11 クロードside とてもつらい(ハッピー
モカロリーゼ様……いや、モカとの、夫婦生活が始まった。
夕食の時間、俺は妻の名を呼ぼうとして、何度もつっかかってしまう。
「モカロリー……、も、モカ……」
といった具合だ。
そんな俺を見て、モカはおかしそうにくすくすと笑う。
「敬語も外してもらおうかしら?」
なんて、冗談まで言って。どうやら彼女は、意外といたずらっ子のようだ。
初日から愛称呼びとタメ口は、難易度を上げすぎです。お嬢様。
モカがふわふわと笑ってくれるからか、こちらの緊張もほぐれてきた。
ずっと彼女に憧れていたとはいえ、交際期間も同棲期間もなしの、突然の新婚生活だ。
上手くやっていけるだろうか、彼女を曇らせてしまわないだろうかと、不安もあった。
でも、なんとかやっていけそうだ。
そう、思った時。
「そういえば……。二階には空き部屋がありましたよね?」
「ええ。まだ空いていますね」
「子供部屋でしょうか?」
けろっと放たれた言葉に、食事を喉に詰まらせた。
子供部屋。たしかにそのつもりで用意されているものですが。
あの、意味わかって言ってますか。モカ様。
「とりあえず、一部屋は客室として使おうかと」
子供部屋であることは否定も肯定もせず、話をそらす。
苦しみながらもそう伝えれば、なるほど、と納得してくれたようだった。
このときの俺はまだ、わかっていなかった。
片思い中の女性と一緒に暮らすのが、どんなことなのかを――。
……結婚してるけど、片思いなんだよな。これが。
夜になる前には、セアナは退勤。俺とモカは二人きりとなった。
風呂は彼女に先に使ってもらうことにし、俺はリビングのソファで待機。
シャワーの音を聞かないようにするため、少しでも気を逸らそうと本を手に取った。
そのうち、モカが浴室から出てきて……。風呂があいたと、俺に教えてくれた。
顔をあげれば、そこには。今まで見たことのなかったモカの姿が。
いつもよりしっとりした髪。ほんのり赤く染まった頬。可愛らしいワンピースタイプの寝衣。石鹸の香り。
同居するって、こういうこと――――!
ずっと好きだった相手の無防備すぎる姿に、思わず、手にしていた本を滑り落とした。
あまりのことに、これ以上、彼女を見ていることができなくて、でも視線を外すこともできなくて。どうしようもなくなり、後ろにのけぞった。
のけぞって上を見てしまえば、強制的に視界から外れるからな!
しかし、奇行に走った俺を心配してか、モカはさらに近づいてくる。
あー! ダメですモカ様! いい香りがしますモカ様!
もう耐えられん。心臓に悪い。
「俺も……入ってきますので……」
なんとかそう絞り出し、浴室に向かった。
これから毎日この調子? 新婚生活、かなりつらい。嬉しいけど。嬉しいけどつらい。
そろそろ就寝しようかという話になり、二人で二階へ。
「では、おやすみなさい。クロード様」
そう笑って、モカは当然のように私室へ向かった。
真ん中には夫婦の寝室があるが、それぞれの私室にもベッドがあるのだ。
交際0日婚、同棲期間もないため、最初は別々の方がいいだろうと配慮してのことだった。
わかっていた。夫婦の寝室へ、なんてないと、わかっていた。
しかし今日の夕食時、彼女から子供部屋なんていう言葉が飛び出したこともあって、少し、少しだけ、期待してしまっていた。
自分の部屋に入る彼女を見送って、ふっと笑った。
求婚以降のやりとりからなんとなく感じてはいたが、モカ様、あなた、プライベートはちょっとふわっとしてますね?
加えて、騎士としての生活が長かったから、普通の暮らしや、男女のあれそれには疎いのかもしれない。




