2 奥様、快眠
夕食を終えて一休みしたら、お風呂へ。
この時間にはセアナも仕事を終えて帰宅しているから、お風呂の準備は自分たちですることになる。
クロード様がお先にどうぞ、と言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらった。
シャワーを浴びながら、ふう、とため息をつく。
「セアナ、ちゃんと帰ってくれてよかった……」
彼女は、うちのたった一人の使用人。
住み込みで働くという話もあったけれど、住む場所は別に用意した。
そうしないと、全く休まずに働き続けそうだったから。
幸い、私もクロード様も騎士としての暮らしが長いから、自分のことは自分でなんとかできる。
明日の朝食はセアナが用意しておいてくれたけれど、この先、朝食担当は私になる。
私の旦那様は、現役の騎士。身体を作るためにも、健康維持のためにも、普段の食事はとても大切だ。
これから奥様として頑張るぞ! と気合いを入れ直して浴室を出た。
「クロード様。お風呂あがりました。先にいただいてしまってすみません」
私が先だったから、クロード様は順番待ちの状態。
彼は、リビングのソファで本を読んで過ごしていた。お風呂あきましたよ、と声をかけると。
彼はびしっと固まって、手に持っていた本を滑り落としてしまった。
「クロード様?」
不思議に思い、近づいて覗き込んでみれば、彼は真顔のまま後ろにのけぞって、よくわからない態勢になった。
本は、床に落ちたままだ。
「あの……。お風呂……」
「あっ、はい、お風呂ですね。ありがとうございます」
返事はあったけれど、謎の体勢のまま、私とは目を合わせてくれない。
さらに近づいてみると、顔を横に向けられた。
近づいて覗き込む私と、顔の向きを変えて避けるクロード様。
よくわからない攻防を何度か繰り返したあと、
「俺も……入ってきますので……」
と、よろよろと立ち上がり、彼は浴室へ向かった。
「……大丈夫かしら?」
なにがあったのかよくわからないけれど、お風呂には普通に入れたようだから、大丈夫なのだろう。……多分。
夕食、お風呂と済み、少し談笑して。
夜になったら、それぞれ私室に向かった。
もう少しお話していたい気分だけど……。クロード様は、明日はお仕事。
今日は私が来るから、お休みをとっていてくれたのだ。
お仕事のある方に、遅くまで付き合わせるわけにもいかない。
部屋に入ってしまう前に、挨拶を交わす。
「では、おやすみなさい。クロード様」
「おやすみなさい。……モカ」
夫婦生活初日は、旦那様に「モカ」と呼ばれて終わった。
なんだかとても心地よくて。
ふわふわとした気持ちのまま、初めて使う部屋、初めて使うベッドでぐっすりと眠った。




