幼馴染と水風呂でダラダラしていたら何か付き合う事になった話
茹だる様な暑い夏の日、あまりの暑さに水風呂に入りたくなり準備をして
いざ入浴の段階でふと服を着たまま入ったらどうだろうと思い立ってそのまま入浴してみた。
うん、なんだか違和感……なんだろう浮いてるみたいな、溺れてる様な感覚になるな。
ちょっと立ち上がってみるか。
くっそ重てぇ……Tシャツもめっちゃ貼りついて変な感じだな……でもちょっと癖になるわ。
再び水風呂に浸かり浮遊感を味わう。
「ああ、なんか段々良くなってきたぁ……」
ぷかぁっと浮き上がって天井を見つめていると玄関が開く音が聞こえた。
鍵が掛かってる家に入れるのは両親かあいつしかいない。
両親は出掛けていて帰ってくるのは夕方、という事は来たのはあいつだな。
「おーい!千佳! こっちこっち風呂場にいる!」
足音が風呂場に近付いてくる。そのうちガラっと浴室の扉が開かれた。
「……大地、アンタなにやってんの?」
「いや、呼んだのは俺だけど普通に開けるねお前」
声も掛けずに遠慮も躊躇も無く扉を開け、バカを見ているような顔で見下ろしているのは幼馴染の千佳だ。
合鍵を所有し好きに入ってきていいとうちの親に言われており、自由に入ってきては俺の部屋に入り浸っている。
確かにバカな事はしてるけどそんな目で見なくても良くない?
「アンタだってわかってんだから遠慮するわけないでしょ」
「遠慮がないのは信頼の証だと受け取っておく」
「んで、なにやってんの?」
「暑かったから水風呂入ってんだよ」
「……服着て?」
「うん」
「バカじゃないの?」
うわぁコイツバカだ、って顔すんのやめて。
俺だって傷つくんだぞ!
「はあ……しかたがないか」
「あぁ? なにが仕方がないんだよ」
「バカに付き合ってやるのも幼馴染の務めでしょ。ほら、脚広げな」
「お、おおぅ……」
真っ直ぐ伸ばしていた脚を広げてスペースをつくると千佳は、チャポっと音をたてて足を水面に浸けた。
「ちめたい……」
「今、ちめたいって言わなかった?」
「はあ? だからなに?」
「いえ、なんでもないです」
Tシャツ、ショートパンツの姿のままでゆっくりと俺があけたスペースに腰をゆっくりと下ろして水風呂に浸かっていく。
途中、Tシャツが水面に浮き上がりお腹が見えた。千佳はすぐに手で押さえてこちらを睨む。
……前に千佳のお腹を枕にした時に「お腹ぷにぷに」って言った事を覚えてるようだな……。
そのまま浴槽の底にお尻をつけ向き合うような形で二人で水風呂のなかに。
「うぅ、パンツまで水が染み込んでキモい……」
「そんな無理して入らんでも」
「うっさい」
「へいへい」
▼
千佳は先程から浴槽の縁に片肘をつき手の甲で顔を支えた状態でこちらを無言で見つめている。
足は俺の腹の上に投げ出しており、モゾモゾ動いて少しくすぐったい。
「今日、おばさんたちは?」
「ん? 母さん達か? 夫婦で買い物に出かけたぞ」
「……まあ、知ってたけどね」
それなら聞くなや。
「前から思ってたんだけど」
「なによ」
「お前って割と頻繁に俺の腹に足置くよな」
「そうだっけ?」
「昨日も寝転がって本読みながら、同じく寝転がって漫画読んでた俺の腹にふくらはぎのせてただろ」
「アンタ、アタシ専用の足置きでしょ?」
「はあ?」
何言ってんだこいつ。
千佳は何よ不服なの?と言いたげな様子だが不服に決まってるだろ。
なんだよ足置きって、俺はフットスツールじゃねえわ!
「アンタこそアタシのお腹を枕にしてるでしょ」
「そこは俺専用枕だろ?」
「はあ?」
「ああん?」
そっちが俺の腹を足置きだと主張するなら、俺が千佳の腹を枕だと主張するのだっていいだろうが!
睨み合う様な形で暫く見つめあったが千佳は「バカじゃないの……」と呟くと目を逸らした。
フッ、俺の勝ちだな。
「……大地、なんか面白い話して」
「なんだその無茶振りは……。うーん………何も思いつかん……」
「つかえなっ」
「しゃーないだろ! ほぼ毎日一緒に居たら話題なんて出尽くすわ!」
「そこを何とかするのがアンタの役目でしょ?」
こ、こいつ……謎の主張を繰り広げおって……。
「あー……真っ白い犬はおも「尾も白いなんて言ったら潰すわ」
何を!?
「で? オチは?」
ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべながらオチを催促する千佳。
……フッ。
「尾も白いっ!! アダダダダダダダダッ!!!」
いや!やめて!使い物にならなくなっちゃう!!
アッ!!
―――――――――
――――――
―――……
…
▼
「もう嫌だわ。千佳ちゃんったら暴力的であたし本当に心配」
「気持ち悪いからやめろ、潰すぞ」
「アッ、ハイ」
いやマジで今日はやけに暴力的だな、普段はダルそうにするだけでここまで攻撃性は見せないんだけど。
ツンデレでも学んできたのか? そのツンデレは捨てなさい! 良くない文化だぞ。
「足に変な感触残ってるんだけど、どうしてくれんの?」
いや知らんけど。むしろ俺の方がダメージ大きいんだけど。
千佳は徐に水中から右足を俺の顔の高さまで持ち上げた。
水中から出された彼女の足は水が滴り落ち、水の冷たさで少し赤みがかっていて見ていると妙にドキドキする。
つか、その足を見せ付けてどうして欲しいのよ?
「感触を忘れさせなさいよ。方法はアンタに任せるわ」
おおう。また邪悪な笑顔を……。
ここは足を掴んで前にやった滅茶苦茶痛い足つぼをしてやればいいのかな?
なんとなくだけど千佳もそれを望んでる気がする。
自分がいつもよりおかしいのに気付いて、いつも通りに戻りたいんだろう……うん。
俺は差し出された足をそっと掴む、一瞬ビクッとしたが抵抗は無い。
千佳の方を見れば壁の方を向いている。
足つぼした時の痛みがくることを想定して顔を背けているんだろうな、マジで痛いって言ってたし。
俺はそんな彼女の足をゆっくりと引き寄せると…………その足にキスしてみた。
千佳は想定していた感覚と違う事に驚いた様子で此方に視線をよこし、自分がされた事を理解すると瞬時に足を自分の下に引き寄せて両手で足を抱え込んだ。
おっ、どんどん顔が赤くなっていくな。
「ア、アンタっ! なにを!!」
「感触を忘れさせろって言われたからやっただけだぞ」
「足にキ、キスしろなんて言ってないでしょ!?」
「感触を上書きすればいいと思っただけでーす! これで前の感触は忘れられただろ」
「一生忘れられない感触が出来たわよバカ!」
「良いじゃない思い出が増えて」
「良くないわ!」
涙目で捲くし立ててくる千佳を見てイケナイ感覚を覚えそう……。
俺もちょっと冷静にならねば……なんか寒くなってきたな。
心を落ち着かせていると、途端に水の冷たさが襲ってきた……水風呂に長く入りすぎたかな?
そろそろ出るか、よっこらせっと。
「なっ! ちょっと、どこいくのよ!」
「ん? ちょっと長く入りすぎて寒くなってきたから出るつもりだぞ」
「まだ話は終わってない、座れ!」
「そういわれてもさむ」
「座れ!」
腕を掴まれてどうにも動けなくなった俺はしぶしぶ水風呂に入りなおすことになった。
いや、自覚すると寒いのよマジで。部屋で怒られるから勘弁してくれないか?
俺が座ると同時に千佳が立ち上がった、と思ったらすぐに座った……俺の膝の上に。
そのまま手を背中に回され抱きしめられる。
「……こうすれば寒くないでしょ」
「寒くは無いんだが……」
色々当たってんですけど!?
やわっこいものが滅茶苦茶当たってんですけど!?
どういう状況なのこれ!
「いや、これどういう状況」
「うっさい黙れ」
「えっ?でも話をする」
「黙れ」
千佳に抱き締められたまま、お互いにあれから言葉を出すことも無く時間だけが経過していく。
たまに耳に掛かる彼女の吐息がくすぐったく感じる。
水中でTシャツが捲れ上がり、互いに素肌が当たっている箇所がひどく熱を帯びていくのがわかった。
自分で心拍数が上がっていくのを理解した、それがきつく抱き締められてくる千佳にも伝わっている事も。
こんな事は幼馴染になってから初めてでどうして良いかわからない。
「……大地」
「な、なんだ?」
「今まで散々アンタのバカに付き合ってきたけど。これからはアタシの番だから」
「あ、ああ。別にそれは構わんけど」
確かにバカな事をやる度につき合わせてる自覚はあるしな。
なにかやるなら付き合うさ、買い物の荷物もちでもなんでもござれ。
「アタシと付き合ってもらうから」
「ああ、うん」
ん? アタシと??
「えっと、『アタシと』ってそれってぇアダダダダダダ!! ギブギブ! 苦しいから!強く抱き締めるな!」
「うっさい! ……察せバカ」
「お前、何でいつもと様子が違ったの?」
「……おばさん達がいないって知ったからよ」
「? 母さん達がいない事なんて今までもあっただろ?」
「……事前にいないの知って色々考えちゃったからよ!悪い!」