14 クロードside ようやくこぎつけたデートで、きみは
夫婦生活開始から、1か月ほどが経った。
この間、夫婦で出かけた回数はゼロ。
互いの立場や仕事絡みでの外出同行はあったが、いわゆるデートというものは一度もしていないのである。
もちろん、誘ってはいる。しかし、毎回断られてしまうのだ。
このままではいられない。
そう思った俺は、切り出し方を変えるようにした。
「モカ。次の休日、買い物に付き合って欲しいのですが」
「お買い物、ですか」
「はい」
デートしたい! という気持ちを気取られないよう、落ち着いて答える。
一緒に出かけましょう、ではなく、あなたがいたほうがいい用事があるんですよ、と匂わせる方向に切り替えたのだ。
するとモカは、わかりました、と頷いてくれた。
あっさり作戦成功である。最初からこうすればよかった。
そうして迎えた二人揃っての外出の日。
モカはいつも可愛らしいが、今日はさらに輝いて見える。
デートだと察したセアナが、モカを着飾ってくれたのだ。
セアナには感謝しかない。
可愛い、と素直に言えば、モカは笑顔を見せてくれた。
町の人間に好き勝手はやし立てられたり、幼馴染で親友、今は俺の隊に所属する部下のエルダーにちょっかいを出されたりもしたが、モカとのデートは大変楽しかった。
昔から知っている町並みが、普段仕事で巡回している場所が、特別な空間のように思える。
彼女がアクセサリーを見ているだけで、小さな口ではむっとお菓子を食べているだけで、世界はこんなにも素晴らしい。
あ~たのし~! 幸せ~!
表情は崩さず、モカとのデートを満喫していると、首を傾げた彼女からこんな言葉が。
「あの、クロード様。お買い物はよろしいのですか?」
あっ、あーーーー。そうだった、買い物に付き合って欲しいと言って誘い出したのだった。
楽しすぎてなにも考えてなかった。内心、冷や汗をかきながらも、茶葉を買うのだとなんとか捻りだした。
モカは納得してくれたし、色々な店を見て回ろうとも言ってもらえた。
「っしゃあ!」
デート延長成功!!
つい、喜びの雄たけびが漏れるレベルの嬉しさであった。
そのままモカと一緒に複数の店をまわりつつ、昼食へ。
彼女のお気に入りだという店へ向かうことになった。
彼女が好きだというものを食べてみたくて、同じコース、同じパスタを注文。
でも、6種の中から3種選べるケーキは彼女とかぶらないようにした。
何故なら――
「モカ。こちらの3種も、少し食べていいよ」
「へ? いいんですか?」
モカの緑の瞳が、ぱあっと輝いた。
彼女が、どれにしよう、みんな美味しそう、とすごく悩んでいたからである。
最初から、こちらの3種もモカに分けるつもりだったのだ。
彼女にケーキを勧める際、さりげなくタメ口をきいてしまい焦ったが、甘味を前に華麗にスルーされた。
するとなんと、モカからも「こちらのケーキもどうぞ」と。
デートじゃん! これデートじゃん! 絶対デート!!
モカも、ケーキを頬張りながら「幸せ……」と呟いている。
ずっと好きだった人と一緒に出かけて、新しい一面も知って、笑顔も独り占めして。
結婚生活、最高である。こんな幸福、あっていいのだろうか。
神に感謝を捧げ始めた頃、モカはなにか呟くと、俯いて静かになってしまった。
急にどうしたのだろう。心配になってじっと見ていると、彼女は静かに語り始めた。
今、とても楽しい、と。
こんな暮らしができるだなんて、思ってもみなかった、と。
これまでのことを振り返っているのだろうか。
どこか懐かし気に、少し寂しそうにも感じられる表情で、ゆっくりと言葉が紡がれる。
彼女の過去について、詳しい話を聞いたことはない。
だが、なんとなくわかる。彼女は、きっと、年頃の女性らしい暮らしなど、経験していない。
今のこの時間は、モカがようやく手に入れた、穏やかな生活なのだ。
このとき、俺もまた、彼女が倒れたあの日について、思い出していた。




