ハニトロン
僕、カムカム。ハニトロンだよ。
普段はいろいろな植物を咀嚼して、汁や蜜を食べて生きている。
そうすると、銀色の美味しいサラサラ水ができるんだ。サラサラ水が身体の中になくなっちゃうと、僕らは死んでしまうから、たくさんの植物をモグモグするんだよ。
ある日、僕らは住処をグッドラッグ畑に移すことになった。
グッドラッグのお花は他のお花よりも甘くて美味しい。それに、サラサラ水がたくさんできる。
ここに移ることができてよかったなあ。
「カムカム〜」
あ、リーナだ〜。
「回復アメある?」
『あるよ〜』
回復アメっていうのは、サラサラ水を作る時にできる塊なんだけど、人間はあれが欲しいんだって。
他の植物だとトロっとした液体ができるんだけど、グッドラッグだけは塊になる。
リーナはそれを回復アメってよんでるんだ。で、こうして時々取りにくる。
僕らにとってはサラサラ水の方が貴重だと思うんだけど、人間にとっては塊の方が貴重なんだって。
「そういえばこの間、お手柄だったんだって?」
リーナが頭を撫でこ撫でこしてくれる。
『あの人達「お前らの持っている貴重な物を渡せ」って剣を突きつけてきたから、貴重なサラサラ水をたくさんあげたんだよ。なのに、たくさん飲んだら勝手に倒れちゃったんだ』
「サラサラ水?」
『うん、コレ』
「こ、これ?」
サラサラ水を見たリーナが、コレ水銀ジャナイヨネって頭を抱えた。
サラサラ水が水銀みたいなものだったら、人間にとっては毒になるんだって。
こんなに貴重な命の水が毒になるなんて、人間って変わってるなあ。
「毒ってどれのことだい?」
ヒョコっと現れたのはカイだ。
僕、カイのこと少しコワイ。
「びっくりしたあ!急に現れるんだもん」
リーナはそう言うけど、僕らは驚かない。リーナのつけているブレスレット、宝石の一部が黒魔石だ。要するにカイの支配下にある石だ。
リーナの周りに不穏なことがあると、どこにいたって飛んでくるのがカイなんだけど、気づいてないのかなあ。
「この銀色の水みたいなのがね、カムカム達の命の水なんだって。けど、私達が飲んだり吸ったりすると死んじゃうこともあるんだよ。たぶん」
リーナがサラサラ水をツンツンしようとしたら、カイがリーナを拘束した。
「それ、毒なんでしょう?なんで触ろうとしてるの?」
カイが笑えば笑うほどコワイと思うのは、僕だけじゃないみたい。僕以外の仲間が巣穴に戻ってしまった。
置いていくなんてひどいよ、みんな。
リーナの目も泳いでいる。
「それとも俺の目の前で触るとか、心配してほしいのかな」
黒い何が出ているよ!黒い何が出ているよ!
リーナは気づいてないのかな?!カイの腕の中でコテッと首を傾げた。
「心配させてごめんね。でも少し寒かったからぎゅっとされるとあったかいね」
ありがと、ってリーナが見上げたら黒いのがシュルシュルル〜と無くなった。
巣穴からみんなの頭が出はじめて、こっちの様子を伺っている。
「じゃ、じゃあもう少しこうしてるか」
寒いんじゃ仕方ないよなって、そのまま座り込んだ。
カイの足の間に座ったリーナがハート飴を作り始めて「食べる?」ってカイに差し出してる。
カイが元気いっぱいになったら困るのリーナだと思うんだけど、やっぱり気づいてないみたい。
巣穴から出てきた仲間が、ハート飴を作り始めたリーナのところに塊を運び始めた。
この塊、ハート飴になると僕らのケガや病気が治っちゃうんだよ。だから塊はリーナにあげるの。
だけど、大好きな形っていうハート飴をもらうには、カイの目がないところじゃないといけないんだ。リーナの大好きはカイのものなんだって。
銀の女神が死と再生をもたらす女神と言われるようになったのは、サラサラ水とハート飴が深く関わっている、ってやっぱりリーナは気づかないんだろうね。