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15 クロードside 守護天使と呼ばれた魔導士

 この世界には、多種の魔物が存在する。

 危険性は低いが、野菜を食い荒らすために駆除の必要があるもの。

 肉や毛皮が有用で、狩りの対象となるもの。

 攻撃性が高く、人を傷つける可能性が高いもの。

 その中でも、数えるほどしかその存在を確認されておらず、最強とも呼ばれる種族が、ドラゴンだ。

 気性にはかなりの個体差があり、中には人語を操り、神としてまつられ、人間と共存するものも存在する。

 

 モカを退役に追い込んだ任務は、ドラゴンの討伐――いや、元は、ドラゴンのものと思われる卵の運搬作業、だった。

 東方の町、リケレ付近の谷底で見つかったそれは、本当にドラゴンの卵なのかどうかも、いつから存在していたのかも、わからない。

 本物であれば、相当に希少なものであることは確かだった。

 そこで、研究のために卵を運び出すこととなったのだ。

 ドラゴンが誕生した場合は取り返しがつかないため、孵化しないよう、ある程度は破壊しておく手はずにもなっていた。

 卵の破壊と運搬。それだけの任務にしては、やりすぎなぐらいの準備はした。

 守護天使と呼ばれるモカの招集が許されたぐらいだ。

 それぐらいに、この世界ではドラゴンが恐れられている。


 破壊に取り掛かる直前、卵は孵化。

 今になって思えば、危険を察知して早期に出てきたのかもしれない。ドラゴンの生態は、謎に包まれているのだ。

 生まれたばかりの幼竜だというのに、体長は人間をはるかにしのぐ大きさで。

 尾と爪、そして口から吐く炎で次々と団員をなぎ倒し、隊は壊滅寸前まで追い込まれた。

 強力な結界術で仲間を守り、負傷者もすぐに回復させる守護天使――モカがいなかったら、すぐに全滅していたことだろう。


 ドラゴンが谷から出る気がなさそうなことは、幸運だった。

 もしもこんなものが野に放たれてしまったら、大惨事を引き起こす。

 幼さ故か、俺たちを全滅させるまでそこに留まる気のようだったのだ。

 だが、限界は見えていた。

 いくらモカがいると言っても、彼女の魔力にだって限りがある。

 いつかは守りと回復の線も断たれ、全滅するだろう。そして、この凶暴な竜は外へ飛び出していく。


――それだけは、避けねばならない。でも、どうしたら。


 打つ手なし。そんな言葉が頭をよぎったとき。


「クロード隊長!」


 後ろで守りを固めていたモカが、俺に向かって叫んだ。

 聞けば、守備は他の団員に任せ、自分を前に出して欲しいという。

 後衛が薄くなるうえに己が倒れるリスクはあるが、討伐できる可能性が、あるのだと。

 どちらにせよ、このままでは全滅は見えていた。

 リスクを承知で彼女の提案に乗り、配置を変え、短い時間でもいいから、前衛が全力でドラゴンの動きをとめる。

 その少しの時間をとらえ、モカはドラゴンを結界の中に閉じ込めた。


 そこからは、モカとドラゴン、一対一の、壮絶な引っ張り合いが始まる。

 結界を内へ内へと縮めていき、押し潰す。

 守るための術を攻撃に転用する、噂でしか聞いたことがないような荒業だ。

 ドラゴンが潰れたことを確認すると、結界が解除され、モカもその場に倒れた。

 目や口から血が流れる状態で、呼吸も弱い。後でわかったことだが、身体が負荷に耐え切れず、内臓も損傷していた。

 抑えるものがなくなったことで、圧死したドラゴンからは噴水のように血が噴き出す。

 赤い雨が周囲を濡らし、もう、彼女から流れる血が、本人のものなのか、ドラゴンのものなのか、わからなかった。

 

 この任務での負傷が原因で、モカは退役。

 生まれたばかりとはいえ、相手が最強種族であったことを考えれば、団員の死者もゼロ、民間人への被害もなかったことは、奇跡とも言えた。

 モカロリーゼ・リィン・ロマイルは、この国随一の魔導士で、英雄とも呼べる人なのだ。


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