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12 クロードside 部下で後輩の女騎士は、妻の大ファン

 そんなこんなで、大丈夫かなこれ、持つかなあ!? という気持ちで送る新婚生活。

 最初の1週間ほどは、新婚であることに配慮され、なるべく家にいられるよう仕事の調整が入った。ありがたいことだ。

 せっかくだから、家にいる時間はモカと一緒に過ごそうとするのだが、彼女は。


「休養なさってください!」


 とささっと俺から離れていってしまうことが多い。

 おそらく気を遣ってくれているのだろうが……。彼女のことが好きで、可愛く思っていて、もっと話したいと思っている俺は、寂しかった。


 ある日、モカが家庭菜園を作りたいと言い出したとき、チャンスだと思った。

 菜園用の道具が届く日、俺は非番だったのだ。

 手伝いを口実に、妻と過ごす休日を! そう思ったのだが、彼女に断られてしまった。

 食い下がってみても、結果は変わらず。

 一人で大丈夫、普通の女性より力も体力もある、と慌てて言う姿に、なんとなく、悲しくなって。


「……少しは、頼ってくれていい」


 そんなことを、言ってしまった。

 不思議そうに首を傾げるのみで、モカからの返事はなかった。




 翌日。予定通り、モカの菜園作りが始まった。

 目的に合わせたようで、今日のモカは作業着姿。

 普段はおろしているふわふわの髪も、お団子にしてまとめている。

 これはこれで、いい……!

 伯爵令嬢や騎士団の守護天使といった面しか知らない人間は、彼女がこんな姿で張り切っていることなど知らないだろう。

 ちなみに、今朝は彼女の寝起きの姿も確認した。

 髪は跳ねていて、瞳もどこかぽやっとしていて。心の中でぐっと拳を握った。

 相変わらず心臓には悪いが、どれもこれも旦那の特権である。

 


 昨日話した通り、作業そのものには手を出さないようにした。

 できることなら、夫婦の共同作業にしたかったが……。まだ、そこまで踏み込んではいけない気がした。

 順調だろうか、と一人で新聞片手にコーヒーを口にしていると、作業中のはずのモカが、家の中に。

 もしや、一緒にやらないかと誘ってくれるのだろうか。

 そう期待できたのも束の間。


「クロード様。お客様です。ビスカが忘れ物を届けに来てくれたそうですよ」

「……ビスカが?」


 ぜんっぜん違った。

 ビスカは、俺が率いる小隊に所属する女騎士。今日は彼女も非番だったかもしれない。

 しかし、急ぎで届ける必要のある忘れ物など、あっただろうか。

 まあ確かに、休みのうちに洗おうと思っていた装備の一部を、机においてきてはしまったが……。

 手袋とか、そんなレベルのものだ。緊急性はない。

 もっと重要ななにかがあっただろうか、と疑問を抱きつつも、ビスカを中に通した。


 ビスカがわざわざうちに来た理由は、すぐにわかった。

 挨拶を交わした直後、「モカロリーゼ様が……本当にいた……」と言いながら、感極まった様子で崩れ落ちたのである。

 そういえば、彼女はモカの大ファンだった。



 元々、一般家庭出身で、モカと同じく治癒術を使うビスカは、守護天使と呼ばれるモカに少しの不信感を抱いているようだった。

 伯爵家の生まれだから。見た目が可愛いから。

 そんな理由でちやほやされているだけで、実際には大したことはないんじゃないか。

 そう思っている団員も、少なくない。

 だが、そんな印象は、モカと共に出撃すれば即座に消え失せ、憧れに変わる。


 モカはそれだけ腕の立つ魔導士なのだ。

 同じ分野の人間だけに、よりモカのすごさがわかるようで。

 一緒に出撃して以来、すっかりモカのファンなのである。

 俺も似たようなものだったから、気持ちはわかる。

 彼女の背中に惚れるのは、団員のみなが通る道。

 ちなみに、忘れ物だと言って差し出された紙袋の中身は手袋で。確実に今回の訪問の目的はモカであった。


 仕事中は真面目な彼女であるが、プライベートで憧れの人と話した今は別らしい。

 セアナが用意してくれた紅茶とお茶菓子を前にしても、まだ「モカロリーゼ様……」とうっとりしている。


「数回ご一緒しただけの、下級騎士の私のことも覚えていてくださったんです……」

「クロード様呼びなんて、夫婦っぽくてずるい……ずるいですよう……!」


 うちに来てからずっとこの調子で、いい加減ため息の一つもつきたくなる。

 モカと過ごすはずの休日が、何故、妻の大ファンとのお茶会に……。


「ぽい、じゃなくて本当に夫婦なんだから、ずるくはないだろう」


 いつ帰るんだ、これ。

 そう思い始めた頃、「ひゃわうっ!?」という、可愛らしい悲鳴が聞こえた。

 この声は、俺が求めていた人、モカのものだ。

 声がしたほうへ顔を向ければ、作業着のままのモカが、気まずそう笑いながら姿を現した。



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