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1 奥様先制点

「モカロリーゼ様。夕食の準備が整いました」

「セアナ。すぐ行くわ」

「……なにをしていらっしゃるのですか?」

「あやとり!」


 怪訝な顔をするセアナに、糸でできたちょうちょを見せる。

 

「……楽しそうでなによりです」


 セアナは幼い頃から私のそばにいた使用人。

 心配した父が、嫁入りする私につけてくれたのだ。

 彼女が先にセイジ家に到着していたおかげで、夫婦生活初日に私がすべきことはほとんどなく。

 夕食の用意も、セアナが済ませてくれた。

 正直なところ、今日は少し疲れていたから。彼女がいてくれて、本当に助かった。


 ロマイル家はこの国の中央部分。セイジ家は東方。それなりの距離がある。

 数日かけて移動し、今日のお昼過ぎに到着した。

 騎士としての経験から、遠征に慣れてはいるけれど、体力の落ちた身には少し大変で。

 クロード様もそれをわかっているから、今日は休みましょうか、と言ってくれた。

 簡単な荷物の整理ぐらいはしたけれど……。そのあとは、特にやることがなかった。

 ただただじっとしているのも暇だから、自分の部屋でちょっとした遊びをして過ごしていた。


 ダイニングに行けば、クロード様は既に食卓に。

 向き合って座り、一緒に食事を始める。

 今日は休めましたか、明日以降も無理はしなくていいので、と引っ越してきたばかりの私を気遣ってくれる。

 会話の途中、私の名前を呼ぼうとして何度も突っかかっていて、ちょっと面白くなってしまった。


「モカと呼んで欲しいなんて、初日から無理を言ってしまいましたね」

「いえ、その……。嬉しかった、です」

「よかった。じゃあ、敬語も外してもらおうかしら?」

「無理をおっしゃる……」

「ふふ、冗談です。でも、近いうちに、そうしていただけたらと」

「ええ。きっと」


 そこまで話すと、どちらともなく笑みが漏れた。

 交際期間はなし。突然のプロポーズから始まった夫婦生活。

 彼と仕事での繋がりしかなかったころは、任務中の、きりっとした凛々しい表情しか知らなかった。

 でも、こうして家にいるときは、雰囲気が柔らかい。笑顔が優しい。

 こちらが、彼の素なのかもしれない。

 少しだけ不安もあったけれど、クロード様のお人柄のおかげで上手くやっていけそうだ。

 セアナも一緒だし、新居も過ごしやすそう。

 この家について考え始めて、ふと思い出す。


「そういえば……。二階には空き部屋がありましたよね?」

「ええ。まだ空いていますね」


 二階には、それぞれの私室に、夫婦の寝室。

 廊下を挟んで向かい側に空き部屋が数室。

 私たちは結婚したから家族なわけで……。つまり……?


「子供部屋でしょうか?」

「!? ぐっ……!」

「クロード様!?」


 直後、クロード様がげほげほと咳込み始める。

 すぐにそばに駆け寄り、彼の背に触れた。

 どうやら、食事を喉に詰まらせてしまったようだ。

 ようやく落ち着いた頃、クロード様がなんとか、といった様子で言葉を絞り出す。


「とりあえず、一部屋は客室として使おうかと」

「なるほど」


 私は元だけど、お互いに騎士団員で、伯爵家と男爵家の人間でもある。

 お客さんがやってくることもあるだろう。お客さんのための部屋は必要だ。

 空き部屋は……たしか4つ。

 そのうち1つか2つは、お客さん用にしてもいいかもしれない。

 

「では、落ち着いた頃にベッドなど用意しましょうか」

「ええ、そうですね……」


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