2 世の噂
「家庭菜園の世話をしてたの。クロード様もよく手伝ってくれるのよ」
「そ、そう……。仲、いいのかしら……?」
レモネの問いに、モカはこくりと頷いて、肯定を返した。
俺たち夫婦は、仲がいい。
モカがそう思ってくれていること、外からもそう見えることに、俺、大歓喜である。
「ふうん……? まあいいわ。急にお邪魔してしまって申し訳ないけれど、少しモカと話をさせてくれる?」
「ええ。久々でしょうし、二人でゆっくりお話しください。モカ、残っている作業があったら俺がやっておくから、君は着替えておいで」
「ありがとうございます、クロード様」
レモネは屋敷に通され、モカは着替えに向かう。
急ぎの作業はないそうだから、片づけだけ済ませたら、俺も家に戻った。
リビングで談笑する二人の邪魔をしないよう、私室へ。
「噂、か」
やっぱり噂は本当だったのか、という、レモネの言葉を思い出す。
どんな意味かは、大方、想像ができた。
俺たちの結婚をよく思っていない人は多い。
俺は一代限りの男爵家の長男で、モカは伯爵家の娘。
騎士団内でのポジションも、俺は小隊長で、モカは守護天使とまで呼ばれる特別な人。
本当なら、こんな婚姻は成立しないのだ。
彼女を引退に追い込んだ責任をとる、という形で逃げられないよう囲いこみ、結婚に持ち込んだ。
そうして伯爵家の後ろ盾を得て、出世しようとしている。
こんな見方をしている人間は、それなりにいる。
俺だって、自分のことじゃなかったら、同じように思うだろう。
「退役した女を使ってまで出世したいかねえ」
と、聞こえるように言われたこともある。
当事者のモカも、出世の後押しのための結婚だと思っているぐらいだ。
外から見れば、俺は責任を盾に伯爵家の娘を娶り、出世しようとする男なのである。
そんなつもりはなかったが、俺たちには、あまりにも差がありすぎる。そう思われても、仕方がないのだ。
実際、結婚したあとから、昇進の話もきている。
レモネも、そういった話を知っていて、モカの様子を見に来たのだろう。
「どう言われようと……。今更、モカを手放せるはずがない」
この先も、モカを利用した男として蔑まれ続けるかもしれない。
今回のように、疑いの目を直に向けられることもあるだろう。
それでも、もう、モカと離れることなどできない。
彼女自身が俺との結婚生活を辛く思っていたら、手を放すことを選ぶかもしれない。
だが、今の彼女は、笑顔だ。
手をとってくれてありがとう、とまで言ってもらえた。
誰になんと言われようと、彼女が今の生活を心地よく思っていてくれるのなら――俺は、彼女のそばに居続ける。
モカが笑っていられるなら、自分がどう言われたってかまわない。
「まあ、本人には、いつか伝わってくれるといいが……」
あなたのことが好きだから求婚した。あなたを大事にしたい。可愛くて仕方がない。
急ぎはしないが、いつか、モカ本人に伝わってくれたらと思う。
レモネの来訪から1時間ほど経過して、「旦那様、レモネ様がお呼びです」とセアナが。
一階へ向かうと、玄関ホールには、仁王立ちしてきっと俺を睨みつけるレモネの姿。
「クロード・セイジ。ちょっといいかしら?」
三人で話すのかと思ったが、モカは俺と入れ替わる形で二階へ。
階段のうえからモカがひらひらと手を振ってくれたものだから、顔がにやけそうになってしまった。




