の言う「好き」は俺の「好き」とは違うから、それを肯定するときに恥じらうこともない。
嫌われているよりは、ずっとマシなのだが……。
好かれているのに好かれていない現状に、なんともいえない気持ちにはなる。
「クレイン様。そろそろ……」
コルツフット家の使用人らしき女性が、そっとクレインに話しかける。
「ああ。わかってる。それじゃあ二人とも。今回は楽しんでいって」
俺たちに軽く手を振ると、クレインは別の来賓の対応へ。
クレインは主催者側の人間。ずっと俺たちと話しているわけにはいかないのだ。
開会中の彼とのやりとりは、これで終了。レモネもクレインの婚約者として振る舞う必要があるため、その後に話す機会はほとんどなかった。
会が終わるまで、俺はモカと並んでの挨拶を何度も繰り返す。
そうしているうちに、少しずつだが、他の来賓から向けられる敵意のようなものが、緩和されていく。
素敵ね、という貴婦人の呟きを拾うこともできた。
――レモネ嬢の、言った通りだったな。
公の場に出て仲を見せつけろと言われたときには、少々戸惑ってしまったものだが、確かな効果を感じた。
だが、最後まで消えない敵意があった。殺気、と呼んだほうがいいかもしれない。
おそらくだが、入場直後に見つけた赤い髪の男のもの。
コルツフット家主催というだけあって、来賓は多かった。
大勢の人の中に紛れても消えないほどの、強い気配。
おそらくだが、騎士として暮らしてきたモカも気が付いているだろう。
閉会まで、残り僅か。こちらからあの男に接触すべきか、あとでモカやレモネに確認をとるべきか。
そう悩み始めたころのことだった。
「クロード様、モカロリーゼ様。少々よろしいですか」
コルツフット家の使用人が、俺たちに声をかけた。
「クレイン殿が、俺たちと?」
「はい。閉会後、個人的にお話したいそうです。レモネ様もご一緒に」
「……承知いたしました。モカ、きみもいいよね」
「もちろんです」
きっと、二人はモカと話がしたいのだろう。
俺は見守るだけになるかもしれないが、モカが楽しい時間を過ごせるなら、それでいい。
なんて思っていたら、
「やあクロード。閉会後にすまないね。きみはこちらへ。モカはレモネと話しておいで」
微笑みの貴公子の手で、俺とクレイン、モカとレモネの組み合わせでさらっと分断されてしまった。
これにはモカも不思議に思ったようで、なにか言ってくれそうだったが……。
「男同士の、秘密の話だよ」
クレインがいたずらっぽくそんなことを言うものだから、「なるほど!」と納得して俺をおいていってしまった。
モカ、もかあああああああ! 貴公子と二人きりにしないでくれ、もかああああ!
レモネとともに離れていくモカに、手を伸ばして「待ってくれ」と叫びたい気持ちだった。




