6 微笑みの貴公子(心の中で勝手に呼んでる
「モカ! 久しぶりね」
最初に俺たちに声をかけてきたのは、モカの親友であるレモネ嬢。
久々に会った二人は、きゃっきゃと嬉しそうに笑い合っている。
俺も言葉を交わすべきかもしれないが、仲のいい女性二人に割り込むのも気が引けたから、とりあえずは待機しておいた。
「クロード・セイジ。あなたも。ちゃんと来たのね」
「お久しぶりです、レモネ嬢」
レモネの青い瞳がこちらに向けられた。
モカと話していたときは柔らかく細められていたその瞳も、今はふふん、とやや挑発的な色を含んでいる。
相変わらず、モカと俺で態度が全く違う。まあ、付き合いの長さや性別を考えれば、仕方ないが。
長い銀の髪は高い位置で括られてきれいにまとめあげてあり、ドレスも青と、寒色系。
レモネはモカよりも身長が高く、女性としてはやや背が高め。
だからか、今日は前に会った時よりもクールな雰囲気になっていた。
モカが可愛い系なら、彼女は美人系、といったところだろうか。
「さて、と……。じゃあ、クレイン様のところに行くわよ」
「うん! クレイン様にお会いするのは披露宴ぶりだわ。元気にしてるかしら」
「ええ。相変わらずよ」
そう言って、レモネはどこか困ったように笑う。
けれど、そこには確かに愛しさが滲んでいて。
婚約者なのだという二人の仲が、なんとなくうかがえた。
「クレイン様。セイジ夫妻をお連れしました」
「ありがとう、レモネ。久しぶりだね、モカにクロード」
レモネに連れられて、クレインの元へ。
初対面のときと変わらず、さらさらの金髪に碧眼の、微笑みの貴公子である。
表情の作り方に加えて所作も完璧。
平民と同じ服を着て町を歩いても、このオーラは隠し切れないだろう。
白い礼服が、彼の魅力をさらに引き上げている。
身長だけは、俺とほとんど変わらないぐらいだ。
俺とモカも、それぞれ挨拶を返す。
「君たちの披露宴以来かな。会えて嬉しいよ。レモネから少し話は聞いていたけれど……。モカがどうしているか、心配していたんだ。元気そうでよかった」
「ありがとうございます。クレイン様もお変わりないようで」
二人の幼馴染がそばにいるからか、モカは素に近い、ふわっとした笑みを見せている。
レモネ同様、クレインも彼女にとって信頼できる相手であることが伝わってきて、安心した。
俺はといえば、親し気に話す三人を見守る状態になっているが、モカが嬉しそうにしているのに、無理に加わることもないだろう。
「そういえば、家庭菜園を始めたんだって?」
「そうなんです。植物が育つところを見守るのって、あんなに楽しいことなのですね。結婚して初めて知ることができました」
「そっか……。クロードは、君を大事にしてるんだね」
「はい! ですよね、クロード様!」
モカが緑の瞳を輝かせ、隣に立つ俺を見上げる。
急にこちらに話を振られたため、少し驚いてしまった。表情に出ていなければいいのだが。
自分なりに妻を大事にしているつもりだが、こういった話を自ら肯定するのは難しいものだ。
大事にしたいとは、思っている。自分にできることをしたいと思っている。
だが、不足しているのではないか、どこか間違っているのではないかという気持ちは、どこかに残る。
どう答えたものかと思っていると、
「……モカ。それ、本人は肯定しにくいと思うわよ」
そんな具合に、レモネ嬢の助け舟が。
モカは「たしかに……!」とはっとしていた。
少し考えてから、
「大事に! されています!」
とキリっと眉をあげて言い直した。
自分で言い切っていくスタイルである。
どやっと自信満々に放たれた言葉。それに耐えきれず噴き出したのは、クレインだった。




