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ザキの決意としくじり

兄ぃの言葉が頭を何度も何度もよぎる。


「お前にしか頼めへん事や。」


兄ぃは俺が高校中退して、街で愚連隊作って暴れまくってた頃に知り合った。


当時の俺は自分でも笑ってまうくらいどうしようもないガキやった。


噂が噂を呼んでまともに仕事もさせて貰えんし、俺自身まともな仕事に就く気もなかった。


そんな時声掛けてくれたんが米良の兄ぃやった。


兄ぃは厳しかった。礼儀はもちろん、シノギのイロハ、

ヤクザとはなんたるかを文字通り体に叩き込まれた。


今の俺があるんは兄ぃがいたからや。


その兄ぃに受けた恩、ここで返さな男が廃る。


そう言い聞かせた。


覚悟はしていた。


ヤクザとして生きていく以上いつかは誰かを殺すかもしれん、殺されるかもしれん。


覚悟は出来てたつもりやった。


しかしいざ拳銃を手にして、殺す相手を頭に思い浮かべると、体が震えた。


やらなあかん。やらな俺に先はない。


いつもなら3杯も飲めば顔が真っ赤になる酒も、この日ばかりはいくらあおっても酔わへんかった。




コンコン


俺はアパートのドアを叩いた。




ガチャりと鍵が開く音がして、扉が開き女が俺を出迎えた。


「ただいま保伊美(ほいみ)


「なぁに、飲んできたん?」


「あぁ、兄ぃに呼ばれてのォ。」


「来るなら来るって電話してや。」


「ええやんか」


保伊美は俺の女や。

兄ぃが経営しとるキャバクラで働いてる娘に俺が一目惚れして口説き落とした。


大したシノギも持たない若衆の俺は、兄ぃと保伊美に養われとるようなもんやった。



保伊美はええ女や。


俺みたいなヤクザに尽くしてくれるし、器量もええ。

今まで散々迷惑もかけた。

俺はこいつを幸せにしたいと思うてる。


「保伊美…いつも迷惑ばっかりかけてごめんなぁ」


「なぁにかしこまって。酔うてるん?」


「あぁ、酔ってるかもしれん。わからん。」


「なあにそれ」


「保伊美…もう少しや、もう少ししたらでかいシノギが決まるから、そうしたらお前にええ思いさせたるから」


「どうしたん…なんか変やで」


俺は保伊美を抱き寄せた。

怖さをまぎらわせたかったんかもしれんし、俺が今から若頭のタマをとるのはコイツのためやって、正当化したかったんかもしれん。


ただ、この不安な気持ちが宙ぶらりんになっとる今、コイツの存在がたまらなく愛しかった。


その日は保伊美を抱いて、寝た。





朝が来て、俺は保伊美の家を出た。


今日、俺の運命は変わる。


しょうもないヤクザは今日で卒業や。

今日俺は生まれ変わる。


拳銃を車のダッシュボードにしまい、俺は兄ぃからの連絡を待った。



兄ぃからの連絡が来たのは夕方やった。


「おぅザキ」


「お疲れ様です、兄ぃ。」


「若頭やけどな、どうやらもう組長(オヤジ)と別れたそうや。店に着くんは20時頃やろな。」


「わかりました。店はどこの店でしょうか?」


「ミナミのルイーダっちゅうスナックや。今日は定休日やが、若頭のために臨時で開けとるから他の客も女の子も居らへん。そこのママごといってまえ。」


「ママ───────もでっか?」


「当たり前やろ。見られたらどないすんねん。元も子もないやろ。」


無関係の人までやるんか。


ええんかそれで。


喉の奥がえずきそうや。

保伊美の顔とか、若頭の顔、兄ぃの顔、色んな場面が頭の中でひっちゃかめっちゃ動きよる。


テンパってるわ俺。


「おい聞いとんのか」


「はい。」


「ええな?頼むで?」


「…」


「もう後には引けへんぞ?」


「わかってますよ兄ぃ。」


「ほんならまた。終わったらいつもの店に来い。木有(きあり)砂鳴(しゃなく)も呼んどる。」


木有と砂鳴は俺と同じ若頭に面倒見てもろとる、所謂兄弟や。


「はい。」


「ほな頼むわ」


まるでタバコでも頼んだかのように、気楽に兄ぃは電話を切った。


こっちの気持ち知らんと…いや、あかん。これからも兄ぃに世話になるんや。余計な事考えたらあかん。


俺は気付いたら雑居ビルの屋上におった。


うちの組がシノギで出しとる店がいくつも入ったビル。


俺はここでタバコ吸うんが好きやった。


惨めな下っ端生活に嫌気がさすと、この屋上で大阪の街を見下ろす。


どんなお偉いさんでも、この場所から見下ろせば豆粒に見えて、自分以外もみんな豆粒みたいに思えて、なんちゅうか、そうやって自分に言い聞かしとった。


兄ぃとの電話を切って何分くらいたったやろうか、物音が聞こえた。


音の先には、高校生やろか、制服を着たガキがフェンスの向こう側におって、じっと下を見つめとった。


「おい、自分何するつもりや!」


気付いたら声をかけとった。


何するつもりやもクソもひと目で分かる。このガキは今ここから飛び降り自殺しようとしとる。


「ほっといてください。」


ガキはちっさい声でそう答えた。


「なんや死ぬんか」


「……」


よく見れば制服がえらい汚れとって、顔にも痣が見えた。


「イジメか」


「ほっといてください。」


なんや陰気なガキやな、そら虐められるわ。


「死んでどうすんねん。お前が死んでもな、いじめる奴なんか何にも変わらんで。少し大人しくなって、ほとぼり冷めたらまた似たような奴見つけて同じこと繰り返しとるやろな」


「…関係ないじゃないですか」


「何なんですか。僕が辛くて助けて欲しい時、誰も彼もみんな見て見ぬふりしといて、いざ僕が死のうと思ったら近付いてきて───────もう嫌なんですよそういうん。僕生きるの向いてないんです。」


「そんなもんやろ」


「は?」


「生きてりゃ色んな理不尽あるやろ。誰も彼もみんな理不尽と戦ってんで。」


「知ったふうな事言わんで下さい!」


怒った。そらそうやな、死のうとするまで追い詰められて、やっと決心した矢先にわけわからんチンピラに説得なんされたら俺でもキレるわ。


「まぁ分かんで。お前の人生やからな、他人の人生と比較されて、ほんで「みんな頑張ってんねんからお前も頑張れ」言われても知らんわな。お前の人生やもん、辛さも悔しさもお前にしか分からんし、それは他人と比較出来るもんでもない。」


「でもな、お前の人生やけど、その人生にはきっとお前が思っとる以上にたくさんの人が関わっとるんちゃうか?親、友達、先生、先輩後輩ぎょうさんおるやろ?」


「そんなの…だからって…我慢出来ひん…もう限界なんです。」


「別に我慢せんでええよ。ただそのやり方変えてもええやんか。」


「やり方?」


「死ぬっちゅうやり方や、死のうと思えばいつでも死ねるやろ、その覚悟があんねやろ?」


「ほんならその覚悟持って、一発かましたれや。いじめるヤツらに。お前は死ぬっちゅう覚悟ができとるんや。そんなガキ中々おらんで、せやからやり返されようが腹に蹴り入れられようが、思いっきりぶちかませ。道具使ってもええ。お前は「やる奴」やって思わせんねん。」


「今までやられた分全部精算したるくらい思っくそやったんねん。」


「そんな事…仕返しされたら…」


「死ぬん怖ないのに仕返しが怖いんか?」


「あいつらは限度知らんのですよ」


「そんでもええやん。それであかんかったら俺を頼れや。珠文組の山崎の名前出してええ。」


「えっ…ヤクザやったんですか?」


「ま、まぁの。」


「…。」


「僕でもやれるんですか?」


「お?」


「ホンマにあかん時、助けてくれはるんですか?」


「あぁ、えぇよ。なんかあったらここに電話してこいや」


そう言って名刺を渡した。


子供相手に俺は何してるんやろか。今から人殺す男が何を偉そうに語っとるんやろか。


きっとアレやな、今から人を殺してまうからこそ、救えるもんは救っといて、そうやって自分の心騙してるんやと思う。


ふと、時計を見た。


19時55分。


あかん、若頭が店についてまう。はよ行かな。


俺は急いで若頭が居るっちゅうスナックへと向かった。


20分ほど車を走らせた。


もう若頭も酒飲んどる頃や。


夜のミナミ、人でごった返しとって、うるさくてたまらんハズやのに、自分の心臓の鼓動が直に聞こえるようやった。


緊張しとる。そんなん当たり前や。


今から拳銃(コレ)で、人を殺す。


足も震えてきた。


後には戻れん。


走行しているうちに、店の前にたどり着いた。


なるほど、繁華街の地下。ここなら拳銃よ音も漏れへん。


ドアに手をかけた俺は、足がすくんだ。


一歩、あと一歩で店や。


この一歩がとてつもなく重たい一歩やった。

思えばさっきのガキも同じような一歩を踏み出そうとしとったんやな。

大したガキや。



俺も覚悟決めなあかん。



フーーーーーッ



フーーーーーッ!!


よし。


俺は扉を開けた。


奥の方からママらしき女が出てきた。


「すんまへん。今日は貸切なんや。」


そう言った。

そうか、その奥に若頭がおるんやな。

丁度良く、柱の影に隠れて死角になっとる。


俺は拳銃(チャカ)に手をかけた。


「ちょっ、お客さん!?なんなん!?」


俺はママを突き飛ばした。


「スマンが死んでくれぇ!!!」


俺は奥へ身を乗り出し拳銃を突き出した。








おらん。


誰もおらん。


なんでや?兄ぃの情報は間違っとったんか?

なら若頭はどこや?ここちゃうのか?別の店か?


頭の中でグルグル色んなことを考えとったら、後頭部に硬くて冷たいモンを突き付けられた。


「ワシになんか用か」


若頭の声や。おったんか。ここに。


───────そうか、トイレか。しくじった。おしまいや…。どないにもなれへん。


振り返らなくても分かる。俺は今若頭に拳銃突きつけられとる。


「ん?お前…よう見たらウチの若いのやのォ。」


何も言えへんかった。

口開けたら食ったもん全部出てきそうやった。

こめかみの当たりがサーってなるのが分かった。

血の気が引くってこういう事なんや。


「おい、誰の指示で来たんや。」


「恨みは色んなところから買っとるが、相手が身内なら…米良か?そう言えばお前米良によう面倒見て貰っとったのォ。」


「おぉ!何とか言わんかいワレ!!」


バキンッ!!



!?!?


殴られた───────か?真っ白になった。


「米良に言われて来たんやろ?」


若頭が俺の目の前にしゃがみ込んだ。


拳銃は真っ直ぐ俺の額に突きつけられとる。


「言え。お前に空気入れたんは米良やな?」


すんません兄ぃ。


ダメやった。


でも、死んでも兄ぃは売らん。

そこまで腐ってへん。


俺は俺でついて行く人を選んだんや。


裏切れへん。




「前からお前が気に入らんかったから殺しに来たんやボケェ」


俺がそう言うと若頭はニコリと笑って引き金を引いた。


「残念や」





パァン




終わった。ごめん兄ぃ。ごめん保伊美。俺は死んだみたいや。

なんも出来んと、勝手に死んでもうてすんません。



死ぬんか、俺。


あぁ、目の前白なって来た。



天国行くんかな?んなわけないわな、俺ヤクザやし。


えぇよ。


先行っとりますね兄ぃ。


「おい起きろ!!」



起きろ?何言うてんねんこちとら死んどんねん。


ていうか誰や。女の声??


俺は目を開けた。


そこには何も無い、白い空間が広がっていた。



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