第1話「突然のマイメロ」
職場のビルに着くと喫煙所に直行する。それが俺のモーニングルーティン。
仕事に集中するためにはひとまず一服しなきゃ始まらない怠惰な喫煙者なのである。
一時期はコロナの影響で喫煙所が閉鎖されていて死活問題だったが、人数制限等の喫煙所ルールが制定されて再開された。再開されたときは涙がでた。
ガシャン!と前でタバコを吸っていた人がスマホを落とし慌てて去っていく。
去り際に「おはようございます」と言ったような気がする。
(ん?)ぺこり
見慣れない女性に挨拶された?勘違いかな。。。自意識過剰はよくない。。
けど一応お辞儀だけはしておく。日本人的な行動だ。
その日も適当に仕事をしてそろそろ16時を過ぎた。
今日何度目の休憩かわからないがコーヒーを飲むためTully'sへ行く。
アイスコーヒーを飲みながらTikTokを楽しむのだ。
15秒や60秒の短い動画は気分転換にちょうどいい。
大抵の動画は音楽にあわせて踊るといったチープなものだが、音楽に合わせて自己紹介のテキスト表示をしたりして工夫しているものもある。
また、TikTokで使われる曲はキャッチーな曲が多くて嫌いじゃない。
昔で言うところのMAD動画に通ずるものを感じる。
TikTokの感想は良いとして、俺は15分ほどTikTokを見たあとスマホをポケットにしまった。
これが後の惨劇の始まりである。この時はまだ誰も知らない。
仕事に戻り残務を処理していく。
一時期に比べかなり仕事量が減っていて気が抜けているのが正直なところだ。
働いているフリをしているといっても過言でないほど怠惰でしかない。もし以前のように働けと言われても今は自信がない。
そんな時ポケットから音がした。
「どうかにゃ?♪どうかにゃ?♪どうかにゃ?♪クロミちゃん!マイメロなんだけど?♪」
TikTokでよく使われている曲だ。主に地雷メイクをしているメンヘラぶった子や本当のメンヘラの子が使いがちな曲。
なぜかそれが聞こえてきた。
(いやいや、俺のポケットから流れてるやん!)
そう、俺のポケットからマイメロちゃんが流れてるのだ。
(やべやべやべぇ)
辺りから不穏な視線を感じる。
注目の的だ。こんなことで注目を浴びるなんて屈辱でしかない。
俺は慌ててポケットからスマホを取り出そうとする。
ただ焦れば焦るほどにスマホはポケットから出てこないんだ。
そして2回目のループ。オワタ。。。
スマホをロックし音楽を止めた。念のため再生ボリュームもミュートまで下げた。
もう笑うしかないから自ら進んで笑いつつ「すいませーんwwww」と謝っておいた。
そうすると周囲も「ナニそれwwww」的なノリで笑ってくれる。
(ふぅ・・・)
何とかその場をしのいだ。