4 初手から名門公爵家行きはハードルが高いが嫁にとっては友人の家
「社交の場に二人で、ですか……。でしたら、まずは、親しい方が主催するホームパーティーから始めるのがいいもしれませんね」
いつも通りの、向き合っての夕食時。
そういった場にも、少しは出てみるべきかなと思い、と切り出せば、モカも頷いた。
レモネ嬢に「仲のよさを見せつけろ」と言われたことは伏せている。
まずは、親しい人が主催するものから。
確かにその通りなのだが、俺ぐらいの立ち位置だと、親しい貴族などそうそういない。
どうしたものかと思っていると、モカが「あ」とこぼした。
「そういえば……。近々、コルツフット家でパーティーが開かれるようだと、レモネに聞きました」
「コルツフットといいますと……。王家の血も流れる、あの名門公爵家ですか」
「はい。コルツフット公爵家の嫡男であるクレイン様は、私の幼馴染でもあるのです。招待されるかもしれませんね」
ちなみにレモネはクレイン様の婚約者なんですよ~、とモカが付け加える。
ふわふわのほほんとした笑みを見せているが、内容はふわふわどころかがっちがちであった。
元々は同じく騎士という仕事をしており、プライベートではほわほわしているから忘れてしまいそうになるが、彼女はがっちがちに上流階級の人間なのだ。
名門公爵家の嫡男に、その婚約者で伯爵家生まれの女性。
そんな人たちと親しいことをさらっと話すあたり、本物である。
こんな話から少し経った頃には、本当にコルツフット家からの招待状が届いてしまった。
幼馴染だというモカのみの招待ではなく、「ぜひ夫婦で」と記載されていた。
モカは「クレイン様のおうちでしたら安心です」と嬉しそうにしているが、こちらはあまりのことに胃が痛くなりそうだ。
まあたしかに、親しい貴族となると、モカの線からいった方が早く確実なのは事実だ。
だが、夫婦での初参加の場がコルツフット家主催の会とは、ハードルが高すぎやしませんか、モカ様。
コルツフット公爵家といえば、このルイヴァリエ王国の貴族の中でも名門中の名門。
王家の血を引いており、何代か前までの当主は王位継承権も有していた。
モカの幼馴染――クレイン・ノア・コルツフットはコルツフット家次期当主。
披露宴の際に少し話しただけだが、あの凄まじい高貴オーラは今も覚えている。
金髪碧眼。柔らかな物腰。微笑みをたたえてはいたが、本心は読み取れない。
来賓の女性たちが色めきだつほどに、きらっきらに、それはもう凄まじく、きらっきらに輝いていた。
幼馴染としてモカに信頼されているのなら、危険な人間ではないのだろうが……。
挨拶の際、少し強めに手を握られて「モカをよろしく」と言われたときの圧は、今でも思い出せる。
騎士として色々な人間と関わったし、危険な任務もこなしてきた。威圧感など、珍しいものでもない。
しかし彼が放つそれは、今まで感じてきたものとは種類が違った。
「お仕事の都合、つけられそうですか?」
「あ、ああ。調整してみるよ」
このリケレは東方。コルツフット家が屋敷を構えているのは、中央だ。
移動だけでもそれなりの日数がかかる。
これでも一応は小隊長だから、不在の期間が長くなるなら色々な調整が必要だ。
さてどうなることかと思ったが、コルツフット家と聞いて上官も快諾。
俺を通じて名門公爵家との繋がりができることに、期待しているのだろう。
小隊のほうも、副隊長のエルダーが代理を務めてくれることになった。




