16 クロードside 今はまだ、あなたが笑顔でいてくれるなら、それでいい
そこまで磨き上げるのに、どれだけの努力をしたのだろう。
どれだけのものを、犠牲にしてきたのだろう。
彼女が魔術の天才であったとしても、若くしてあの地点に辿り着くためには、普通の暮らしなんて、していられるはずがないのだ。
結果的には最小限の被害で済んだともいえるが、彼女をあの任務に引き入れたのは他でもない俺自身。
それだけが理由で求婚したわけではないが、責任を感じていたのは事実だ。
彼女が築き上げてきたものを、奪ってしまった。
だからずっと、これからの人生が少しでもよいものになるように、この人が笑顔でいられるようにと、願っていた。
「あのとき、私の手をとってくれて、ありがとうございました」
そう言って微笑む彼女は、とてもきれいだった。
守護天使と呼ばれ、各地を飛び回ってきたあなたが。何度も戦場に立ったあなたが。
みんな失ったと泣いたあなたが。
心穏やかに過ごせるのなら、そんな暮らしを提供できたのなら、これ以上の喜びはない。
出世のためと勘違いはされているものの、結婚してよかったと、心の底から思えた瞬間だった。
モカになかなか好意が伝わらないことを、残念に感じていた。
けれど、こんなにも彼女が今の暮らしを楽しんでくれるのなら、わかってもらうのはもう少し先でもいい。そう思えた。
自分の気持ちを押し通すことよりも、彼女の平穏と笑顔を守ることを、優先したい。
ただ、そこから続く言葉は、忙しいのだから自分にかまわなくていい、自由にして、ゆっくり休んで、無理をさせていないか心配、というもので。
あー違いますモカ様! あーーー! 状態になった。
これは流石に、このままにはしておけない。
「……あなたと過ごす時間が、癒しになります」
本当なんですよ? 本当にそうなんですよ?
あなたと過ごすことが自分の望みなのだと必死に言葉にしたら、なんとか届いたようだ。
「改めてよろしくお願いします、クロード様」
やや照れのある、ふわっとした微笑み。
俺の気持ちの、ほんの一部分でも、あなたに伝わったのなら。
今は、それでいい。




