第1話
「これで終わりだ、ビーランド!!」
オレはそう叫んで、腰に巻かれたウルトラベルトの右についてるボタンを思いっきり叩く。
『ウルトラチャージ!!』
ベルトからの電子音声を合図に、身体中にパワーが漲る。オレは膝をついた宿敵・邪皇帝ビーランドを見つめる。ビーランドは邪悪帝国エビルインペリアを率い、地球を恐怖で支配しようとした。
たくさんの人が、エビルインぺリアの犠牲になった。みんな、大切な人を失った。そしてまた同じように大切な人を失うことを、そして自分の命を失うことを恐れていた。
だけど、そんな日々も今日で終わる。
万感の思いを込めて、必殺技のポーズをとる。左腕を前に出して、足を開き、前かがみになって腰を少し落とす。最初は自分を勇気づけるためのポーズだった。今は、この世界に生きるすべての人々と、散っていった仲間たちの願いが、オレの背中に乗っている気がする。
「行くぞ!」
できる限り高くジャンプして、右足をビーランドの方へ向ける。
『ファイナルウルトラアターック!!!!』
ベルトが叫ぶ。オレの身体は、光よりも速くなる。ビーランドの身体を貫いた。勢いのまま、採石場の砂利の上を数メートル滑って止まる。
「おのれえ……ウルトライダーあああああ!!!!!」
ビーランドは断末魔をあげ、内部で膨張するエネルギーに耐えきれず爆発四散した。
一瞬の静寂のあと、オレは変身を解いた。
さっきまで曇っていた空が、徐々に晴れていく。日の光が、戦いの終わりを祝福している様だった。
「ヒデオーーー!」
向こうから、オレの戦いを見守ってくれていたヒロコちゃんの叫ぶ声が聞こえる。怪人に襲われての悲鳴とは違う、喜びの声だ。
オレはヒロコちゃんに手を振る。ヒロコちゃんも手を振り返してくれているらしい。でも、もう目の焦点がはっきり合わない。オレの身体は、もうとっくに限界だった。オレはそのまま、膝から崩れ落ちた。
ファイナルウルトラアタックは、名前の通り、「最後」の必殺技だ。オレの命のエネルギーを力に変える。そうしないと、ビーランドは倒せなかった。オレ一人の命で世界を救えるのなら安いもんだ。
ヒロコちゃんの声が、急に悲しみを帯びる。ヒロコちゃんには、この技のことは言ってなかった。ヒロコちゃんは優しいから、きっと反対されると思ったんだ。オレに向かって、何か叫んでいる。でもごめんな。もう耳もダメになってしまったらしい。
走馬灯のように、死んでいった仲間たちの顔が走り抜けていく。
ウルトライオン、立神シシオ。オレの一番の親友だった。オレが倒れそうなとき、真っ先に支えてくれたのがシシオだった。
ウルトライトニング、稲妻ヒカリ。勝手にだけど、オレはヒカリさんのことを姉貴みたいに思っていた。オレが迷ったときは、いつもヒカリさんが道を示してくれた。
海森博士。ヒロコちゃんのお父さんで、ウルトラベルトの開発者。とぼけた人だったけど、オレたちをいつも見守ってくれた。
そして、みんなとの、ヒロコちゃんとの思い出。
みんなと初めて会った日のこと。
みんあで海に行った日のこと。
シシオが、ヒカリさんが、博士が死んだ日のこと。
そして、戦いのすべて。
ヒロコちゃんの、はじけるような笑顔。
ごめん、ヒロコちゃん。一人、置いていくことになる。でも、ヒロコちゃんなら大丈夫だ。ヒロコちゃんには、明日へ進むための勇気と強さがある。
体中から、感覚がなくなっていく。
暖かい日の光の中で、オレは意識を手放した。